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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第二章 初試合!
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21th BASE

ここ最近ずっとパワプロにハマっています。

久しぶりに最新作を買ったのですが、得意だったチェンジアップがほとんど打てなくなりました。

もしもチャンピオンシップで当たった時は、チェンジアップを投げないようお願いいたします(笑)。

 二塁の塁審が右手を高く上げ、上空に弧を描く。ホームランの判定である。


「嘘でしょ……」


 真裕は口を開けたままその場に立ち尽くす。見渡すと女子野球部ナイン全員が、ボールの弾んだ一点を見つめ、言葉を失っている。そんな彼女たちには目もくれず、北条は何食わぬ顔でベースを回っていた。


「しゃー! ナイバッチ!」


 女子野球部とは対照的に、蜂の巣を突いたように騒ぐ男子野球部。碧来も両手を広げ、とても興奮している。


「流石北条だぜ! なあ椎葉」


 碧来は愉快気に言う。けれども隣にいた丈に笑顔は無く、黙り込んだままだ。


「おい、どうしたんだよ?」

「……投げてくる」

「へ?」


 丈は後ろに置いてあった自らのグラブを手に取る。薔薇(ばら)のような赤色が、彼の猛る心を体現していた。


「投げてくるって、今日お前は登板しない予定だろ」

「予定、ではな。でももう、そんなの関係ない。俺がこの試合を終わらせる」


 丈はそう宣言し、粛然(しゅくぜん)とブルペンに走っていく。


「ま、まじかよ」


 複雑な面持ちの碧来。けれども丈を止めることはしない。実は丈がこの試合で投げることを、彼は密かに望んでいたのである。


 他方、女子野球部ベンチでは、監督の隆浯が表情を変えずに腕を組んで座っている。彼は頭の中で、先ほどの対戦を振り返っていた。


(ボールツーにした時点で、バッテリー(あいつら)が抑えるには厳しい状態だった。優築も思い切って勝負しに行ったんだろうが、結果的にツーシームの弱点がもろに出た形になったな)


 ツーシームは棒球になりやすいという欠点がある。しっかりと指に掛かれば打者を押し込む威力は抜群だが、そうならなかった場合、いとも簡単に飛ばされる危険性が高まる。ましてやボールツーという不利なカウント。いくら真ん中に要求されたと(いえど)も、絶対にストライクゾーンへ投げなければならないというプレッシャーは大きい。それが真裕の投球に微妙なズレを発生させたのだった。


(にしても、北条もよくあそこまで持っていったもんだ。あの方向は練習でも飛距離が出にくいぞ。ボールを飛ばすセンスは天性のものだな。宮藤に北条、それに椎葉か。大道さんも、この三人を集めるのには相当苦労しただろう)


「よっしゃよっしゃ、ナイバッチン! このまま勝とうぜ!」


 碧来と北条がベンチでタッチを交わしている。隆浯はその光景を、やや物憂げに見つめていた。


 再びマウンド上へと目を移す。打たれた真裕に、優築がフォローを入れていた。


「真裕、大丈夫?」

「すみません優築さん、せっかく予定通り打たせたのに、あそこまで飛ばされるなんて思いませんでした」

「私の方こそごめんなさい。あの子のパワーを見くびっていたわ。まだ試合は終わってない。次の回は貴方からなんだし、ここをきっちり抑えて攻撃に繋げましょう」

「はい」


 沈んだ気持ちを隠せない真裕だったが、優築が励ましの言葉を掛けて何とか立ち直らせる。しかしここから、真裕たちに更なるピンチが訪れる。


 次の五番の中川(なかがわ)に対し、バッテリーは二球で追い込む。だがボールとファールを挟んだ五球目。ストレートを弾き返される。


「レフト!」


 ボールが玲雄の左に落ちる。中川は一塁を大きく回ったところで止まった。


 続くバッターは六番の勝俣(かつまた)。ここもワンボールツーストライクと追い込んでからの四球目だった。


「ファースト!」


 勝俣が打ったボールは一二塁間に転がっていく。ファーストの珠音が飛びつくも捕球できず、ライトへと抜ける。これでワンナウトランナー一、二塁。北条から数えると三連打となる。


(くそっ、二人とも追い込んでたのに)


 勝俣の打球がヒットと分かった瞬間、真裕は帽子を取り、苦しそうな表情を見せる。腕が振れていないという感覚は無く、コースも甘く入っているわけでもない。それなのに打たれている。真裕の胸に、悶々(もんもん)とした気持ちが募る。


 また、この流れを受けて、キャッチャーの優築はあることを思い出す。それは真裕のボールを最初に受けた日、彼女について監督の隆浯と交わした会話だった――。




 真裕が初めてブルペンの投球を行った時、隆浯は危ない発言をして優築に(とが)められた。その際、彼は真裕の投球に関して、優築に感想を聞いていた。


「どうだ? 真裕のボールを受けてみて」

「はい。ストレートは空さんたちよりも速く、全国レベルで計っても上位です。変化球含めコントロールもまずまず。中学で男子に混じっていただけのことはあります。一年生としては十分過ぎるじゃないでしょうか」

「なるほど」

「ただ……」

「ただ?」

「彼女には一つ、大きな欠点があります」

「ほう、それは何だ?」


 優築は自らの見解を述べる。それに対し、隆浯は同調するように点頭した。


「そうだな。俺も同じこと感じたよ」


 二人が指摘する真裕の欠点。真裕自身はまだ、それを自覚していなかった――。




(……残念だが、真裕の欠点はすぐに克服できるものじゃない。弱い部分も考慮に入れて、それでも抑えられるようリードする。それが捕手の務めだぞ、優築)


 隆浯が優築に目視でメッセージを送る。彼の視線を感じ取った優築は仏頂面をして、一瞬だけベンチの方に目を向ける。


(分かってますよ。だから今、どうするか考えてるんでしょ)


「ワンナウト! 内野ゲッツー、外野はバックホームね! 真裕、良い球はきてるから、臆せず投げてきなさい!」

「は、はい」


 優築は語気を強める。そうしてマスクを被り直し、これまで以上に思考を巡らせ始めた。


(さあ、駆け引きを始めましょうか)



See you next base……


PLAYERFILE.14:宮藤(みやふじ)碧来(あぐる)

学年:高校一年生

誕生日:11/19

投/打:右/左

守備位置:二塁手

身長/体重:167/62

好きな食べ物:ハンバーグ

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