1話 ここはどこ?私は誰?
タイトルを見て何この小説!って皆さんだって思ったわよね、もちろんこれまでの経験を経て物語る私ですら、何これって感じですもの。
でも、皆さんにはぜひ聞いていただきたいの。私だってこの王国のためにと思って精一杯頑張ってきた。だから私は素直に愚痴り気味に物語ります。
「私の何が悪かったのよ!」って。
皆さんだって私の愚痴を多分に含んだ物語を読んでくだされば、それなら仕方がないと思ってくれるはず!……思ってくれますよね?
では、私がこの王国に召喚されたところからお話を始めていきましょう。
眼が眩むほどのまばゆい光に包まれた。もちろんぎゅっと瞳を閉じて両手を目の前で交差させることで、謎の光のまぶしさをやり過ごしたけど、光が収まった後も頭はぐるぐるするし船酔いのような気分の悪さが残るしで、気持ちも体調も最悪の状態。私はうずくまったままで回復するのを待った……
うずくまった体勢のままでいたおかげか、しばらくしてようやく少し落ち着いてきた。大きく深呼吸をしてみる。うん、いい感じ。深呼吸を何度か繰り返すことで、さらに気分も体調も回復できた。最悪の状況を脱することができると、気になるのは自分の周りの状況。まだ目を開けて周りを確認した訳ではないけど、私の周りには大勢の人がいるみたい。おまけに皆さんがかなり慌てているみたい。
ゆっくり目を開いて顔を上げてみれば、私の周りは倒れている人やうずくまっている人、それらの人たちを救助しようとしてる人、大混乱の様子だった。そんな混乱した状況よりも、私が気になってしかたがない状況がもう1つ。私の目の前に小さな女の子?が飛んでいるの。私の手の上に軽々載せられえるほどの小ささだから、私が気になるのも分かるでしょ?おまけに背中に羽が生えているし、羽ばたくとキラキラした光の粒がまき散らされるしで、もう私は精霊さんですよねって声をかけたくなる。私が声をかけるか迷っていると、妖精さんの方から声をかけてくれた。
『気分はどう?少しは落ち着いた?』
「ええ、しばらく動かなかったから、かなり回復してきました。ところであなたは誰ですか?」
『1度挨拶は済ませているのだけど、もう覚えてはいないわよね。私はエリアス。見ての通り妖精と呼ばれるものです。あなたをサポートするためにこの世界に一緒に送られてきたの。あなたは前世の知識もこの世界の知識もすべて備わっているのだけど、あなた自身のことも経験したことも忘れてしまっている。自分の名前も憶えていないでしょ?』
エリアスにそう言われ、自分のことを思い出そうとしてみたけど、確かに何も思い出せない。ここはどこ?私は誰?って感じです。名前を思い出そうとしてみても、思い出せそうな気がまったく起こらないほどにすっかり消えている。そのくせエリアスが妖精みたいとか、今いる場所が白い石造りのコロシアムのようなところだとかは頭の中にポンポンとちゃんと浮かんでくる。
「ええ、エリアスの言う通り、自分のことは何も思い出せないみたい。これからどうしたらいいのかしら、困ったわね」
『君はこの世界に聖女として召喚されてきたから、君のことを邪険に扱う人は誰もいない。その点は心配しなくても大丈夫。それと私は君にしか見えない存在なの。声を出して私と話さない方がいいと思う。声を出さなくても会話ができるから試してみて』
確かにエリアスの言葉は、耳からではなく頭の中に直接響いてくる感じで伝わってくる。私に同じことができるの?声を出さずにしゃべれる?うーん、頭の中だけでエリアスに向けて話しかけてみればいいのかな?まぁものは試しにやってみましょう。
『エリアス、聞こえますか?』
『うん、ちゃんと聞こえるよ。これからはこんな感じで話をしてね』
『うん、了解です。ちなみにエリアスはいつも私のそばにいるの?寝たり食事をしたりするときはどうしてるの?』
『妖精なので寝る必要はないし、食事をしなくても死んでしまうことはないの。ただ、食事をするのは大好きよ、世界にはおいしい物が溢れているもの』
『あはは、食べなくても済むけど食べることはできるって理想的ね。ところでエリアス。やっぱり私に名前がないのは不便じゃない?そろそろ私が顔を上げたことを周りの人も気づきだしたようだし……』
私は不思議なことに、聖女してここに召喚されてきた自覚はしっかりある。なので多少は聖女らしく振舞わなきゃって気持ちもある。そんな訳で名前くらいは決めておきたいのよね。
『名前は好きに名乗ってもらっていいよ。ちなみに先代の聖女様はアリス様だった』
『それなら私もアリスでいいわ。皆さんにも聖女様はアリスって受け入れやすいでしょ。あら、ちょっと待ってエリアス。身なりの立派な人たちが私の方へ歩いてきた。先にあの人達とお話ししてみるわね』
『この王国の重要な役職の人たちよ。アリスに過去の記憶がないことは話してもらった方が都合がいいと思う。それじゃ私はそばでおとなしくしているから、困ったことがあったら声をかけてね』
『ありがとう、エリアス』
私に近寄ってくる人達のために私も立ち上がることにした。私が弱々しくゆっくり立ち上がっただけで、周りの人は何やらざわざわしていた。とっても注目されているのね。恥ずかしい(汗)
私が立ち上がると、私のそばへ来た人たちの中から明らかに剣士様と思われる男性だけが1人でさらに私の前に歩いてくる。剣士様が軽く会釈をしてくれたので、私も会釈を返した。
「私は王国軍の将軍を務めております、ガーランと申します。失礼ですがあなたが聖女様で間違いないでしょうか」
「ご丁寧なご挨拶をありがとうございます。私は聖女として召喚されたアリスと申します」
私がそう言ってペコリと頭を下げると、周りの人々が歓喜の声を上げた。私はその熱量に驚いて、少々恐怖すら感じる。私の怯えを感じ取ってくれたのか、ガーラン様が右手を挙げて皆さんに鎮まるようにしてくれた。これだけの人のあれだけの歓声がピタッと鎮まるのだから、ガーラン様はよほどの高貴なお方なのでしょう。
「アリス様、まずは宰相様とお話をしていただけますか?」
「私に異存はないのですが、私は皆さまの御前での礼儀作法の心得がまったくないのです……」
「心配には及びません。宰相様は気さくなお方ですし、聖女様は王国にとって特別なお客様ですので」
私はガーラン様にこちらへと案内されて、宰相様たちのいる場所まで歩いていく。ガーラン様が最も身なりの立派な人の前で歩みを止める。そしてガーラン様がその人を私に紹介してくれた。
「こちらにおられるお方が、この王国の宰相であらせるエイジア様でございます」
私はどう挨拶すればいいのか分からないので、ガーラン様にした挨拶と同様にした。
「エイジア宰相様、お初にお目にかかります。聖女として召喚されたアリスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「アリス様、そのように緊張せずにリラックスしてください。あなたは聖女様で王国にとっては国賓となられるお方なのですから」
「お心遣いに感謝します。王国のために聖女の役割を果たすことをお誓いします。ただ、聖女として召喚されたためか、今の私は過去の記憶をすべて失っています。どうか1人で生きていけるまでのご助力をお願いいたします」
「過去の記憶を失った……それは大変お気の毒なことです。でも、ご心配なく。王国がアリス様のサポートをしっかりさせていただきますので。まだお体の具合も悪そうですから、まずはお部屋でゆっくりお休みください。今後のことはおいおいゆっくり決めていきましょう」
簡単な挨拶だけで宰相様たちは戻っていかれた。私のそばには1人の女性の剣士様が残られた。
「聖女様、私は聖女様の護衛を担当します、キリエと申します。聖女様に常に付き従っておりますので、何なりとお申し付けください」
「アリスです。お世話になります。何分王国のことを何も知らないので、いろいろご迷惑をおかけすると思います。よろしくお願いします。いつもそばにいてくれるなら、堅苦しいしゃべり方はここまでにしましょう。私はキリエさんと呼ぶので、キリエさんも私のことはアリスと呼んでください」
「さすがにアリスさんとはお呼びできないので、呼び名だけはアリス様でお許しください。ただ、話し方は友人のようにさせていただきます。早速ですがアリス様のお部屋にご案内しましょう。まずはお部屋でゆっくりしてください」
「はい、ありがとうございます。お部屋への案内をお願いします」
私とキリエさんが2人並んで歩き始める。私の向かう先にいた人たちは、ささっと左右に下がって私たちに頭を下げて通り過ぎるのを待ってくれる。最初は私も会釈を返していたけど、さすがにずっと挨拶を返すのがしんどくなってきた。キリエさんが少々の苦笑い混じりに気にせず歩いてくださいと言ってくれたので、お言葉に甘えることにしてそのまま歩くことにした。
キリエさんは道すがら、王宮の建物やお部屋を説明してくれた。けれど私は状況が落ち着いて緊張がとけてきたからか、疲れがどっと出てきてもうへとへと。キリエさんの言葉がぜんぜん頭に入ってこなかった。
やっとのことでお部屋と思われる大きな扉の前で立ち止まる。キリエさんが大きな声で「聖女様のお戻りです」と私の到着を知らせる。すると大きな扉が開いて、キリエさんにお部屋の中へ案内された。でも残念、私が意識を保っていられたのはここまでだった。
「キリエさん、ごめんなさい。もう体力の限界です。ベッドに横にならせてください」
それだけ言い残して私はその場で崩れるように意識を手放す。そんな私に気付いて、キリエさんがとっさに私を支えてくれて難は逃れた。お部屋のお世話係の人たちは大慌て。それでもキリエさんは落ち着いて、私をお姫様抱っこでベッドまで運んでくれたみたい。私の初めてのお姫様抱っこが女性だなんて、ちょっと残念よね(涙)
こうして私はこの世界に召喚されたのでした。




