死神
そう思ったのは、二人で病室を抜け出して、屋上で星を眺めている時のことだった。
夜風に当たりながら、いつものようにぼくは自分のことについて考えていた。自分が生きられる間に何がしたいか、ずっと考えていた。自分の頭の中にチェックシートを作って、それを全て実行するのだ。と、そう決めていた。
そんなチェックシートを作るようになったきっかけは、ひょんなことだった。
隣の部屋の人が急にいなくなった。なぜいなくなったかぼくにはすぐに分かった。その日の前日にトイレで、ナースコールを押していたらしい。
その出来事はぼくにとって強烈だった。きっと、ぼくにもそういう時が来るんだ。そう思うといてもたってもいられなくなる。怖いし、何より焦る。今すぐに何かをしなくてはならない。今すぐに何かを残さなくてはならない。今すぐに誰かと話したい。今すぐに!
その焦りが死神によるものだってぼくは理解した。ぼくは何がしたいかを考えるようになった。そして何ができるかを考えるようになった。
「じゃあ死神がいなかったらそんな風に思えなかったんだね」
彼女はそう言った。病室を抜け出して、空を見る方法は彼女に教わった。一緒に夜空を見て、話をしている時間が一番好きだった。
「死神に感謝はしてる」
「そうねえ、それがあったから、今これだけ頑張れてるんだし」
なんだか皮肉なものだ、と少し感じる。死神は人から命を奪うくせに、それがなかったら、自分たちは考えることもしなかった。
「ねえ、チェックシートの中で一番最初にできるものって何?」
「え? そうだなあ。『家の本を読みあさる』……かな?」
彼女はため息をつく。無言で首を横に振る。
すっとそばに近づいてきてぼくの手を握った。
「『可愛い女の子と一緒に手を繋ぎながら、星を見る』……でしょ?」
目の前が霞んでいたことに今気づいた。自分がいつから泣いていたのか分からない。彼女の方を見ると彼女も涙目でぼくを見ていた。
死神を意識して生きることはきっと辛いことなんだと分かっていた。ただ、自分が、自分の知らないうちに追い込まれていたことは知らなかった。彼女の手の温かさを感じた時に、ふっと孤独が身を襲った。いつか離れなくてはならない、と思うと、心が泣きそうになる。そんなことを彼女は分かっていたのかもしれない。ぼくが背伸びしていたことを知っているのかもしれない。
でも、その別れる時のために、ぼくはまだやりたいことがたくさんある。
可愛い女の子と一緒に手を繋ぎながら、星を見る。泣いちゃって星が見られなかったからサンカクだな。もっと雰囲気を作ってもう一度。




