壮絶なる模擬戦
「それでは、いかせてもらいます!」
「ああ……。」
エトナ城内の闘技場、そこの中心で木刀を構え合う少年が2人。左手に木刀を持ち、静かに構えを取るのはゲツヤ。木刀を両の手で握り、人生初のことで緊張しガチガチになって構えるのはミツヒ。
闘技場という既視感のあるシュチュエーションにゲツヤはかつての闘いを思い出す。あの時の自分と同様、この少年も良く経験値を稼げるのかどうかというのが悩みどころでもあった。
初めての防具なしの模擬戦。ミツヒは異世界転移に引き続き、このようなことになりパニックに多少なりとも陥っているのは確実であった。そんな混乱した状態の中、いざゲツヤと一戦交えるべく木刀を構えると、脳内に莫大な情報が流れ込んでくるのを感じた。
己に内在する魔素を魔力に変換する方法。魔力を起こすべき事象である魔法へと発展させる方法。
そんな、かつての世界ではその存在の片鱗すら感じることのない魔法の知識が何度も何度も脳内で繰り返される。そしてミツヒの脳内に最後に流れる情報は……己の得意とする……最もセンスを得ている属性についてであった。
それら全てが脳内再生されたとき、不思議とミツヒの心の中を自信が占領した。
ーーーこの力なら戦えるのでは……?
その自信を信じ、ミツヒは木刀を握る手に力を込める。
その挙動を確認したゲツヤは気をより一層張り詰め、ミツヒの攻撃を警戒する。あくまでミツヒの能力を確認するためであり、反撃に徹する必要はない……そう何度も何度も何度も自分の心に言い聞かせていた。
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「うわぁぁぁぁぁ!」
ミツヒが覇気のない弱々しい雄叫びを上げて、ゲツヤに向かって走り出す。しかし、情けない声とは裏腹に、ゲツヤに迫るミツヒのスピードは常識を逸脱している。
ーーー速い……。
その速さはゲツヤですら一瞬驚いたほどであった。初戦にしてこのスピード……経験を積めばさらに高まるであろうと思い……ゲツヤは少しニヤリと笑う。
ゲツヤは迫る木刀、それに意識を張り巡らせる……しかし、それこそがミツヒの狙い。
ゲツヤのすぐそばまで迫ったミツヒは、固く握った木刀を空に向かって放り投げる。
ーーーヤバイ……!
心ではそう思いつつも、張り巡らせていた意識は、継続して木刀を見つめるように脳に指令を出す。それを打ち消すまでにかかった時間は僅か0.3秒……しかし、それはミツヒにとっては十分すぎる時間であった。
ーーー光魔法
目を背けたゲツヤに向け光の矢が放たれる。ミツヒの実行した作戦はゲツヤに完璧に成功……
ーーーさせるわけないだろ……!
ゲツヤは迫る矢を防ごうと咄嗟に右の手を前に差し出す。何の魔法を使うのかは考えていない。何が有効かも考えていない。頭に浮かぶのはただ出しやすい魔法……だが、それも浮かばない。それ故に魔力だけを放出する。
そんなゲツヤの右掌から出たのは黒い靄。それがウネウネと不気味に広がっていく。こうしてゲツヤの前に直径15センチほどの黒雲の渦ができた。まさに最速、魔力をゲツヤが込めた後にこの事象が起こるまでのタイムラグはゼロである。
全ての魔法を射抜く光の矢、それはいかなる魔法でも防御は不可とされている……。だが、この光の矢は黒雲の渦に飲み込まれ、その姿を一瞬で消失させた。
「えっ!?光魔法って防御できないんじゃないの!?」
つい先程得たばかりの知識が目の前で否定されるという結果にミツヒは驚愕していた。無論、その意見にはゲツヤも同意だった。なけなしに放った謎の魔法……見たこともない魔法……だが、その魔力は以前にも放った感覚がある。
その時はこれほどまでに小規模でなく、これほどまでに汎用性は高くなく、これほどまでに優しい魔法ではなかった。その魔法は……ゲツヤの中でも使用を控えるように最大限の注意を払っている未完成の禁呪……闇魔法以外の何者でもなかった。
ーーー俺は……俺の適性は闇……?
最も出しやすい魔法、その結果がこれである。制御不可と言われる殺戮魔法が適性などあり得ない。
ーーーそもそも、俺の適性は無いって情報のはず……全魔法を高スペックに使用可能が俺のステータスなはずだ……。
予想外の結果、それがゲツヤとミツヒを混乱させる。
だが、先に混乱から立ち直ったのはミツヒであった。光魔法が通じないのであれば、威力を上げるまで。先程あれほどの技術を見せたゲツヤなら死ぬことはない……ならばとミツヒはリミッターを解除する。
「ゲツヤさん!僕の最大の魔法を受けてください!」
「ああ、打ち消してみせるさ……。」
ミツヒは己の魔素容量の半分近くの魔素を魔力へと変える。ミツヒの周りが黄金に輝き、空間に金の魔法陣が展開される。そして、その魔法陣から一丁のライフルが顔を出した。
「究極光魔法!」
ライフルの銃口、そこから放たれるのは光の弾丸……否、ビームそのものである。
迫る光線、そのあまりの速さ故に判断できるチャンスは一度きり。その感じる魔力の高さから光魔法の究極級は普通の魔法の神撃級を凌駕していると感じる。
ーーーなら……俺の最強の剣技で打ち消す!
ゲツヤの握る木刀に高濃度に圧縮された2種の魔力が宿る。1つは荒ぶる竜巻。もう1つは燃え盛る火炎。
「嵐炎波!」
全てを消し去る光線と、全てを焼捨て薙ぎ払う真空波がぶつかる。
闘技場の中心で、街全体を揺るがすほどの振動を起こす大爆発が起こった……。そんな中、砕け散った木刀が一本、宙を舞うのであった……。
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模擬戦の結果……それは……
「いやあ、完敗でしたね!」
「そうでもないさ……。」
ゲツヤの嵐炎波はギリギリのところで究極光魔法に競り勝ち、残ったエネルギーがミツヒに流れ込んだ。ほとんど相殺され威力自体は残っていなかったものの、最大の技同士の激突で競り負けたということでミツヒが敗北を認めた。
だが実際に勝利したのはミツヒであった……。なにせ、ゲツヤは帝国の備品である木刀を無茶な使い方をして壊してしまい、アリスに小言を聞かされる羽目になったのだから……。




