2
「名は。」あの方は更に問いかけなさった。
「鷹文と申します。」
「そうか。」
あの方の落ち着いた声は、人々にあの方のお話に聞き入らせる。
どれほど聴いても飽き足らない。
そして誰も彼も気づけば彼の御方に丸ごと魅了されている。
「私のことは澄人と呼ぶといい。」
自分は砂利に跪き、畏まって諾と申し上げた。
***
こうして自分と澄人さまとの関係が始まった。
自分は親鴨を慕う子鴨のように澄人さまの後へついて回った。
あの方は多くを語らなかった。
なぜ、このような場所にいるのか。
どうして身を隠しているのか。
子どもの浅ましい好奇心に駆られ、お尋ね申し上げたとき。
「私がここにいて、君がそこにいる。これ以上、何を知る必要がある?」
そして、跪く自分の頭をさらりと撫でてくださった。
以後、自分が澄人さまに褒めていただく際、澄人さまは跪く自分の頭を撫でてくださることが習慣となった。
澄人さまの仰ることは抽象的だった。
文芸はからきしである自分はよく理解に苦しんだ。
物覚えの悪い自分に、澄人さまはひとつひとつ小石を並べるように説明してくださった。
教えを乞う人間は決して見離さない方であった。
ただ、一つだけ説明していただけなかったことがある。
あの日、澄人さまは常にそうであるように自分の頭を撫でてくださりながら、こう仰った。
「鷹文、お前は鷹だ。どこまでも羽を伸ばして飛んでおゆき。」
「鷹は必ず鷹匠のもとへ戻って参ります。」
「それはいけない。せっかくの羽があるのだ。広い空を渡り歩かなくては。」
「それなら鷹匠も鷹と共に歩めば良いのです。」そう返事申し上げた。
澄人さまは目を細めて地平の彼方をご覧になっていらした。
「それができたらどんなによいか。」
溢れた欠片の意味は、どれほどせがもうと教えていただけはしなかった。




