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第1章「……はあ?!」第1話 「軍政官閣下?」

今回はエタらない('ω')

モニターの右上で、数字が踊る。


石炭備蓄――75万1246トン。

      75万1245トン。

         1トン減


トン単位で増減するのは珍しいことではない。


都市は大飯食らいである。発電所は石炭を使い蒸気でタービンを回し、工場は連なる煙突から黒煙を吐き出し、機関車は貨車を引いて走る。六十万の人口を抱えた都市が一日動けば、膨大な資源が消費されていく。


男はマウスホイールを転がした。


石炭の在庫グラフが消え、代わって食料備蓄量が表示される。


小麦、馬鈴薯、根菜類、肉類、飼料、缶詰、保存食などなど。


どの項目も不足はない。


むしろ、ゲームとして見れば十分すぎる量だった。


オンライン戦略ゲーム《World of War》。


プレイヤーからもっぱら《WoW》と略称で呼ばれている。


ゲーム開始時点は1900年。


そこから200年の歴史を、現実の4年間で駆け抜ける。


ゲーム内時間に直せばおよそ50倍の速さで都市の発展を見守ることになる。


交易をし都市を富ませ、技術を研究し兵器を開発し、都市を育てより強力な軍隊を保有する。軍事力は勢力圏の拡大や”異形“と呼ばれるエネミーに対処するために用いられる。


そして2100年を迎えれば、すべてがリセットされ、また1900年から新しい歴史が始まる。つまり、現実世界の4年毎に俗にいう「ワイプ」が行われる。


画面左上には、見慣れた都市名が表示されている。


都市名: FIDELIA(フィデリア)NOVA(ノヴァ)



今期のフィデリア・ノヴァは、ゲーム内で1918年の冬を迎えようとしていた。


男は資源一覧を閉じ、都市概況へ画面を戻した。


 人口60万余。


 失業率は低位。


 治安、良好。


 電力供給、安定。


 鉄道輸送、異常なし。


ゲーム初期の物資不足を思えば、今は随分と安定している。安定したがゆえに物足りなさはあるが、緑色で表示される数値は達成感を与えてくれる。


画面の隅では、煙を吐く蒸気機関車が小さな貨車を引きながら北部操車場へ入っていく。


その背後では煤煙に霞む工場街。


さらに遠くには、冬を目前にした灰色の空が広がる。


よく作り込まれた背景だった。


もっとも、長く遊べば遊ぶほどいちいち背景なんぞ眺めることもなくなる。


男が気にするのは、背景に重なって表示される数字だけだ。


画面右側には、現在開催中の軍政会議を示す小窓が開いていた。


 20人は座れるであろう長机。


 壁に掛けられた巨大な市街地図。


 書類の山。


 パチパチと小気味よく音を立てる暖炉。


 そして軍服姿の男たち。


 中央には空席が一つある。


もちろん、自分――プレイヤーである軍政官の席だ。


会議そのものをいちいち操作する必要はない。


政策画面を開けば、背景で参謀たちが勝手に書類をめくり、ときおり厳つい顔をした将校たちが口を動かし、煙草を燻らす。ただそれだけの演出である。


男は気にも留めず、次の項目を開いた。


 《戦略備蓄》


 六か月。


表示された数字を見て、男は小さく眉を寄せた。


決して少ないわけではないが、少し心許ないと思ってしまう。不思議な飴やマスターボールを最後まで取っておく派にとって、満足がゆく備蓄など存在しないのだ。


しかし、都市全体が完全に孤立した場合を考えるなら、もう少し積んでもよかったかもしれない。


――まあ、そんな状況になることなんてないけどな。


そう思いながら、男が次のグラフへカーソルを動かした、その時だった。


「――軍政官閣下?」


マウスを持っていた男の手が空を掻いた。

遅筆です。年単位でお待ちください。

応援してもらえると早くなります。

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