第4話
あれから約1ヵ月が経った。学校は教師も沢山死んだがいつまでも学生に授業を行わないのは問題だ、という理由で急ピッチで学校は授業を再開して学校生活に戻る。教師や大人達は相当に無理をして行動に移しての実現なのだと思う。社会人になって仕事をするというのは甘くない。時と場合によっては出来ない事でもやりきらないといけないのが社会で働くという事だ。そしていつかは僕もそっちの側になって社会人として働く事になる。それが周りのほとんどの人がノンオリジナルなのに対して僕はオリジナルであってもだ。
そしてあれから僕はいくつか変わった事がある。
1つ目は奏たちプレイス オブ ソーレスのメンバー全員を下の名前で呼び捨てで呼べるようになった事。以前の僕からでは絶対に考えられない変化だ。何せオリジナルだったために周りにとけ込めずずっと浮いていてまともな人間関係を築けた事が無いからだ。勇気と麗さんが初めての友達でそれまでは友達ができたこと事態が1度も無かった。勇気の事は下の名前で呼び捨てで呼べていたがそれが出来たのは勇気だけだったし、奏のような自分より年齢が上の人やグループ全員で4人全員を下の名前で呼び捨てで呼ぶ事は絶対に出来なかった。
2つ目は僕はオリジナルとしての能力であるXPSを得意不得意はあるけどほとんど全部をある程度使いこなせるようになった事。
3つ目は僕は自分ではどんなに周りと同じようにしているつもりでも周りから浮いていて周りにとけ込めないけど、どんなに周りから浮いていても人と関わりたいと思ったら周りに迷惑を掛けない範囲で自分から進んで積極的に人と関わって接していかないといけないと思えるようになれた事。今でも怖気つく事はあるけど自分でも信じられないくらい積極的に行動出来るようになった。
今日も学校に向かうため電車を乗り継ぐ。
この1ヵ月間いろいろな事が起きすぎたし変化も沢山あって現実味が無かったからなのか長かったようで短かった、短かったようで長かったという時間の経過が体感含めて上手く自覚出来ない。
学校に着きスニーカーから室内用シューズに履き替えて自分の教室に向かいそのまま中に入って自分の席に着く。教室に入った時に1番に目に入って思うのはクラスメイトが凄く減ったという事だ。オリジナルに殺されてしまったクラスメイトがかなり多く、沢山の人が死んでしまったというのが嫌でも認識させられる。勇気と麗さんだけでなく最後までほとんど関りの無かった人達でも死んでしまった事を認識すると1カ月経った今でも目に涙が浮かぶ。
気を紛らわすためにスマホで今日のニュースに目を通して情報を仕入れる。やっぱりスマホでニュースを観ていると心が少し落ち着く。そうした事をしているとその少し経ってから僕の後ろの席の男子が自分の席に着く。僕はスマホから顔を離してその男子生徒の顔を見て「おはようございます!」と挨拶をする。
「おう。おはよう」その男子からしたら軽い挨拶を返した程度の認識でそれで僕と友達になったという認識はしていないのだと思う。それでもこうして挨拶は返してくれるし、こちらから話題を振れば嫌な顔もせずに話題に乗ってもくれる。少なくても僕に対して悪い印象はもっていないみたいだ。
「今日のニュース観ましたか?本当に感覚をそのゲームやバーチャル空間にダイブさせる研究が始まっているみたいですよ」と話題を振る。
「へえー、マジでそんな事って出来るんだな。でもそれ感覚をバーチャル空間に移していて元の身体に戻ってくる時の事故とかあったら取り返しの付かない事態になるんじゃね?」当然の疑問とそこからの感想が返ってくる。バーチャル空間に意識を移すのも相当な事だがそこでの事故でどうなるのかは皆危険視しているし、研究している制作者側も意識を移す以上に課題を感じている事だと思う。
「ですよね。人間の進化と技術の進歩は凄まじいですけどほとんど不可能な事ですよね。特に安全面も考慮すると尚更無理があるって言いますか」
「それな」
そんな軽い会話をしていると予冷が鳴りそれまで各々自由に行動していた教室内の生徒達は全員自分達の席に着く。以前だったら教室の後ろとかで女子の一種の派閥とも言えるグループが出来ていて話していたりもしたけど今はその人数も減ってグループと呼べるほどの人数には達していない。
新しく担任になった先生が教室に入ってきて「ホームルームを始める。今は辛くて大変な状況だから日直はいい。先生が全部進めるからそれをよく聴いてくれ」と先生だけでホームルームを進める。先生は直接言わなかったが辛く大変な状況に加えて生徒の数が減ってしまったのでそこに気を遣っていただいて日直は今はしなくていい、と言ってくれている。先生達の方が早すぎる学校の授業再開にその生活の立て直しなど忙しいはずなのにそれを生徒にぶつけたり不満を当たり散らさない。それどころかこうして気まで遣ってくれる。この学校の先生方や関わる大人達は人として出来た方だなぁと思う。
「大変な状況だし辛い思いも経験もしたけど、それでも君たちは勉強しないといけないしそんなに長期間休む事も出来ない。特に今という学生時代は1秒1秒が貴重な時間であり大事な期間だ。君たちはその貴重な時間の中で今生活をしている。これは今はなかなか実感が湧かないかもしれないがそんなに後になってから気付くという訳でも無い。大人になる前に大多数の人はその事に気付けるだろう。特に2年後の受験生になれば嫌でも身に染みて自覚する事になる」ホームルームの時間を削ってでも先生はその事を僕たちに教えてくれる。
ホームルームが終わり授業が始まる。ちなみに体育などの一部の教科はしばらく中止との事だ。生徒の数が減って体育の授業が機能しなくなっているのとこんな時にまで体を使ってアスリートを目指している訳でも無い生徒達に運動させたりスポーツをさせるより国語や理科などの座学の教科を優先して教えるべきとの事だからだ。よく単純な人は身体を動かしていれば嫌な事を忘れられて気が紛れると言うけど、実際はどんなに身体を動かして汗をかいても嫌な事は全く忘れられないし気分転換にもならない。
人間は単純な生き物なのかもしれないけどそれと同時に単純な生き物ではない。一種の矛盾を持った生き物だ。
午前の授業を終えて食事の時間となる。
僕は今まで親が作ってくれていたお弁当から自分で作るようになったお弁当を机の上に広げる。料理は意外と楽しいという人が結構いるけど僕は料理を楽しいとは思えなかった。元々食にあまり興味が無いのと料理をするのは1時間とか3時間とか掛かるのに食べている時間はせいぜい30分前後。明らかにタイパが悪すぎる。僕達今の10代はタイパをかなり気にして重要視する。その観点から見ると料理はタイパが悪すぎるし、仮に作る工程自体が楽しいと思える人がいたとしても食べてしまえばそれで終わり料理は無くなってしまう。時間を掛けて作っても最終的に形にも残らない。では何故僕が最近自分で料理してお弁当を作るようになったかというと自立したかったからだ。この世界で何でも出来るようになりたくて1人でも生きていけるようになりたいと思った。友達を頼らないという訳では断じて無くて、この世界の事を知った事で自分の可能性を広げたくなったというのが正しい表現だ。つまり今までは勉強の大切さを知って勉強に真面目に取り組んできたけど勉強以外の事にも向上心を持てるようになったという事だ。
学校は疲れるけど勉強などの学ぶべき大切な事を学ばせてもらえる。僕は私立の中学校に通っているけど、中学までは義務教育で皆が平等に一定レベルの授業内容を平等に受けられて学ばせてもらえる。この義務教育制度は日本という国で1番素晴らしい制度だと僕は思っている。大人になってから学ぼうとすると学費も全部自分で払う事になるし、何かを教えてもらうのは実際はもの凄くお金が掛かってそれを行う事が大変で難しい事だ。それを僕たち子どもは15歳の中学生まで、多少と言うと失礼だけど親もお金を出したりはしてくれても原則的にはタダで当たり前の権利として授業を受けられて勉強を教えてもらえる。
今日のホームルームで先生が言っていた貴重な時間の中で今生活をしている、というのはそれも含まれていると思っている。時間は常に消費して戻ってこない。タイミングを逃してしまったら元の状態に戻すのは相当に大変だし、相当な時間を棒に振って無駄にしてしまう。
今日の授業を終えて部活の時間になるが僕は帰宅部だ。
普通の県立中学校なら部活に打ち込む事も重要視してくるけど僕の通っている私立の中学校は部活部活とは言わない。部活動より勉強の方が大事だからだ。それでも学校として部活の制度自体を無くす事は出来ないし取り入れる事にはなる。そして部活を取り入れるのなら当然その中で良い結果を出させようと形だけの活動ではなくて真面目に行われる。 だけどそれがメインではないし、部活の時間に先生たちがプラスで勉強を教えてくれる取り組みも行われている。
ただし、今までの僕はそれも受けずにいつも自宅に帰って自室で勉強をしていた。
理由は簡単で周りにとけ込めなかったから皆と一緒に何かをするのに引け目を感じてしまっていて場が気まずかったからだ。自室で勉強する方が全然集中できた。
だけど、最近はこの取り組みに参加して勉強をする事を始めた。人と関わる事への積極性が生まれた事で皆と一緒に勉強をする事が以前ほど苦にならなくもなった。やっぱり周りから浮いてはいるけど。
部活の時間に行われる勉強も終えて帰路に着く。
家で親の作ってくれた料理を親と一緒に食べている時に「最近無理していない?」と心配そうな顔でそう訊かれた。
あんな事があったんだ。親なら心配して当然だよね、と思う。というより親でなくても普通は心配する事が実際に起きたんだけど。だけどそれを当然と思ってはいけない事も理解している。人の優しさに甘え慣れて親切にされる事を当然と思ってはいけない。それが例え親に対してであっても。
お風呂にも入り終えて自室でDGSを操作しているとちょうど連絡が入る。奏からだ。
電話ではなくてメールで連絡が入る。
内容は最初に緊急と書かれていて拠点に来て欲しいとの事だった。
僕はそれを見てDGSの帰ってくる座標を自分の部屋にセットしてワームホールを開いてレギオン、プレイス オブ ソーレスの拠点に向かう。いちいち外に出なくても目的地に行けてしまうのは凄い便利だなぁと思う。
ワームホールの通過地点から拠点であるプレイス オブ ソーレスに着き、それとほぼ同じ時間にメンバー全員が集まる。
奏は「こんな時間にすまない」と言いすぐに本題に入る。
「今朝、俺の家の郵便受けに手紙が送られてきた。差出人は書かれておらず、その代わりに集団名が書かれていた。集団名は『サティスファクション』。あの時選人、君の通っている学校を襲った過激派のレギオンだ」僕の目をハッキリと見てそう言う。
僕の通っている学校を襲った、と言って、僕の友達を殺した、とは言わないのは気を遣ってくれているからだ。
だけど僕は1つ疑問が浮かぶ。郵便受けに手紙が入っていたのは今朝だと言った。だけど緊急との連絡が入ってこうして集まったけどもう既に17時近い。もっと早く連絡をするべきだったのでは?と思う。
「内容は、俺達の大事な仲間を殺した事への報いを受けてもらう。お前らのレギオンと俺らサティスファクションで戦争という名のゲームの始まりだ。当然お前らに拒否権はねぇ。このゲームの開始時刻は3日後の0時ジャストだ。場所は一緒に入れてある地図に記しておく。それまでせいぜい出来る範囲の準備をしておけ。逃げても無駄だからな。との事だ」
僕は「3日後だから今朝郵便受けに手紙が入っていたのに今日の17時近くに緊急連絡を入れたんですね」と訊く。
「ああ、そうだ。3日も日数があるのなら今朝手紙が入っていてもそれですぐその場で連絡をする必要はないと思った。今日の丸々3日間あっても17時頃であと2日と7時間でも実際に出来る事は大して変わらない。それなら学校での生活や皆の予定を壊してまで招集するのも悪いと思ったからだ」
僕は次の疑問をぶつける。「その3日後というのは信用できる情報で相手のほうはそれを絶対に守ってくれるという確証はあったんですか?」
「守るだろうな。間違いなく」明が答える。
「相手さんは戦争という名のゲーム、と言った。その上で3日後という現実味のある期限だ。おそらくあいつらは仲間を殺されて怒り心頭はしていてもこれを楽しむためのゲームとしても見ている。ゲームにはルールが必要だし、ルールの通りに始めてこそゲームは楽しくなる。ルールを無視したゲームは最初は楽しいかもしれないがだんだん何でもありになって不正もし放題になると全く面白くも無くなる。だからあいつらはルールを絶対に守ってくるはずだ。それで自分達の命が危うくなるみたいな不都合でもない限りはな」
「その通りだ。俺もそう思って今こうして行動している」明の考えを奏は肯定して自分もそう考えたと言う。
「あと、なんで奏があのレギオンの連中を殺したことを知っていてその奏の住所を知っているんですか?そもそもあの連中は奏たちが全員殺したはずでは?」疑問をぶつける。
「おそらく、あの場にいたのが全員ではなかったのだろう。それ以外はどうやって俺達の存在とレギオンを知ったのかは謎だ」
一呼吸して「明、わかるか?」と訊く。
僕はそれに驚き「奏にもわからない事を明にはわかるんですか!?」と訊いてしまいすぐに自分が凄く失礼な訊き方をしてしまった事に気付き謝ろうとするが明がアイコンタクトで気にするな、と伝えてくれる。言葉にしてしまうと同じ事を伝えるのであっても角が立ってしまうし、空気も悪くなってしまう。気を遣ってくれている。
奏もそれをしっかり見ていて「なにも俺は天才という訳ではない。わからない事も沢山あるし知らない事の方が多くて大半だ。そして明は特異体質から今まで何百、何千と人の考えと心を共感覚で体感して実際に読んできた。そしてそういった人達がどういう時にどのように考えてどう思うのかのデータは普通の人の何百倍と持っていて知っている。俺よりそうした事への読みが鋭い」冷静にそう説明をされる。
「まあ、ハッキリと言って俺は頭脳では奏には敵わないけどな」と言い「仲間が殺されて怒り心頭なのにこの争いをゲームと言ってきたり、やたらそのためのルールを決めてそれを楽しもうとする考え方と思考回路。あと、これは選人は知らない事だけど何故、俺達がこいつらサティスファクションが選人の通っている学校を襲撃した事に気づけて向かう事が出来たのか、まだ話していなかったがあの時はサティスファクションがDGSだけに繋がるように設定して開始10分前にこの学校を襲撃してタイプノンオリジナル達を殺すって大々的に宣伝していたんだ。俺らはその宣伝を観て急いで駆けつけたって訳だ。そしてそれらのデータを併せて読むとおそらく、ヘルメットの中にDGSを入れていてそのカメラ機能でタイプノンオリジナル達を殺す事をゲーム実況感覚で行っていて、少し離れた場所からその実況を実際に観ていて楽しんでいたんだと思う。それで仲間を俺達に殺された事をリアルタイムで知って後から俺達の住んでいる家の場所をつけて知ったんだと思う」冷静にそういった人間がどのように行動するのかを今までのデータから計算して答えを導き出す。
「・・・!!」僕はそれを聴いて、人を殺す事をゲーム実況感覚で楽しんでいた?人を殺す事を何だと思っているんだ?人殺しの何がそんなに楽しいんだ?と怒りが際限なく湧いてくる。
「なるほど。極めて悪趣味だが筋は通るな。つまりサティスファクションの連中は人を殺す事を常にゲーム感覚で物事を進めて行動しているのか。DGSは俺達だけでなくタイプオリジナルならほとんどの者が持っているしレギオンを作る上でも必要になってくる。だからこその大々的な宣伝だった訳だし、それをヘルメットの中に入れてカメラで撮影して連中同士で実況動画として観て楽しんでいたのか」
僕は湧いてくる怒りをどうにか抑えて「そもそもこのDGSってどうやって作っているんですか?」と訊く。
「すまない。まだ話していなかったな」と謝られる。
「僕が作ったんだよ」ネクが言う。
「オリジナルはみんな反逆の意志を生成出来るけどオリジナルの中にはそれとは別にDGSを作れる者がいるんだ。正確には理論上はみんな作れる。全てのXPSは全てのオリジナルが使えるからね。ただし得意不得意があるから理論上は可能でも作れる人は少ない。人間という同じ生き物でも職人技みたいなのが誰にでも出来る訳ではないでしょ?反逆の意志はオリジナルとして生きていく上で絶対に必要になってくるモノで生成するのはそんなに難しい事ではないけど、それ以外のクリエイティブの能力はそれが作れてしまうオリジナルは凄く少なくはないけど少ない」目線を違う方に向けてそう説明する。
「そうだったんですか。いろいろ知れましたけど、オリジナルってノンオリジナルを殺してもこの世界から、人間社会から見て何も罰を受けないんですか?」と訊く。
「そんな訳が無い。タイプオリジナルでも人を殺せば捕まるし罰も受ける事になる。タイプノンオリジナルもこの世界に存在していて存在しない偽物の存在でも人間だ。この世界で人を殺せば当然、人殺として殺人罪で捕まる。この世界はどこまでいっても現実だ」ただ、と続け「俺達が使う反逆の意志は威力も性能もこの世界の今の科学技術では作れない威力と性能を誇る。当然警察から見て調べようとしても現実に存在しない威力と性能な為不可能犯罪扱いだ。そして反逆の意志は生成したりこの世界から消す事も出来る。武器を消したら使われていた銃弾もこの世界から消える。殺人に使われていた武器がこちらから生成しない限りこの世界から消えて存在しなくなるんだ。物的証拠が存在しなくなる。そして、こちらに対して向けられたタイプノンオリジナルの記憶操作をすればこちらに対しての記憶も消してしまう事が出来る」奏からわかりやすく順々に説明をされる。
僕は「なるほど。たしかにそれでは人を殺してもそれを理由に捕まる事は限りなく低そうですね・・・」そこである疑問が浮かびそれを訊く。
「でももしカメラや録音機器などにその時の事が映っていたり記録されていたら捕まるんじゃ…」
「俺たちタイプオリジナルは自分の存在という概念をタイプノンオリジナルに対してこの世界から消す事も出来る。それも特定の誰かに対してのみに使う事も可能だ。そのタイプオリジナルの存在という概念をこの世界から消してしまったらカメラに映っていたりボイスレコーダーに記録された音声もタイプノンオリジナルからは認識出来なくなる。つまり物的証拠も状況証拠もその気になれば消せてしまえて一切の証拠が残らないんだ」
「そしてそれを認識出来るのは俺たちタイプオリジナルだけって事だ」明が続ける。
理愛が心配そうな顔で僕の顔を見て「大丈夫?無理していない?」と優しく訊いてきてくれる。
「私たちタイプオリジナルはタイプノンオリジナルには出来ない事を沢山出来る。でも、それでタイプオリジナルの方が優れていてタイプノンオリジナルが劣っているとは思わないでほしい。タイプノンオリジナルもこの世界でちゃんと生きている。生きて生活をしているから」人としての本質の部分をそう言われ僕は「わかっています。ノンオリジナルにだって心も意志も性格もあって皆考えて生きています。それを偽りとも思いませんしどちらかが低くてどちらかが高い存在だなんて絶対に思いません!」ハッキリと答える。
理愛は何気にこのプレイス オブ ソーレスのメンバーの中で1番意志が強い。メンタルも1番強くて精神的にタフで鋼やタングステンみたいに丈夫だったりする。それでいて誰に対しても凄く優しくて思いやりもある。
奏は少し表情を厳しいものにして「選人、君は優しすぎる性格をしている。その君には酷な事かもしれない。だが現実として話しておくが、俺たちタイプオリジナルは少なからず人を殺さなければいけない時が出てくる。こうして人を殺そうと思えば殺せてしまえてその力も持っている。XPSで事象の上書きをすれば捕まる事もほとんど無い。限りなくゼロと言っていい。そして価値観や考え方の違いでタイプノンオリジナルは人間ではないと考える過激派も少なからず存在する。そうした場面や事態に直面した時、その時は戦うしかない。殺し合いをしなければいけないんだ。自分達に危害を加えてこようとした存在に対して殺される事になっても相手を1発も殴らず大した抵抗もせずに殺される人間は実のところ多い。それは自然界で、もっと言えばこの世界でそうした制限をもって行動するのは人間だけだ。人間以外の生き物なら自分の身に危険が及ぶなら抵抗もするし殺し合いもするだろう。人間は良くも悪くも安全に生きる事に慣れ過ぎてしまった。君がこの世界でタイプオリジナルとして生きていく上で“人を殺す事への肯定”を受け入れて行わなければいけない時が必ず来る。その事を覚悟しておいてくれ」辛そうな表情でそう僕に言う。
「・・・“人を殺す事への肯定”―――!」・・・・・・!その言葉の意味を反芻して徐々に僕は胃に穴が開くのではないかと思うくらいの強いストレスに襲われる。人を殺さないといけない時が来る。それは普通の人間には到底耐えられない事だ。気がおかしくなりそうになる。急速な過度のストレスで頭も重く感じ考えがまとまらない。脚もフラフラする。立っているだけで気持ちが悪い。
「すみません。ちょっと1人にさせてください…」なんとかそれだけ言いいくつかある部屋の一室に入ってベッドの上で横になる。本当は外の風に当たりたいけどここは現実とは同じ世界でも次元が違う場所だ。外が無い。
そこへ理愛が入ってきてお水の入ったグラスを持ってきてくれる。
「飲める?」優しく手渡される。
「ありがとうございます」僕はそれを受け取りなるべくお水を飲んだ満足感を得たくて1度の量を少量にしてそれを小刻みに素早く飲んで一気飲みして飲み干す。
「ここ、ワームホールで水道管と電線は繋がっているからお水も出るし電気も通っているんだよ」と僕が疑問に思う前にそう教えてくれる。
「便利ですね」短くそう答える。
「僕も人を殺さないといけない時が来るんですよね?正直初めて出来た友達が殺された時そいつを殺してやりたいと心から強く思いました。だけど今思うと仮にもしあの時あいつらを殺す事が出来たとして殺していたら僕は自殺をしていたかもしれないと思います」あの時の自分が怖くなる。
「だけど、また同じ状況になって同じ経験をしたとしたらまた僕はそいつを心から殺してやりたい、と思うと思います」自分でも怖い感情が自分の中から湧き上がってきて気持ち悪くなる。
「それは正しい事ではないのだと思うけど正常な事ではあると思う。誰だって大切な友達が目の前で理不尽に殺されればその相手を殺してやりたいと思うと思う。正しいか正しくないかってね、どこか1面からだけを見て判断出来る事ではないんだよ。そして多角的多面的に物事を見ると正しい事が正しくなくなったり正しくない事が正しくなる事だってあるの。答えも一つじゃないしそこに人としての感情論も入ってくる。私も人を殺す事は良くない事だって思っている。だけどそれをしなければ自分や自分の大切な人が殺されたり危害を加えられて、実際に殺されもしたら私もその人を殺してやりたいと思うよ。それをした事で殺された友達が生き返る訳でも無いし、復讐ともまたちょっと違う自分の怒りをぶつけているだけの行為でもね」悲しそうな顔で優しくそう言う。
僕はこの人みたいに強くなれるのだろうか?と思う。でもその疑問への答えはなれるかなれないかではなく、なるしかない、だ。なれなければいつかオリジナルとの戦いで命を落とす事になるだろう。
お水を飲んでクールダウンした事で少し気持ちが軽くなる。お水1杯飲むだけでもこんなに違うんだな、と思う。
「ありがとうございます。理愛はメンタルが強いですよね。辛くても人を殺す事が嫌いでも必要ならそれを受け入れて行動に移す事が出来る。プレイス オブ ソーレスのメンバー全員だって本当は人を殺したくなんてないのに、それでもその場面になったら人を殺す事が出来る。僕は皆みたいに強くはなれないと思います。奏は僕の事を優しいって言いますけど、本当はただ臆病なだけなんです。制限を外せない人間なんです。それでもそれが出来るようにならないとこの世界では生きていけないんですよね。本当にこの世界はこの世界で生きている存在を辛く苦しませる為に作られているんですね」この世界が現実で地獄という事がよくわかる。それと同時にこの世界を作った神に怒りが湧く。
「皆が皆制限を外すなんてことが出来る訳じゃないよ?誰だって臆病だし、殺したくなんてない。それが例え生きる為だったとしても簡単に割り切れる事じゃないし、私も今みたいに思い切れるようになるまでに凄く時間が掛かったから。そんなに時間的に猶予はないけど、選人が思い切れるようになるまで自分の気持ちを大事にしてほしい」私で良ければいつでも聴くからと言われ「じゃあ、気持ちが落ち着いたら皆の所に来てね」と優しく言われる。
「もう…大丈夫です。皆の所に戻ります」まだ少し足元がふらつくけど理愛のくれたお水と考えの肯定で何故か少しだけ心が軽くなった。たぶん、理愛は人に寄り添う事が凄く上手い。それでも、こんなに優しくて気遣いが出来ても理愛もオリジナルなのだから周りから少なからず浮いているのだとも思う。優しさが周りから見てどこか空回りをしてどこか不自然さが出て違和感があるのだと思う。僕たちオリジナルはどんなに周りと同じようにしてもどこか周りと違って浮いていて違和感を感じてしまう。きっと友達も多くないのだと思う。この世界は残酷だ。オリジナルが何をしたっていうんだろう。それとも本当に気紛れで暇つぶし程度の遊びで僕達をこんな目に遭わせているのだろうか?どんな人間でも、友達を殺した人間を殺したとしても僕は自殺をしてしまうほどの罪の意識に苛まれるかもしれないけど、神は殺せるなら罪の意識を感じる事無く殺せると思う。それくらい強く恨んでいるし、憎んでいるし、怒っていて、大嫌いだ。
皆のいる所に戻ってくると地図に記された場所をスクリーンに映して確認を行っている。
「選人、戻ってきたか。ではもう1度初めから説明する。ここは今は誰にも使われていないもの凄く広い面積の迷路、いや、迷宮のような場所だ。たぶん、サティスファクションの奴らも待ち伏せや事前に自分達に有利になれる仕掛けやトラップ等の用意は無理だろう。あまりにも地形が複雑すぎる。加えて時間が0時ジャストだ。夜になれば当然暗くなって視界も悪くなる。DGSで仲間の居場所は確認出来ても地形と相手の居場所までは確認出来ないし知る事が出来ない。作戦を立てるというより各々が自分達の力のみで戦っていく感じが強い内容だ。選人、反逆の意志を生成してみてくれ」
「はい」僕は心臓のある胸辺りに手を持って行きそこから空間が出来て銃が生成される。反逆の意志がその名前の通りでまるで心臓を捧げるようにその反逆の意志が湧くのが心の宿る心臓から空間が出来て生成される。
僕の反逆の意志は大型の拳銃で銃口の下から前に向かってブレードが付いている遠距離戦と至近距離戦をこなせる万能タイプの武器だ。ちなみに反逆の意志は特に決まった形という概念は無く、自分の素質や心の奥底に宿るモノを形にしたという訳でも無い。自分の能力の強さ次第で可能な範囲で好きなように形を変える事が出来る。だけど大抵は最初に生成した形をずっと使っていく人が多いらしい。理由は最初に生成した武器が1番自分の中で理想とされる武器だったりする事が多いからとの事だ。無意識の内に自分に1番合う武器を最初から理想として頭にある感じ、とでも言うのがわかりやすいだろうか。
奏は「反逆の意志は問題なく生成出来るな。トレーニングルームで戦闘訓練をしよう。その武器はしまってくれ。反逆の意志では威力が高すぎてトレーニングルームが壊れてしまう」
「はい!」実際に自分の扱う武器を見ると人を殺す事を受け入れなければいけない、と気持ち悪くなるかと思ったけど、より現実味を感じて戦わなければこちらが殺される、という気持ちの方が強く、気持ち悪さがスウッーと引いていって冷静になれた。人間は単純じゃないようで単純で、単純なようで単純じゃない。現実として向けられた時人は嫌でもそれを向けられたと認識してそこから生き残れるように打開策を考えられるように出来ている。
「時間は一見少ないがタイプオリジナルの身体能力と感覚の強化をおこなえば時間は十分すぎるほどある!各自最後までトレーニングをしつつ普段の生活も後回しにせず出来るだけ普段通りに行っていってくれ!」
「はい!!」「了解」「了解だ」「はい」僕とネクと明と理愛が応える。
僕は気を引き締め例え人を殺す事になるのだとしても頭からその事への迷いが不思議なほど消えていた。思考がクリアだ。
レギオン同士の戦争が始まる―――!!
第4話 人を殺す事への肯定




