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2代目天狐と鬼天狗  作者: 涼井 菜千
新たな問題
33/76

32 【機密】

 黎羽は神妙な顔をして話し出した。


「今から3千年位前のこと。

突然のことだった……各地にいた妖狐の神たちが次々と消されていったのだ。私や幽羽と同じ“空狐くうこ”だった叶羽きょうは、という神をはじめ、我々の代わりに、社を守ってくれていた天狐てんこ、そして天狐に従っていた野狐たちまで。

酷い光景だった……目の前で次々と妖狐たちが殺されていく……私は藜のお陰で、幽羽はあおいという藜の弟のお陰で助かったのだ」

「葵……さん」


 悠依が呟くと今度は藜が話し出した。


「――葵は、一度こちらに来たときに捕らえられ、危ないところを助けられたことがあった。……助けたのは幽羽様の奥様、瑠李様るいさまだったんだ」


 藜はそこまで言うと黙り込み、また黎羽が話し出した。


「その影響は幽羽のお陰でなんとか治まったが、妖狐の神は私と幽羽だけになってしまった、というわけだ。――なにか質問はないか?」


 遥季が緊張した面持ちで言った。


「……その虐殺の黒幕って、わかっているんですか?」


 遥季の緊張なんて気にする様子もなく、なんだそんなことか、といった表情で黎羽は答えた。


「私や幽羽と同じ空狐だった明羽めいはという神の補佐をしていた犬榧いぬがやという鬼天狗だ。犬榧はまず、自分の一族を抹殺しようと次々と殺していった。今、鬼天狗で生き残っているのは藜と葵、それと棕櫚しゅろよもぎ蓮華れんげの5人だ。これでも多いと思うかもしれないが、元々は20人を超える大所帯だったのだ。そしてそのあとに主である明羽を殺し……」

「黎羽様、そこまでに……」


 藜は唇を噛み締め何かに耐えるような表情で言った。


「あぁ、すまなかった。 ――では、機密の方に移るとするか」


 そう言った黎羽はまた一息ついてから話し出した。


「これまでの話は全てあちらの世界で起こったこと、これから話すことにあちらの世界はまったく関係はない。全てこちらの世界に関係のあることだ」


 悠依と遥季はコクンと頷いた。


「では話そう。――現在、先程も言った犬榧はあちらの世界にいるが、今度はこちらの世界にいる犬榧の息子が攻撃を仕掛けてくると思われる」

「え……?」


 放心状態の2人に黎羽は呆れた表情で答えた。


「安心しろ、遥季。何のためにおぬしの兄が飛び回っていると思っておるのだ。それに、こっちにはこやつもいるではないか」


 突然自分にふられた悠依は唖然としていた。


「え? なんのことですか? 私……?」


 その言葉にこっちもか、と呟いた黎羽はまたも呆れた表情で言った。


「言ってなかったか? 前の犬榧の暴走を止め、大人しくさせたのは幽羽だぞ?」

「父が、ですか?」

「あぁ、だから今度はおぬしが止められるはずだ。白狐の姿になったということは時期が近づいたということであろう」


 そこまで言うと、真っ青な顔でどうしよう……と繰り返し呟いている悠依に向かってこう続けた。


「なに、心配することはない。昔とは環境が違うのだ。今は陽翔たちもいる、必要となれば私も手を貸そう」

「そうだぞ、悠依。俺じゃ役に立てないかも知れねぇけど、俺もいる! お前を支えるくらいのことは出来るから、心配するな」

「うん……!」



 

「いろいろ教えていただいてありがとうございました!」

「気にするな、悠依、遥季。特に悠依、幽羽の娘のおぬしにはいくらでも手を貸そう。困ったことがあったらまた来るといい。もちろん、陽翔の弟、遥季もな。おぬしたちは……星劉に住んでおるのか。星劉には、先程話した蓮華が守る社がある。社に向かって話せば私に通じるからな。

蓮華には伝えておくから、なんかあったら行ってみるといい」

「はい! ありがとうございます!」


 黎羽は笑顔でお礼を言った遥季の後ろ、暗い顔の悠依を見つけた。


「――悠依、白狐の姿はここのような妖狐の神を祀る神社などに来ないと出ないよう、封をしておいた。そこにある鳥居をくぐった瞬間、消え去るだろう。それと、星劉にいてもどこにいても、私の声を聞こえるようにしておいた。他に心配事はないか?」


 黎羽がそう言うと暗かった悠依の顔は徐々に晴れていき笑顔になった。


「は、はい! ありがとうございます!」

「礼はよい。 それより、用事があるのだろう? 早く行け」

「はい!」

「脅すようなことを言って悪かったな! また来いよ!」

「はい!」

 

 藜と黎羽に別れを告げ、悠依と遥季は鳥居をくぐったのだった。

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