48:新造戦艦起動運用試験 【変形】
遅くなってすみません<(_ _)>
いつもより長めです
前回のお話
大准将襲われる
大准将カッコ悪いとダメ出しする
無茶振りの末出来たのは――――
「………も1回言ってくれ、なんだって?」
試作第1号戦艦の航行試験を終え、3カ月ぶりに第35開発試験場へと帰還してきたガートライトにザーレンヴァッハは申し訳なさそうにしつつも、きっぱりと再度ガートライトへと告げる。
「翌………いや、本日1000より新造戦艦の起動運用試験を行う。これは決定事項だ」
「いや、俺達帰還したばっかりなんだが………」
ガートライトの言い分ももちろん理解できる。
だが上位者からの命令では、ザーレンヴァッハにはどうにもしようがない。
せめてもの抵抗という訳ではないが、ザーレンヴァッハは命令者の名前を告げた。
「全てはヒルハート准将の命令だ。諦めろ」
「………あんのぉ、じじぃ~………」
少しだけ暴露をしたのを悔やんだザーレンヴァッハ。何故かといえばガートライトの表情がいつもと違ったものを見せていたからだ。
そもそも本気で怒ったガートライトというものをザーレンヴァッハは見た事がなかった。
ザーレンヴァッハがいつも見かけるガートライトというのは、本当に飄々とした人物だったからだ。
うわぁあ~………こぇえ~……。
時刻は帝国標準時で夜半を過ぎ、多くの人間が眠りの森で安らぎの時間を過ごしているだろう。(一部の人間を除いて)
ザーレンヴァッハとて、ガートライト達を労う気持ちは有り余るほどあるのだ。
ユールヴェルン機関はもとよりe.r.fに関しても、満足のいくデータが大量にもたらされてきたのだから。
正直これの研究だけで、1年は過ごせるだろうとザーレンヴァッハは確信している。
実際それほどの成果なのだ。
なにせこれらのデータの片鱗を少し見ただけで研究員共がこぞって担当を申し出てくる有様なのだ。
そして大量の物資。
想定外の宙域で入手したものが、現在も次々と倉庫へと収容されている。
もちろん、これも合法的に問題なく第35開発試験場の物資としての登録は(ヴィニオが)済ませている。
ザーレンヴァッハとしてはよくもまぁこうも色々と巻き込まれるものだと、半ば呆れるものだった。
マーリィ・セレストン号の確保から、エクセラルタイド中継基地でのゴタゴタ。そして海賊と詐称される輩の捕獲とか。
しまいには中継都市内での捕虜の脱走騒ぎのアレコレで、さしものザーレンヴァッハでも少々頭の痛い話ではあった。(正直聞かなかった事にしたい程である。無理だが)
ちなみにザーレンヴァッハには、熱光照射衛星での不可思議な出来事等は報告されていない。(あくまでケィフトからの依頼であったからだ)
そして各中継地点に寄港されるたびに送られてくるデータの数々に、次々と更新される研究資料。(それでも研究途中のものでも無駄にならないところが小憎らしい)
試作第1号戦艦も大変だったとは思うが、第35開発試験場はこっちで大変だったのだ。
嬉しい誤算とは言え研究に開発に新たな風が送り込まれるのは大歓迎ではあるものの、忙しないにも程があるという話だ。
その忙しない大半の原因が大准将率いる新造戦艦建造組であれば、ザーレンヴァッハでも愚痴の一つも言いたくなるというものであった。
戻って来たそうそうの翌日に起動運用試験を行うというのも、ザーレンヴァッハの指示によるものではない
ようやく完成した新造戦艦が動くさまをいち早く見たいという、欲求を言い出した大准将であるゴードウェイイルの鶴の一声だったからだ、そしてその理由としては他にも―――――
「ガ―坊、悪ぃな。明日―――いや、今日か。の起動運用試験よろしく頼むわ」
ガートライトとザーレンヴァッハが角突き合わせて話をしていたところに、大准将―――ゴードウェイイルが予告もなしにザーレンヴァッハの執務室へと入って来たのだ。
少しばかり苛ついていたガートライトは、階級を気にすることなく不満をあらわにする。
「あのな、じーさんよっ!帝国軍軍規にはな、長期行動後における休養期間は最低72時間って記載されてんだよ。分かってるよなっ!?」
ガートライトはゴードウェイイルに帝国軍々法規をそらんじるものの相手は名にしおう“大准将”であり、その程度の軍規など鼻息で飛ばせる権力を持っていた。
もちろんガートライトとてそのあたりの事は知悉しているものの、言わずにおれぬものというのはあるものなのだ。
そしてそれを気にする事もせず、別の方向から攻めるのが“大准将”ゴードウェイイルであった。
ただそれがこの場において、適切であるかは別の話になるのだが。
「つーかよっ!手前ぇがあんな酒寄こすからこんな事態になったんだろうがっ!ちゃっちゃと責任とれやっ!」
「はぁああ!?」
あまりにも訳の分からない事を言い出すゴードウェイイルに、ガートライトはつい素で返してしまう。何言ってんだ、このじーさんはっ!?と。
そもそもガートライトはゴードウェイイルに、何かをやった記憶がない。
それを含めての疑問符ではあった。
「いやいや、俺はじーさんに何もやってないぞ?勘違いじゃないのか?」
「何言っとる。ひと伝手とは言え、わしはガートライトからアレを貰ったぞ?」
「アレ?あれぇええっ!?」
ガートライトは思わず顎を外すが如く口を開けて声を上げる。
このアレというは、ガートライトとゴードウェイイルだけが交わした会話の中で分かるもので、当時それを見せびらかしたガートライトに幾度もそれを寄こせと喧々諤々としたものであった。
年代物の古酒。
ガートライトが封を開けず秘匿しておいた酒だった。
だが何者かによってそれは、ゴードウェイイルの手へと渡ったという事をガートライトは理解する。
「ヴィィニ゛ィオ゛………?」
『………何でしょう、ガーティ?』
その事に理解に及んだガートライトは、その大元へと問い掛ける。つい唸り声になってしまったのはご愛嬌といったところか。
「分かってるんだろ?どういう事なんだ、こ・れ・は?」
とは言え真犯人なんてのが誰だかなのかは、もうこの時点においてガートライトは察していた。
よもやここまでの策略を張り巡らせていようとは、ガートライトとて思いもよらなかったのだ。
『はい………ええ、副長から命令を請け、本当にやむなく行いました。申し訳ありません、ガーティ』
思いっきり責任転嫁してるなぁと、ガートライトはヴィニオの物言いに呆れつつ、予想通りの答えに至りつい吹き出してしまう。
「あはっ、あはは――――っ!じーさん、襲われたんか。ははっ、あははっ」
「そ、そうだっ!そんで3カ月だっ!文句あっかっ!!」
「はぁああっ!?」
からかい混じりにガートライトが問うと、ゴードウェイイルは肯定するとともにさらに衝撃的事実をぶっ込んで来た。
そして3カ月というワードに、次々と連想を派生させていきやがて結論を得る。
………つまりはじーさん、あんた何やってくれてるん?
「じーさんっ!年考えろよっ!何やってんだよ、あんたはっ!!」
「アホゥ!わしかて1回で的中するとは思わんかったわっ!!」
1回?ゴードウェイイルの物言いにガートライトは訝しむ。
この年齢でも精力旺盛なじーさんが1回だけで済むはずがない。とは言えあまりにもタイミングが良過ぎるのも少しばかりおかしく………もないのか。
ガートライトはアレィナから、ゴードウェイイルに対するハイネッゼの熱情を耳にしてはいた。
であるのなら、そのタイミングで仕掛けたのは誰あろうというのは自明の理となる。
そこまでの思考を展開して、ガートライトは内心で呆れてしまった。
何とまぁ、物好きなと。
これ以上は何を言っても水掛け論になるし、ガートライトとしても追及する気も失せてしまった。
あとはゴードウェイイルに、何故“今日”なのかを問い質すだけだ。
「えーあー………そこら辺は了解した。で、なんで今日なんだ、じーさん?こっちは報告やら何やらで、2、3日は時間を貰いたいんだがな?」
何とはなくは察せられるものの、やはり言葉に出してもらいたいというのがガートライトの心情ではある。
「う、うむ。第35開発試験場じゃ、医療設備も完全といえねぇからな。ハイネッゼには帝都のしっかりした設備で養生してもらいたいからな」
“あいつ”呼ばわりの上に照れたように頬を赤らめるゴードウェイイルに、ガートライトは思わず顔を顰める。
じーさんの照れ顔なんぞ、どこにも需要ねぇだろうと。
「かといって出来上がった艦の出来を見ずに戻るもの業腹だ。戻ってきてそうそう悪ぃとは思う!だが、そういう事じゃ!文句あっかっ!」
だから需要はないとガートライトが口を開く前に、ゴードウェイイルはそう言い捨てて執務室を去って行った。
「………と、いう訳だガートライト。よろしく頼む」
「了解。さすがに休息は欲しいから午後からで頼むわ………」
「………分かった。調整しとこう」
半ば諦め気味なガートライトがそう言うと、ザーレンヴァッハも同様に疲れた表情を見せながら了承する。
こうしてなし崩し的に、新型建造戦艦の起動運用試験が行われる事になったのだった。
■ ◇ ■
第35開発試験場より少しばかり離れたところ。
いわゆる枯れ花の苗床と呼ばれる廃艦廃船置き場の一部にその戦艦は係留されていた。
周囲にあった廃艦廃船群は片付けられ、広々とした空間が10km四方に開かれている。
いや、新造戦艦の周囲の一部に200~300m級の岩塊が均等に1列に並べられている。それが数列。
それらはガートライトが要望し用意させたものであった。
そしてその新造戦艦に向かって1艇の往還連絡艇が剣、槍、盾を伴い進む姿があった。
もちろん乗っているのは、ガートライト含むメインクルーとデータ収集班の面々である。
「………こりゃまた、変な格好の艦だな」
エルクレイドが船を操作しながら、目の前に見える新造戦艦について思ったことを口にする。
確かにとガートライトも思わないでもない。事前に概要は送られてきたデータ把握済みではあるものの、実際の現物を見るとなれば致し方ないと思わないでもない。
全長300m級の戦艦の下部には本船の半分ほどの長さの細長いブースター状のものが左右に2本つけられ、艦橋基部にはやはり左右にUの字に折り畳まれた細長いブロック状のものが設置されていた。
設置してあるのはそれだけで、武装である砲塔などは一切設置されてはいなかった。
「それにしても。………白いな~………」
ガートライトが新造戦艦の船体を見て呟く。
そう。その新造戦艦の船体は、全体がほぼ白といっていいものであった。塗装に何らかの細工が施されているのか、その船体は光り輝くように暗い宙空間に存在していたのである。
白でない部分といえば、船体の両舷に蒼く描かれた3本のラインのみだ。
この白というのは帝国軍における伝統の様なもので、新たに建造された戦艦に対して必ず為されるものである。
これは皇帝がこの戦艦を新造戦艦と認めた証左でもあった。
正直ガートライトはこんな寄せ集めで作った艦でいいのかよと、つい思ったものであった。
どの道ケィフトの差し金だろうとは、考えるまでもない事だったが。
きっと皇帝陛下はこんな艦の事など、知る由もないのだから。
往還連絡艇はそのままグルリと新造戦艦の周りを1周してから、艦橋基部後ろへと移動する。
「後部ハッチ開放。これより艦長たるグギリア大佐が貴艦へ入艦する」
エルクレイドがそう告げると、艦橋後部ハッチがゆっくりと左右に展開する。
『ようこそ、艦長グギリア。HuBSX-001はあなたを歓迎します』
すると落ち着いた女性の声で返信が入って来る。
戦艦クラス―――現在でならローズトラン級以上の艦船には、それぞれ個別に艤装人格が下賜される。
これは帝国における最新鋭の電脳システムであり、もちろん皇帝陛下に認証されたこの新造戦艦にも当然設置されるものだ。(たとえ寄せ集めで造られたものだとしてもだ)
とは言え、ヴィニオやジョナサンズが鎮座しているこの艦に果たして利用価値があるのかは、ガ-トライトも答えようがないものだった。
滑るように後部ハッチへと進入した往還連絡艇は、するりと次の隔壁を抜けてピタリと停止した後着艦する。
相変わらず大したもんだとガートライトは感心しながら、空気循環が完了するまでクルー達とブリーフィングを行う。
「これより1300から新造戦艦の起動運用試験を行う。事前に伝えた予定表に従って進めていきたいと思う。何か質問は?」
「今更ながら、自分で設計しといてなんですが、本当に動くんでしょうか、これ?」
本当に今更ながらにアレクスがそんな質問をして来る。
確かに初期の設計案であれば、機構的には齟齬もそれ程なく稼働する事が出来たと思う。
その後ガートライトが試作第1号戦艦の試験運用に出た後に、ダメ出し(かっこ悪いって………)と共に送られてきた修正案に思わず“動くのか?これ”とガートライトも思わず突っ込んでしまったものだから、アレクスの言も仕方がない。
「まぁ、部分々々では稼働したというから………、多分大丈夫じゃね?」
疑問形なのはご愛嬌というか、致し方ないといったところであるか。要は今更という話だ。
『空気循環完了しました。どうぞお入りください』
しばらくして艤装人格が入艦可能の連絡をして来た。
ガートライトとクルー達は立ち上がり連絡艇のハッチへと向かう。
途中レイリンへとガートライトは言葉を掛ける。
彼女だけは別のところで待機となるからだ。
「少尉。システムは同じだと思うが、確認してから報告を頼む」
「了解」
低重力空間を器用に動きながらレイリンは返事する。
そしてクルー達はそれぞれの持ち場へと移動していく。
と言ってもレイリンを除いた皆は、操艦指揮室であるのだが。
さらに上へと向かったレイリンと別れ、室内に入ったガートライトはさっそく指揮席へと腰を下ろす。
クルー達も自身の席へとついて作業を開始する。
現在半稼働状態の艦内は予備灯が赤く室内を照らしており、艦が休眠状態であることが分かる。
「ユールヴェルン機関励起確認。休眠モードより通常モードへシフトします」
「了解。やっちゃって」
バイルソン機関士長がジェネレイターの状況を報告し、続いて次のの作業への移行を伝えると、ガートライトは軽い調子でそれに応じる。
「了解。接続」
一瞬、バイルソンが告げると同時にビリリと船体が微動した後、息を吹き返したかのように操艦指揮室の機器が活動を開始する。
『………こちらレイリン。システム、機器ともに問題ありません』
そこに別室にいるレイリンから通信が入って来る。
「了解。それでは機器を装着してしばらく待機な」
『了解。では、連絡願います』
「了解。よろしく」
多少アクセントに癖はあるものの、以前と比べたら雲泥の喋りにガートライトは満足しつつ通信を切る。
その間にも艦のエネルギーゲインは上昇していき、いわゆる通常航行状態まで伸びて行った。
ただこの通常航行というのはあくまで他の戦艦の性能のものであり、この新造戦艦のゲインとしては1/3にも達してない。
「エネルギーゲイン32.15%ユールヴェルン機関稼働確認。………さらに化物じみてますな、こりゃあ」
バイルソンが計器類を見ながら、思わずそう言葉を漏らす。
これは第35開発試験場の研究員達の努力の成果であった。
基本的な形が誂えられれば後はいかに効率よくコストを抑えるかという作業は、彼等にとってご馳走とも言うべきものだ。(そして脇道に逸れるのも)
予備電源からの切り替えで明るくなった操艦指揮室でガートライトが予定の試験に入ろうとしたところで、通信が入りホロウィンドウにゴードウェイイルの姿が映し出される。
『よしっ!ガ―坊!次は変形機構の稼働試験だ。そんでその後は武装の検証なっ!』
「あ?ちょ、じー………ヒルハート准将っ!?」
ゴードウェイイルはそう言うと、ガートライトの問い掛けにも応じる事もなくすぐに通信が切れてしまった。
この後の予定では、航行試験の後に行うはずのものだったのだが。
ガートライトははぁと深く溜め息を吐きながら、げに哀しきは宮仕えの辛さとガートライトはやや投げやり気味にまぁ順番なんてものは大した問題でもないかと、次の運用試験の指示を出す。
「えー………ヒルハート准将の指示で、これより変形機構の確認及び実証試験を行う。各自作業に入ってくれ」
「「「了解」」」
エルクレイド、アレクス、バイルソンが揃って返事を返す。
こうして新造戦艦の変形機構の稼働試験が開始されたのだった。
「各員に告ぐ。これより本艦は1分後HSモードへと形状移行する。それまでに担当部署及び安全地帯においてベルトにて身体を固定、その後待機願います」
レイリンの代理で通信機器を操作し、ジョナサンズ搭載モートロイドが艦内に向けて注意喚起を行う。
これは仕様の時点で決められたことであり、現在この艦に人間のクルーはガートライトを含めた数名であるものの、万が一を考量してこのような形になったのだ。
「乗員位置確認終了。問題ありません」
アレクスが乗員の位置を確認し、状況把握ののち問題なしとの報告を上げる。
「了解。これより当艦は変形機構の稼働試験を行う。事前に指定された通りに変形をさせていく。途中問題が発生した場合は、一時中断もある。心して掛かってくれ」
「「「了解」」」
『『『『『了解』』』』』
ガートライトが試験開始前に簡単な注意と指示を行うと、クルー及びホロウィンドウに映された電脳空間のジョナサンズ達が、同時に返事を返してくる。
このジョナサンズ達もこの新造戦艦における重要なクルーであり、本来であればこのようなサブルームを作る必要もないのだが、彼等から“ぜひ”と言われればダメとも言えずガートライトは了承した。
何故と問えば“趣味ですから”などと言われてしまうと、趣味の人であるガートライトは頷かざるを得ないのだった。
ガートライトは改めて席に座り直し、命令を発する。
「変形開始」
「了解。変形機構起動」
ガートライトが指示を発すると、それにエルクレイドが応じ機構を起動させる。
すると操艦指揮室の前面に大きなホロウィンドウが現れ、新造戦艦の簡易モデリンググラフィックと様々なパラメータが表示される。
さらに小さなホロウィンドウが出て、剣達からの外部映像が新造戦艦の全景を映し出す。
グレー一色で描かれた新造戦艦の簡易グラフィックは、上面、側面そして右斜め前方からの映像が映し出され、その一部分がオレンジ色に点滅を始める。
「右脚部及び左脚部回転開始」
『R・L-Legローリンアァプ』
エルクレイドが指示を出すと電脳空間内で作業をするジョナサンズ達が復唱して、その指示に従い行動を起こす。
艦前部から機械音が響き、ゆっくりとではあるが船体斜め下横に取り付けられた2本の構造体が、内側へと艦首1/3の位置を軸に回り始める。
「脚部接続軸回転開始」
エルクレイドがタイミングを見計らいながら、次の工程を指示する。
この辺りも仕様という事で、みっちりとヴィニオに仕込まれているエルクレイドは淡々行う。
斜め下に付けられていた脚軸は、艦の側面に垂直になるように少しだけ回転する。と同時にブースター状の部分―――脚部は船体側面へと位置を変え回転しそのまま艦首の方へと回り続ける。
「膝関節部固定解除」
『了解。膝関節部固定解除』
次にエルクレイドが指示しジョナサンズが復唱すると、脚部中程でZ字に折り畳まれていた部分がゆっくりとまっすぐになり伸ばされて行った。
『問題発生!ユールヴェルン循環チューブに一部圧力がかかっています』
「対処可能か?」
『現在確認中―――対処完了。問題ありません』
作業の中でもやはりいろいろと問題や不具合が出て来るもののソフト面ではジョナサンズが、ハード面では各所に配備されてるモートロイドによって対処されていった。
ガートライトはそれ等の報告をホロウィンドウで見ながら少しばかり唸る。
「うーん………。さすがに機構が複雑になるとやっぱ色々と出て来るかー………。この時点でこれだと、アレはどうなる事やら………」
ガートライトがそんな呟きを漏らす間も、脚部は回転を続け艦首側まで行くと停止する。伸ばされたれた膝部分の手前がせり出してその部分を固定する。
『左脚部、右脚部回転完了。これより次の工程に移行します』
「了解。次作業開始」
『了解。腕部展開及び頭部配置変更開始します』
エルクレイドの指示に従い、ジョナサンズが復唱後今度は艦尾部分―――1/4程がオレンジに点滅し艦底部分を支点に回転を始める。
船体グラフィックに沿うように、現実の艦もそれと同様の動きを見せる。
「上手くいってくれよ………」
ここからは大准将がカッコ悪いとのたまって無茶振りをした部分である。
確かにガートライト自身も格好はそれほどとは思ったものの、現実的な部分を考慮して妥協した部分だった。
やがてゆっくりとであるが艦尾部分が船体に90°分移動すると停止する。
『メインバーニア移動完了。固定します。頭部配置変更、腕部展開開始』
「了解。作業開始」
ジョナサンズの報告と共に船体グラフィックの艦橋部分がオレンジに変わりそのまま艦尾の空いた空間へと90°回転していく。
その回転と同時に艦橋基部両脇のUの字の形をした折り畳まれていたものが、展開し前方にへと伸ばされていく。まるで人が前ならえをするように。そしてそのまま船体脇まで回転をしていく。
そして現実では、船体グラフィックよりさらに複雑な工程を開始していた。
剣から送られてくるホロウィンドウの拡大映像では、艦橋基部前方下に設置されていた左右2本のジョイントアームが起き上がり、艦橋前部を斜め上へと上げていき更にアームがくの字に持ち上がると艦橋後部がつけられたレールに沿って後方へと移動していく。
そしてメインバーニアが空けた空間へとすっぽりと収まる。そして各所に付けられた固定具によって固定される。
次に左右に付けられた腕部は、その付け根部分のシャフトが横へと伸びていきUの字の形をした2本の構造体が展開を始める。
脚部と同様に一直線に伸びると、前腕部が一部スライドしてその関節部をおおい、それと共に前腕部先端に手のようなものが露わとなる。
そしてその腕部は艦の側面側まで回ると、そこで停止する。
その間にも様々なエラーや不具合が発生するのの、重大事には至らずそのまま作業は進んで行った。
そして――――
「腕部関節部固定。頭部位置固定完了」
『了解。各部固定完了。最終確認開始します』
ガートライトは、エルクレイドとジョナサンズとのやり取りを聞いてからバイルソンへと顔を向ける。
「ユールヴェルン機関及び循環チューブ、問題なく稼働。エネルギーゲイン変わりません」
その後アレクスから艦内状況の報告を受け、安全を確認しガートライトはエルクレイドを見る。
『最終確認完了。問題ありません』
ジョナサンズからの最終確認報告を受け、エルクレイドは安堵と共に自信をにじませてそれを告げる。
「変形機構完了!」
クルー全員の喜色と安堵の息が含まれた声が、ほぅと室内に漏れた。
ガートライトも、とりあえず何事もなく事が終わったことに安堵の息を微かに漏らす。そして感慨深げにそれを見る。
視線の先のホロウィンドウには、漆黒の空間に輝きを放つ白き巨人がその存在を知らしめるように仰臥する姿があった。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
やっとこさ書きたいとこが書けました
これも皆さんが読んで下さったお陰でございます
ありがとうございますぅ (T△T)ゞ




