8 【転入生】
翌日、悠依は学園に行く準備をしつつお弁当兼朝ご飯を作っていた。ぐっすり寝たこともあり学校への心配など欠片も残っていなかった。
来客を知らせる呼び鈴が鳴った。
(誰だろ。遥季かな?)
そんなことを思いながら扉の穴から覗いた悠依。扉の前にいたのは予想外の人物だった。
「おはよ。悠依ちゃん」
「なにしてるんですか? 陽翔さん!」
そこに居たのは遥季の兄、陽翔だった。
「ちょっと挨拶にね」
「挨拶……ですか?」
悠依がさらに言葉を続けようとしたとき、「兄貴!!」と遠くから叫ぶ遥季の声が聞こえてきた。
「あ、遥季」
「ごめんな、悠依。びっくりしたろ?」
「うん。どういうこと?」
「兄貴、こっちに引っ越してきたんだ。だからその挨拶に」
「あ! そうなんだ。ご近所さんになるんですね! よろしくお願いします!」
「こちらこそ。これから毎日のように悠依ちゃんの家に来ると思うから」
「え……」
「冗談だよ」
そうして陽翔と遥季は去り、悠依は学園へと向かった。教室に入り少しすると先生がやってきた。
「今日は転入生がいる。」
その一言で教室はざわめく。
この季節――というかこの学園に転入してくる生徒自体が珍しいからである。
数でいえば5年に1人、いるかいないかくらいである。
「ほら、入れー」
ガラッと扉を開け入ってきた人物に悠依は見覚えがあった。
思わず“あ!”という顔をするとその人物は悠依を『余計なこと言うな。黙ってろ』というような眼で見た。
「じゃあ自己紹介してー」
先生に促されその人物は話し出す。
「東雲架威。能力は鎌鼬。よろしく」
「みんな仲良くしろよー」
そういい残し先生は去っていった。
少しシンとしたあと、教室内はまた騒ぎ出す。
『イケメンだー』 『かっこいい!』
すると早速囲まれた転入生に対するある質問が出た。
『彼女はいるんですか?』
定番ともいえる質問に、東雲くん……もとい架威はさらりと答えた。
「いる。このクラスに」
『えぇーー!!??』と響き渡る生徒達の悲鳴。
そしてもう一つ。
『誰ですか?』
これも納得のいく質問だ。
“このクラスにいる”と言われ知りたくならない人はいない。
スッと指差しまたも架威はさらりと答えた。
「隣に居る、神月悠依」
『えぇーーーー!!!!!!』
先ほどよりも大きな悲鳴。
周りの生徒はあまりの驚きに口が開いていた。
しかも架威の席は悠依の席の隣。
架威を囲んでいた生徒達の視線が一気に悠依に集まった。