19 【真実】
《検査室》と書かれた扉の前に着くと、悠依を縛っていた縄が解かれた。
「あ、ありがと」
「勘違いしないで、別にあんたのためじゃないの。この部屋には学園長が待っておられるの。一応“大切に扱ってくれ”とのご命令だから縛ったまま連れて行くわけにはいかないのよ」
「学園長が……そっか」
ガラッと開かれた扉。その中にはなずなの言葉の通り学園長が座っていた。
そこに居たのは悠依が想像していた学園長のイメージとはかなり違った学園長だった。
悠依が想像していたのは“ひげを生やしたおじいさん”という感じの学園長である。
だが、今、目の前にいるのはおじいさんでもおじさんでもない“お兄さん”といった印象の優しそうな若々しい学園長であった。
しかし、この学園の創立年から考えてもこの年齢であることはおかしい。
年齢維持という不老不死魔法を使っているのだろう。
学園長はしばらく悠依の顔を眺めた後、話し出した。
「そうか、君が神月さんか」
「はい。――あの、私の出生に疑問があると聞きましたが?」
「そうか、芹だな」
「はっ! 申し訳ありません!」
「いや、いい。手間が省けた。好都合だ」
「はっ!」
「それで、疑問とは何ですか?」
「そんなに知りたいのか? ……聞いてもよくないことだと思うが?」
「いえ、知っているのなら教えてください」
「――分かった、君の出生について話そう。君の母親の神月瑠李、旧姓、十六夜瑠李。彼女はこの世界で生まれこの世界で死した。完全な純血人だ。ここまでは君も知っているだろう? そして君の父親、神月幽羽は……」
そこまで言うと学園長は黙ってしまった。
「話してください! 私、父のことは死んだということしか聞かされていないんです! 知ってるなら教えてください!」
悠依の剣幕に押され学園長はゆっくりと、戸惑いがちに、話し始めた。
「君の父親、神月幽羽は……現世で生まれ現世で死した。――いや、正確には今も現世で生きているが……完全な異血人だ」
「異血人……」
そのとき、悠依はある疑問が浮かんだ。
「――あ、の、母が純血人、父が異血人ってことは……」
「あぁ、君は察しが良いね。――君は混血人だよ」
「混血人……」
混血人は人口の1割にいるかどうかもわからない人種である。
純血人と異血人の両親から生まれた子供のことを言うが、まず、異血人の割合が人口の3割にも満たないため、混血人の数自体が少ないのである。
「君には数少ない混血人の細胞などを研究するために検査を受けてほしい」
「……そういうことなら良いですが、“部下の人”に躾し直したほうが良いですよ?」
「躾? ――芹が何かしたか?」
「何かって……手を縛って床に放置されただけですけど」
悠依がそう言うと学園長の顔が曇った。
「芹。あとで私の部屋に来なさい。神月さん。芹の態度、本当に申し訳ない。芹には後から言っておく。今はとりあえず検査を受けてくれないか?」
「――はい、わかりました」
「あ、あと、私は君のお母さんの親類にあたる。私にとって君は孫のような存在だと勝手に思っている。何か困ったことがあったら私に頼りなさい」




