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そして彼は【悪】になる  作者: 徹夜明け午後3時半の憂鬱
第1章 神代遺跡迷宮 イールパース
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夜と夢

「にー様、どこに行っていたのですか?」


 宿に戻ってすぐにユリアが頬を膨らませながら聞いて来た。

 寝かしつけたのに起きちゃったのか。


「ちょっと夜の散歩に」

「あんなに強烈な魔術を使っていたのに?」


 頬を膨らませるだけでなく、ジト目まで加わった。


「ちょっとね」

「怪物には聞きませんでしたけどね」


 怪物というのはおそらくあの悪魔のことだろう。


 全くユリアも痛いところを突いてくるものだ。

 今のままでは絶対に勝てないほどの差を理解させられる相手。

 枷を外す必要がある。


「ユリア」

「枷を外すのですね?」


 普段とは違う。真剣な声。心を読んだが故の言葉。


「その通りだ。第二の鎖を解き放って本来の力を使う準備がしたい。多分悪い夢を見るから本当に苦しそうだったら起こしてくれ」

「ノワちゃんにはこのことは?」

「伝えないでおいて欲しい。あの子はまだ不安定だからね。そのうちモモハにでも預けようかな?」

「それだけはやめてあげて欲しいのです」

「もちろん冗談だ」


 ノワをモモハに預けたらそのうちソウジに美味しくいただかれることになるだろう。

 誰が奴なんかにノワを渡してやるものか。

 あの子が自分の命を預けてもいいと思える奴と出会うまでは手元から話すことはない。


「それじゃ、布団に入ろうか。ほら、おいで」

「一緒に寝ても良いのですか?」

「もちろん」


 ユリアを腕の中にすっぽりと抱きかかえながら眠りにつく。

 目が覚めた時に訪れるであろうことにさえも期待を抱きながら。


 ***


 夢を見た。絶えぬ怒号と悲鳴。尽きぬ怨嗟の声。魔物の鳴き声。


 そして全てが黒く塗りつぶされた頃にやってくる《声》。


【忘れるな。お前の求める者は常にお前を置いて居なくなる】


 分かっている。だから人に期待することをやめた。自分の近くにいる人間と親しくなることを拒んだ。


【それでもお前はまだあの小娘に執着している。あの小娘が壊れないと知っているから】


 モモハは俺の力を受け止められるある意味天敵だからな。当然だよ。

 だからこそ俺はあの子を求めた。俺を律してくれる人間がいることがお前への対策になるから。


【しかしお前は求められて居らぬ】


 分かっている。

 モモハが選んだのは総司だ。俺じゃない。


【我と同じように貴様は苦しむだろう】


 苦しむなんて当然じゃないか。俺の存在理由を忘れたのか?


【狂気に墜ちよ。憎悪に塗れよ。間も無く来たるは病苦の神。お前は再び求める者を喪うだろう】


 こちらの質問に答える気はないのか預言者の真似事を始めた《声》。


 だけど、そんな未来は訪れないよ。

 俺の力がそれを壊すから。


【ああ、楽しみじゃ、楽しみじゃ。咎の王として()()()()お前が果たして人の身のままアレを壊せるのか。お前の中(特等席)で眺めてやろう】


 闇が笑う。


 俺が自分の力を解放して崩れ壊れるのがそんなに楽しいか?


【ああ。楽しいとも。お前は我に()()()()()()。それだけで狂おしいほど喜ばしいものだ】


 ああそうかい。俺を乗っ取ろうとしても無駄だよ。

 俺を求める存在は確かに生まれた。俺は確かな幸せを見つけたんだよ。だからお前には邪魔させない。


【我は邪魔などせぬよ。ただ傍観するのみじゃ。お前が壊れてゆくのをな】


 その声はやけに嬉しそうで、そして悲しそうだったのが何故か耳に残った。

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