変化と怪物
少しだけ早めの投稿です。
夜、1人で宿を出てすっかり暗くなった街の広場へと向かう。
初日にギルドの依頼でいった塔型ダンジョンの麓にある広場だ。
「今日は静かだ」
この前の喧騒が嘘のように静まり返り、人っ子一人いない広場。
「やっぱり塔に魔力が流れてる?」
昼間に感じた寒気。あれから魔力が塔に集まりだしているような感じがした。しかもその魔力は全て人から流れ出ている。
現に俺もごく少量だけど吸い取られている。
普通なら気づかないほど少ない量だ。だけどずっと流れ続けていたおかげで分かった。
「でも、何が原因だ?」
魔法陣か?それとも元々そういうギミックでもあるのか?それとも全く別の何かなのか。
俺が知らない異世界の技術。素晴らしい。
「調べ尽くしてやる」
魔術的にも物質的にも丸裸にしてやる。
***
「時が満ちる時とはそういう事なのか」
一通り分析し終えて分かった事がある。このままだとイールパースは消滅する。
魔力を吸っているものの正体はこの都市に元々あった魔力吸収装置で、街の道路に使われているレンガで描かれた魔法陣と、イールパース全島で書かれた二重魔法陣だった。
問題はここからだ。
その機能は本来、起動に必要なアイテムがあるのだ。【島守の首飾り】というものと、そして死の眷属、つまりはデモナリスの子孫たち、ガイルの兄弟たちだ。
そんな存在が今この島にいる。さまざまな露店が立ち並び、賑やかな島。そして何よりユリアやノワにモモハ、ついでに勇者ソウジとそのハーレムがいるのだ。この島を壊させるわけには行かない。
「まずは術式を破壊するとするか」
魔術式【魔滅破】起動。狙いは塔でいいか。
「はいドーン‼︎」
ズドンッ‼︎と重く響くような音とともに魔力の流れが止まる。
魔術式【魔滅破】。その物々しい名前が指し示すと通り魔力を消滅させる対魔術師の技だ。直接相手を殴れば相手は2度と魔力を使えない体になるし、それを結界に打ち込めば2度とその魔術式は使い物にならなくなる。
「さて、そろそろ出てきてくれてもいい頃合いじゃないのか?」
塔の頂上でひたすら魔力をためていた存在がいるはずだ。
「おやおや、随分と危険な業を使うものが現れましたねぇ」
ビンゴだ。黒いコウモリの羽に、山羊の頭。それに蛇の姿をした尻尾。こいつが黒幕で間違いない。
だが本調子ではないのか、ボンヤリと薄く透けているようにも見える。
「貴方、何者です?」
「お前にとっては邪魔者になるな」
封印解放。第1段階。
「死ね」
先手必勝とばかりに踏み込み黒幕に攻撃を仕掛ける。
が、
「なに⁉︎」
「全く、こちらには争うなどさらさらないというのに。もっとも貴方が死にたいというのであればその限りではありませんがねぇ」
攻撃は当たらなかった。まるで霞でも切っているかのような感触しかない。
「我輩、この都市の様子を見にきただけでしてねぇ。ここの担当は私ではないのでどうぞ好き勝手にやって下さい。それでは」
言葉の間に攻撃したら死ぬ。そんな風に思わせるには十分すぎる圧力。人が災害に巻き込まれて諦めるような、そんな圧倒的な差。
「ではさようなら」
本当に様子を見にきただけだったのか驚くほどあっさりと化け物は去って行った。
俺は動かないということしかできなかった。
どれほどそうしていただろうか?
空が白み始める頃までずっと俺は立ち尽くしていた。
「帰ろう」
やっぱり世界は広い。今の俺よりももっと強い奴がいたじゃないか。
「次こそは必ず斬り伏せてやる」




