20日目 黒いあの人と同じ
「一年ってさ、過ぎるのが早いよね。なんというか、野良猫が赤ちゃん産んだと思ったら、次の瞬間には大人の猫と見分けがつかなくなるみたいな」
「そうやって過去を憂いている暇があったら前を向いて、未来に生きれば。背中の傷は剣士の恥だよ」
「僕になにがあったの? 無抵抗主義じゃないよ? 戦うよ?」
「どうでもいいけど、お兄ちゃんのことだから『俺に構わず先に行け』に憧れてるんでしょ? 守るべき相手いないのに」
なんでアカリはなんでも知っているんだろうか。
「どうせネトゲをやっても、一緒にパーティー組んでくれる人いないからソロ狩りばかりしてるよ! いつか絶対に、ビーターって呼ばれて、可愛い女の子とリアルで結婚するんだ!」
「間違って加速世界に行ったら、もっと早く歳取るよ」
「でも、剣道とか強くなりそうじゃない?」
「あの面の匂いに耐えられる?」
「不要な戦いをせずに、引くのも男だ」
「お兄ちゃんは逃げ出し。現実からも逃げ出した。髪の毛が最近、やたら抜けて悩んでいる現実からも抜け出した」
「なんで知ってるの!」
「人間の髪は季節で抜けやすくなるから気にしなくていいと思うよ」
アカリが奇跡的に優しい!
「どうせ誰もお兄ちゃんのことなんて見てないし」
「ああ、うん……そうだね」
綺麗な女の子が手を振ってきてどぎまぎしながら振り替えしたら、僕の後ろのイケメンに対してだった時の、僕のぎこちない笑顔と振っている右手のやりどころのなさと、恥ずかしさと同じぐらい、今の僕の顔は誰にも見られたくない。




