37日目 夢があるのかないのか
テレビで放送している映画を見ている時にそれは流れた。
「ふーんふっふっふ、ふーんふっふっふ」
「お兄ちゃんの鼻歌きもい」
「でもさ、この通販番組ってつい見入っちゃうよね」
「この社長の声に秘密があるんだよ。人をひきつける声みたい」
「オスのコウモリがメスに求愛するみたいな?」
「それは超音波」
今日の商品は吸引力が落ちない掃除機。
「掃除機か、新しいの欲しいな」
「でも、あれさ今のパックの交換のと違ってサイクロンだから、プラスチックとか吸ったらたぶん粉みじんだよ」
「そいつは恐ろしい」
絨毯やフローリングの上に並べた大量のビーズを吸い込んでも吸引力が落ちないことを証明している。
「この一分足らずのコマーシャルで、こんな高い掃除機とか売れるのかな? 壊れてたら欲しくなるけど、そうそう壊れるものじゃないし」
「電話オペーレーターを増員して待ってますみたいなの流れるから、売れてるんでしょ。それにほら」
古くなった掃除機の下取りキャンペーン。
「姉ちゃん買ってくれないかな」
「頼めば買ってくれると思うよ、ほら。分割金利手数料は負担してくれるって。10回払いまで対応」
「ローンに夢はあるの?」
「それは言わない約束」




