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2代目天狐と鬼天狗  作者: 涼井 菜千
新たな標的
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73 【卒業式】

 それからさらに1ヶ月後、桜が舞いはじめる中、悠依たちは卒業のときを迎えていた。


「今日で本当に終わりだね……」


 4年間通った校舎、ともに過ごした梨緒や柚子も今日でばらばらになってしまう。


「梨緒はどこに行くんだっけ?」

「私は地元に戻るよ! 魔法を教える立場になるんだ!」

「そっか、柚子は?」

「私は就職かな、ちょうどいい求人あったからね」

「みんなバラバラだね……」


 呟いた悠依の後ろから遥季が現れ、頭をポンと叩いた。


「何暗い顔してんだよ、何も一生会えないわけじゃないんだ」

「そうだけど、寂しいよ……」

「大丈夫! 遥季くんの言うとおりだよ! 会いにくるから」

「うん……」


 みんなに慰められ悠依は卒業式へと望んだ。


***


 約1時間の卒業式を終え、悠依はクラスでの写真を撮ったり、親睦を深めていた。


「悠依ちゃん! 呼ばれてるよ?」

「えっ……?」


 声の方向に目をやるとそこには遥季がいた。


「遥季?」

「悪いないきなり……」

「いいけど、どうしたの?」

「今日、一緒に帰ろうと思って、さ」

「――今更? いっつも帰ってるじゃん!」

「そうだけど、今日くらいは他のやつとも帰りたいかと思って!」

「同じ方向の子、いないの! 一緒に帰るに決まってるじゃん!」

「そっか……」

「もう行く?」

「いや、俺まだ撮ってないから終わったら迎えに来るわ」

「わかった! じゃあまたあとでね!」

「ああ」


 悠依が柚子たちの元へと戻ると柚子と梨緒はニヤニヤとしていた。


「――ラブラブだねぇ」

「羨ましいなぁ?」

「そ、そうかな? そんなことないと思うんだけど……?」

「いや、ラブラブだね。絶対そうだもん!」

「そんなことないよ!」


 そんなことを話しているうちにも、教室からは徐々に徐々にと生徒が帰っていた。


「少なくなったね」

「もう帰ろうか……」

「そうだね」

「悠依、遥季くんが迎えにくるんでしょ?」

「じゃあここでバイバイだね?」

「あ、うん。連絡してね?」

「連絡する! 遊ぼう? メールもするし、電話もする! 悩みとかあったら飛んで行くから!!」

「私もだよ? 悠依、何があっても私は悠依の味方だから!」


 そう言って2人は階段を下っていった。


(さよなら、か……)


 2人を見送った悠依は遥季の教室へと移動した。


(遥季、いるかな?)


 扉からヒョコッと見ていた悠依に真っ先に気付いたのは遥季の友人、のぎなつめだった。


「悠依ちゃん? 遥季に用事?」

「ひゃあっ!」

「ごめんね、いきなり話しかけて? 大丈夫?」

「だ、大丈夫! こっちこそごめんなさい!」


 悠依の声に気付いたのか遥季が近寄ってきた。


「悠依? なした? 棗と何やってんだ?」

「あ、梨緒たち帰っちゃって……」

「そ、こっち来いよ?」

「うん!」


 遥季のクラスは悠依のクラスとは違い、まだ全然帰っていないようだった。


「いっぱいいるね?」

「そっちは?」

「ほとんど帰っちゃった」

「そっか」

「はい! 2人ともこっち向いて!」


 2人は突然かけられた声の方向へ反射的に顔を向けた。声の主は携帯を構えた棗だった。


「ハイチーズ!」


 シャッター音が鳴り、写真を撮られた、ということがわかった。


「棗、撮るなら言えよ」

「ごめんごめん!」

「ったく、もう一回撮れ」


 そう言った遥季はおもむろに悠依の肩に手を置いた。


(えっ……?)


「じゃあもっかい行くよ! ハイチーズ!」


 その言葉を合図として遥季は悠依の頬にキスをした。


「へっ!?」

「ヒュー! ラブラブだねぇ!」

「棗、それ後から送れよ?」

「もちろん!」

「じゃ、俺たち帰るから! じゃあな」


 肩を抱かれ歩く悠依は少し振り返り、棗に向き直った。


「バ、バイバイ!」

「バイバーイ!」


 そうして悠依は遥季とともに帰ることになったのである。

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