18話 亜人の村に到着
王都を出発して月龍様の山に向かう私とルルーさん。石馬で移動しながら最初にしたのは月龍様への連絡です。私とルルーさんの2人で向かっていることをお伝えしました。それと、どのくらいの期間で到着できるのか不明なことも。穢れを払う旅では1年かかった距離ですが、石馬でまっすぐ向かった場合、どのくらいの日数で到着できるのか分からないのです。月龍様にも気にせず道中の無事だけ心がけて来いと言っていただきました。これでひと安心です。
それほど急ぐ旅でもなくなったので、王都でのんびり静養することもなかったので、旅の道中は高級宿に泊まって数日滞在することが多かったです。私もルルーさんも大金持ちになったのですもの(笑)誤解がないようにお話ししますが、2人で贅沢な旅を続けているのにはちゃんと理由があるのです。森で暮らすようになると、生活に困るようなことは無いにしても、贅沢な暮らしはできないでしょうから。何せこれから住む場所は人が住んでいない森の中なのです。今回の旅の間は贅沢を楽しんでおきましょうとルルーさんと決めたのです。
旅の途中、宿泊はのんびり豪華でも移動は石馬の最高速で移動なので、かなりの短期間で到着可能なのは間違いないです。月龍様にいつお伺いしますとお伝えできないのも失礼かと思い、最終目的地を前回の旅で月龍様にお会いしに行くときの宿泊地にした宿にしました。その宿からなら明確に明日お伺いしますとお伝えすることができるからです。最後の贅沢の場所って楽しみもありますしね(笑)
最後の宿に到着した日に月龍様に3日後にお伺いしますとお伝えし、月龍様から了解のお返事をいただきました。出発日までは最後の静養です。大きなお風呂に浸かり、豪華なお食事とお酒を楽しみ、ボーっと何もしない贅沢な時間を過ごしました。私とルルーさんは旅の疲れもとれて、気分もすっかりリフレッシュできました。
いよいよ出発の日となり、私は気合を入れていましたが、ルルーさんは宿のオーナーさんにまた来ますねと明るい笑顔。確かにまた宿に泊まりにくればいいのでは?と私も思いました。私は肩に力が入り過ぎていたようです。私ももう少し落ち着いて周りを見渡した方が良いようです。森での生活が始まる前にそのことに気付けたのは大きかったです(汗)
宿を出て人目につかないところまで移動して、私とルルーさんは石馬に乗りました。月龍様のところには夕方前には着けるでしょう。さすがのルルーさんも月龍様との再会を控え緊張してきたようです。私は……特に意識はしていないですけど。
移動を始めた日のお昼過ぎ、前回同様に月龍様の住まう山の火口からゆっくり高度を下げていき、月龍様のそばの開けた場所に石馬を着陸させました。
月龍様とご挨拶をして、まずは私は大きな塊にしたムーンストーンを次々に取り出し積み上げていきました。もちろん私とルルーさんでは持ち上げられないほどの大きな重い石の塊なので、私の反重力の魔法を使っての作業となりました。大量の石の塊に月龍様も次期月龍様も喜んでくださった。お顔は怖いドラゴンのままでしたけどね(笑)
『聖女、ルルーよく来たな。まずは穢れを払う旅はご苦労であった。これでこの近辺の地もしばらくは落ち着くことだろう。また、ルルーは聖女と共に生きていくことを選択してくれたことに感謝する。これからも聖女を支えてやってくれ』
月龍様からのルルーさんへの感謝のお言葉にルルーさんは恐縮するも嬉しそうでした。そして月龍様からは、これから森で暮らす私たちに手助けとなるものを授けてくださった。
『まずはルルー。この森で人が暮らすのはなかなか難儀なものだ。そこで聖女の乗っている石馬をルルーにも提供しよう。森の村の民に軽石の採取を頼んでおいたので、その石を使って石馬を作り森での生活に役立てるがよい』
ルルーさんは月龍様のお心遣いに感謝するものの、少々残念そうに月龍様にお返事していました。
『月龍様、お心遣いを感謝しますが、私は石馬を飛ばす魔法を知りませんし、その魔法を使えるほどの魔力も持ち合わせていません』
『ルルー、そう慌てるな。反重力の魔法はこれから授けてやる。それとムーンストーンの杖の力は、ルルーが考えているより絶大だ。杖との疎通についても授けてやろう』
月龍様はそう言うと、ご自身の全身をまばゆいばかりに白く光らせ、私とルルーさんに何かを伝えようとしてくださった。
『ルルー、これで杖の能力を最大限引き出すことができるだろう。杖と連携することで石馬を飛ばす程度は苦にならずにできるようになる。しばらくの鍛錬で慣れは必要になるだろうがな。それと2人に森の精霊の声を聞こえるようにしておいた。森の精霊との対話ができるようになることで、多くの情報を森から得られることだろう。森での生活には必要不可欠なので活用してくれ』
『森の精霊ですか?今までの聖女様の中にも森の精霊について書かれていた方はいなかったのですが……』
『確かにそうかもしれん。聖女がこの森で暮らす必要など今までにはなかったことだ。そう考えると、この混迷の世の中にしたのは人ということになるか』
『やはり奴隷制度のようなものが作られたことが原因でしょうか?』
『その答えは聖女がこれから見つけていけばよい』
『分かりました。まずは森の村の皆さんとこれからのことを相談して、皆さんの生活の改善から始めてみたいと思います』
『ああ、村でも聖女の来訪を楽しみにしておるようだ。特に聖女に助けられた亜人たちはな』
『私も皆さんにお会いするのが楽しみです。では月龍様、いろいろ森での生活に必要なものを授けていただきありがとうございました。月龍様がお困りのことがあれば、何なりとお声がけください。私もルルーさんも森の中におりますので』
『ああ、そうさせてもらおう。まずは自分たちの生活基盤を整えることから始めてくれ。焦らずともかまわんからな』
『ところで月龍様、森の村はどこにあるのでしょう?』
『それは森の精霊に案内してもらえ。聖女の使う空気の玉?の魔法では森の妖精の声は感じないだろう。森に入ったら空気の玉の魔法は解除してくれ』
私とルルーさんは深々とお辞儀をした後、また来ますねと言って石馬に乗り込んみました。ゆっくり上昇して山の外へ出ると森を目指して前進を始めました。
飛行の最中のルルーさんは喜びいっぱいに興奮気味でした。
「アリス様、私にも石馬を賜りました。アリス様のように自由に空が飛べるのですね!」
「ルルーさん、お喜びのところ申し訳ないですが、まずは寝床の確保からですよ。私とキリエさんが穢れの探索のときに使っていたベッドが2つだけの寝るだけの部屋でいいですか?」
「ええもちろんです。食事は村の皆さんとご一緒させてもらいましょう。同じ釜の飯を食う~ですね(笑)」
ルルーさんとおしゃべりしていると、夕方前には森の入り口に到着できました。石馬の速度を落として空気の玉の魔法も解除しました。まずは森の精霊さんとお話しをしなければならないのですが、いったいどうすればお話しをすることができるのでしょう?うーん、こういう時は月龍様とお話しするときのように杖を通して思念を送ってみましょう。
私が森の妖精さんに向かって「アリスが森に到着しました」と思念を送ってみると、私の声?は風となって木々の枝葉を揺らしました。その揺れは瞬く間に次から次へと木々に伝播していきました。その後しばらくすると、今度は木々の揺れは私たちに向かってきました。そして私とルルーさんはその揺れの中に囲まれました。
『聖女様、森へようこそ。これから村へご案内させていただきます』
『森の精霊様、少々お待ちください。森の精霊様とはお会いすることはできませんか?可能ならご挨拶をしたいです』
『森の精霊などと言われていますが、この森自体が精霊であり、木の1本1本が精霊です。1つの森に1つの意思が存在します。1本の木に話しかけてくだされば、森のすべての木々にその言葉が伝わります。1本の木が感じたものが、すべての木々に共有されるのです。肉体を持つ種族とはまったく異なった集団なのです。前回、聖女様が月龍様とお会いした後、月龍様にお願いされ森の侵入者を監視するようになりました。亜人の連れ去りをすべて防ぐことはできませんでしたが、侵入者からはまず遠ざかる意識が徹底したことで被害は最小限にとどめていました。木々の意識の共有を利用していたのです』
『村の皆さんをお守りくださり、心から感謝いたします。これからもお力をお貸しくだされば嬉しいです。村の皆さんの生活が落ち着いたところで、森の精霊の皆さまにも恩返しをしますので、今後もご協力をお願いします』
『実は森の精霊として聖女様にお願いしたいことがあります……ただ、すぐにどうこうという状況ではないので、聖女様が落ち着いた頃にお声がけさせていただきまし』
『はい、何なりと申し出てください。全力でご協力しますので』
『ありがとうございます。では、村へご案内しましょう』
ここで森の精霊様との会話は途絶えました。ただ、木々の揺れで方向を示してくれているのが分かります。ルルーさんにも先に進みましょうと声をかけて、石馬を木々の指示通りに進めていきました。
私たちは石馬に乗って示される方向へ石馬を飛ばします。木々を縫うように飛ぶのはなかなか骨がおれるので、森の精霊様に森の上空を飛ばせてもらいますと伝えて了解を得ました。石馬を上昇させて木々の上にたどり着きます。木々を避ける必要がなくなったので、飛行はとても快適になりました。空気の玉がないのでルルーさんは少々肌寒く感じているかもしれませんが。
私が石馬の速度を上げたところ、木々の指示も早くなりました。ただ、ある程度の速度まで上げると、木々の指示が追い付いてこれないようでした。私は速度を落として木々の指示についていくよう飛行をすることにしました。
1時間ほど飛んだでしょうか?辺りはすっかり夕焼け空となりました。エリアスにどの辺か聞いてみると、もう東の海の近くまで来ているそうです。人の住む町からかなり離れているので、人目に付かずにひっそり暮らせてきたのでしょう。進行方向に目を向けると、木々がすっぽり生えていない場所のようです。このタイミングで森の精霊様も声をかけてくれました。
『聖女様、村は湖の畔にあります。ご案内はここまでにさせていただきます』
『森の精霊様、村への案内をありがとうございました。しばらくはこの辺に住むつもりでいますので、何かあれば声をかけてください』
私とルルーさんは森を抜けたところで森の方へ向かって手を振りました。木々もざわざわ揺れて、返事をしてくれたようです。再び石馬を進め始め、湖の畔をきょろきょろしながら着陸場所を探します。するとたいまつを振って誘導してくれる人が何人か見えました。私は速度と高度を落としながら、導かれるままにそばへ向かいます。
石馬を着陸させて石馬は小さくしてベルトの箱の中へ。辺りを見回すと、かしずくようにお辞儀をしている人、普段通りな人、明らかに警戒している人と様々です。ええと、人と書きましたが人間は1人もいなくて、全員が亜人の皆さんなのですけどね。
私たちのところへ7人の亜人の皆さんが歩み寄ってきました。先頭を歩いているのがトカゲ型の亜人の老人です。トカゲ型の亜人の人には何人かお会いしたことがあったのですが、この老人はかなりトカゲに近いトカゲ型のようで、私は初めて見るタイプの人でした。
「始めまして、聖女のアリスと申します。隣にいるのが私と一緒にこちらでお世話になるルルーさんです。これから皆さんと一緒にこの森で暮らしていきます。よろしくお願いいたします」
私とルルーさんで会釈をすると、老人がご挨拶を始めてくれました。
「聖女様、初めまして。この村の村長をしているアガタと申します。後ろに控えているのは部族の責任者たちです」
皆さんもそろって会釈をしてくださった。私が見たこともない亜人の種族もいるようです。後ほどご挨拶をしましょう。
「月龍様から聖女様とルルーさんが来られると伺って、今夜は歓迎会の準備をしておりました。今宵は存分に楽しんでください」
村人の大歓声で歓迎会の始まりとなりました。私とルルーさんは村長に案内されて席に向かいます。今夜は皆さんと楽しんじゃいましょう!




