21 【薬】
「ん……?」
悠依が目を覚ますと何度目かの見慣れた天井が目に入った。
(――ここは。遥季の家)
その考えに行き着いたそのとき、足元に軽い重みを感じた。
「あ、薙癒さん……?」
そこには確かに薙癒が、いや“薙癒らしくも、架威らしい”ような人が居た。
「ち、薙癒さんですか?」
「ん……。? あ! 悠依ちゃん! 無事だったんですね! よかったぁ」
「薙癒さんですよね? 良かったです」
「え? あ、この格好のまま寝ちゃったのか」
「なんでそんな格好してるんですか?」
「架威の代わり。“悠依ちゃんが攫われた”って遥季が言ってきて、でもそのとき架威は他の任務についてたから私が代わりに」
「……だからって“そんな格好”しなくても」
そんな格好とは、いつも架威の着ている黒い服装のことである。
その上、いつもは長い髪も今はウィッグをつけているのか短く、身長と声を除けば一見架威にしか見えないほどだ。
「まあまあそれは置いといて、おそらくだけどまだ立てないでしょ? そろそろ“他の症状”も出てくる頃だし……」
「他の症状ってなんですか? この後どんな風になるんですか?」
「んー……悠依ちゃんが飲まされたのは麻痺薬の中でも刺激薬って言って簡単に言うと“敏感”になるんだ。例えば、手を触られるだけで痛みを感じたり、ビクビクしたりするって感じに」
「そうなんですか……」
「まぁ、架威と遥季には効果が切れるまで会わない方が良いかなぁ?」
「なんでですか?」
「2人ともドSだから……今の悠依ちゃんを見たら襲いかねないからね」
「え、」
悠依は固まった、2人とも思い当たる節があったのだ。
「まぁ、冗談だよ」
その声はもう既に悠依には聞こえていなかった。
――100時間後
薙癒が“襲われたくなければこの部屋から出ないこと!”と言い残しこの部屋を去ったあと、悠依はベッドの上で困り果てていた。
「この部屋から出るなって言われてもなぁ。暇だ……。少しなら良いんじゃない? お腹も空いたなぁ……遥季も架威もいなそうだし……よし!」
そう決めた悠依は部屋を出た。そこにはやはり誰もいなかった。
「やっぱり誰もいない! ん? あ、薙癒さん作って行ってくれたんだ」
悠依はテーブルの上に置かれた食事を食べ洗った後、“お風呂入りたい”と思い自分の部屋に戻ろうと玄関の扉を開け……ようとしたのだが、その扉は悠依の手によってではない誰かの手によって開けられた。
「ん? 悠依。なにしてんの、そんなとこで」
「悠依?」
そうそこに居たのは今一番会いたくない2人。架威と遥季だった。ひきつりそうな顔を抑えつつ、悠依は平静を装った。
「いや、別に? ちょっと自分の部屋に戻ろうかと思って」
「そっか、異常はないって薙癒が言ってたからな、大丈夫だと思うが、何かあったらまた来いよ?」
「うん! ありがとね、遥季!」
そう言って遥季の部屋を出て自分の部屋に戻った悠依は、まずお風呂に入った。そしてお風呂から上がり着替え、部屋でくつろいでいると何かがおかしい。自分の体温が上がっているのだ。
―――いや、体温が上がるというよりは薬の効果が出てきた、というべきか。
(これは、ちょっとヤバイかも……)
そう思った悠依だったが、もう声も出せなかった。
そのとき、玄関のほうからガチャという音がした。
(あれ……私、鍵掛けなかったっけ?)
「悠依? 鍵開いてたから入ってきたけど……?」
(遥季!)
「悠依、寝てるのか? 夕飯一緒に食べないかなと思ったんだが……? 悠依?」
「ん……」
「大丈夫か! 悠依!」
「痛っ……!」
「悠依?」
「はぁ……ごめ、遥季、何か薬、飲まされたらしくて、効果が……」
「薬?」
「ん」
「とりあえず俺の部屋に行こう、立てない……よな。悪いがちょっと触るぞ、悠依」
「痛っ……」
遥季は悠依を抱きかかえて、自分の部屋に向かった。




