↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
謎のマッチングアプリ【マッチングゥ】から始まる彼女探し〜恋愛経験値0の俺は指示に従うだけです! ほんと彼女できんのっ!?〜  作者: おみくじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/20

またねっ

「えっと、青木くんはコーヒー好きなの?」

「えっ!? えっと~……」


 ムーンバックスカフェの小さな丸テーブルの席で、俺は正面にいる初対面女子こと、小川陽菜《おがわひな》の質問に戸惑う。


 コーヒーなんて普段飲んだりしない!! 何というか苦みのイメージが強すぎて美味しそうと思わないというか。でもコーヒーの香りは嫌いじゃない! 現にこのムーンバックスカフェに満ちている香りは心地良い。そして、俺が注文したエスプレッソラテの香りも同様に。てか……、


 エスプレッソラテってなに?? これ美味しいの?? 自分で注文しておいてだけども!


「……、こほん」

「いっ!?」


 小さい咳払いにハッとした。エスプレッソラテに向いていた視線を、小川陽菜に慌てて向ける。彼女はどこか満足げにほほ笑むと、


「エスプレッソラテとは」


 鈴音のような心地いい声音が俺の耳をくすぐる。

 小川陽菜は、シンプルな銀縁の眼鏡を片手で少し摘まみ上げ、得意げに説明を続けた。


「コーヒー豆を専用機械にて高圧で一気に淹れたエスプレッソコーヒーに、ミルクを加えた飲み物なのですっ」

「ほ、ほう」

「エスプレッソコーヒーの濃い苦みをミルクで和らげつつも、コーヒの深い味わいを楽しめます」

「ほ、ほうほう」


 そう言い終えると、小川陽菜は、ふぅー、と小さく満足な吐息をついた。俺は、ほうほう、としか言えず、なんだか情けない。


「ねえ、青木くん」


 突然名前を呼ばれてドキッとしたのもつかの間、小川陽菜は少し身を乗り出し俺にそっと聞いた。


「エスプレッソラテの説明、分かり易かった?」

「あ、ああっ。わ、分かり易かった」

「そっかぁー。ふふっ、私もそう思います」


 と、片手に持っていた文庫本を丸机にそっと置いた。


【コーヒー図鑑】 


 ん…………?、もしかして、先ほどの流暢な説明って………、


 俺は小川陽菜の顔を見つめる。すると彼女は、楽しそうに微笑んだ。


「ふふっ、本の受け売りですっ」

「うっ、やっぱり」


 やられた。眼鏡女子のインテリ雰囲気も手伝って、よく知ってるなぁと、ちょっと感心もしてたのに。


「あっ、騙されたぁ〜って、思ってる?」

「そ、そんなことはない」

「ふふっ。でもウソはついてないからね」


 まあ、そうだけど。ちょっと腑に落ちない。


「じゃあ次は青木くん」


 小川陽菜の瞳が、興味深げに少し見開いた。


 次は俺? 一体何のことだ?


 すると、小川陽菜はエスプレッソラテに人差し指を向けた。

 

「飲んだ後の感想を聞きたくてっ」


 と、両頬に小さくできたくぼみと共に微笑んだ。


 あどけない可愛さに、俺の心音が跳ね上がるなか、気になったことがあった。


 俺は控えめに口を開く。


「えっと、エスプレッソラテを飲んだことないのか?」 


 その質問に、彼女は少しの間の後、照れ臭そうに頷いた。


「コーヒーの苦味がねっ、まだ得意じゃなくって。香りは大好きなんだよ」


 それを聞き、俺はちょっと安心した。


 ムーンバックスカフェに行き慣れていても、コーヒーの苦味には、互いに不慣れってこと。だから、今から初めて飲むエスプレッソラテに俺が苦戦したとしても、恥ずかしくはない。


 俺は、丸テーブルに置いてあるエスプレッソラテを手に取った。プラスチックのクリアなコップ越しから伝わる冷たい触感に、喉の渇きがうずく。


 小川陽菜が興味深げに見守るなか、俺はコップにゆっくりと口を付けた。


 舌に広がる最初の味わいは、独特の苦味。コーヒーだっ。いや、当たり前なんだけど。


 でも、不思議だった。


 美味しい。


 エスプレッソラテの苦味はほんのりとした感じで。ミルクが入っているおかげなのか、まろやかで飲みやすい。あと、ほのかに感じるミルクの甘さ良い。


 うん、こういうコーヒーもあるのかぁ。んぐ、んぐ、んぐ。


 一口飲んだ後も、俺は自然と続けて飲んでいた。そしたら、


「あのぉ………」


 控えめな声音で問いかけられハッとした。


 一旦飲むのを止めて、小川陽菜に目を向けると、ちょっと不服そうな目線で俺を見ていた。うっ、感想を求められていたんだった。は、早く言わないと。


 でも、気恥ずかしくて中々声が出なかった。両頬が変に熱っぽくなってきて焦りが込み上げてきたとき、小川日菜が目を細めて小さく笑った。


「ふふっ、うん。言わなくてもすごく伝わりました」


 えっ? そ、そう??


 俺が何も言えずにいると、彼女はふわりと笑う。


「ふふっ、すごく美味しそうに飲んでたから。青木くんて、表情が素直かも」

「す、素直!?」


 初めて言われたぞ、そんなこと。つまり俺は、感情が顔に出やすい!? それは恥ずいんだけど!?


「まあまあ、良いじゃないですか」

「いっ、いやいや! 良くないからっ!」

「でも青木くんの素直な表情のおかげで、エスプレッソラテがとても美味しいことがわかったから」


 ありがとっ、と小さく笑った小川陽菜。彼女の瞳もその柔らかな笑みにつられて細くなる。可愛い表情と、無機質な銀縁眼鏡のギャップに、俺はまた鼓動が早くなる。


「こんどは私も頼もうっと。エスプレッソラテ」

「っ!? お、おう、良いと思うぞ」

「うんっ。あっ、私、もうそろそろ帰らないと」


 そう言って、どこか残念そうな表情をしたように見えたが、きっと気のせい。非モテの俺の悪い癖だ。


 俺が、そっか、と小さく言うと、彼女は席から立ち上がる。

 俺は、手持ち無沙汰でまたエスプレッソラテを飲んだ。やわらかな苦味が心地いい、ん??


 小川陽菜が、俺に本を差し出していた。


「はい、貸してあげる」


 俺は、慌ててエスプレッソラテを机に置く。差し出された本をとりあえず受け取る。


「えっ、えっとー」

「私、毎週金曜日に来るの、大体この時間帯。だから、」


 小川陽菜は、俺に少し顔を近づけた。そしてて、


 また会おうねっ。


 そう言い終えると、小川陽菜は満足そうな表情で、どこか楽しげに笑う。俺は、このときどんな表情をしていたかは、分からない。でも、変な表情ではなかったと思う。彼女の、親しげな笑みを見ながら。


 バイバイ、と小さく手を振る彼女に俺も合わせて手を振る。そして、店の出入り口に向かう小川陽菜の背中を見送った。


 1人、残った俺。


 小さな丸テーブルに、本をそっと置いた。


【コーヒー図鑑】


 鼓動が、慌ただしい。


 なんだか周りの目が気になって、俺は残りのエスプレッソラテを飲み干す。


 優しい苦味。気持ちが、落ち着いた気がした。コーヒーって………、なかなか良いもんだな。


 この落ち着いた機を逃してはいけない。


 俺は席から立ち上がり、歩き出す。


 飲み干したカップをダストボックスに入れ、早足で店の外へ。


 陽はだいぶ落ちて、薄暗い。涼しい風が頬を通り過ぎていく。

 

 ふぅー、とりあえず、帰ろう。


 片手の【コーヒー図鑑】の感触が変に意識されるなか、俺はまた早足で家に帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。