サザンカとの別れ
第2章の最終話です。
街を夜が包む。だが、街に闇は訪れない……ネオンの光がそれを拒むからだ。車の音が絶えず鳴り響く街中、1人の少年がトボトボと夜の街を歩く。小学生だろうか……独り歩く。
光の届かない暗い場所……トンネル、そこを少年は歩く。彼の目的地は何処なのだろうか……。寂しげな後ろ姿はそれを全くもって悟らせない。道行く人々はそんな彼に話しかけようともせず、ただセカセカと歩みを進める。だが、街外れのトンネルは違った。
「ねぇ坊や?1人?」
高校生だろうか、髪を派手に茶色く染めた女性が少年に話しかけた。彼女の目的は一目瞭然であった。
「お金持ってないかな?お姉ちゃんに貸してくれない?」
彼女は少年の腕を掴み逃げられないように捕らえる。しかし、掴んでいる少年からは何の返答もない。
「ねえ、返事くらいしてくれないかな?」
それでも返事はない。いくら優しく話しかけたところで答えようとしない少年、そんな態度に彼女はイラつき……
「ぶっはっ!」
少年を蹴り飛ばした。小学生の小さな体はトンネルの壁に激突し、ドサリとその場に崩れ落ちる。
「あんたがはっきり物を言わないから痛い目に合うのよ!」
口から血を流す少年の服をまさぐる。だが何処にも財布らしき物は見当たらない。
「はあ?文無しかよ!」
さらにイラつきまた蹴りを少年にいれる。少年の体が左から右へと飛ばされる。
普通なら死んでもおかしくなかった……だが、少年はゆらりとその体を起こす。その眼光は鋭く、女性を睨んでいた。
「何あんた?文句あんの?」
だが、そういったときには彼女の視界から少年は消えていた。
「あれ?逃げたか……チッ……つまんねぇの!」
少年を逃し、彼女は再び歩き始めた……次なる獲物を求めて……隣を歩く少年に全くもって気づかないで……。
そして彼女の視界はぐるりと90度、向きを変えた。そしてそこに写っていたのは逃げたはずの少年の姿であった。
「あ……あんた逃げたんじゃ!?」
彼女は立てなかった。当然だ、少年の手にもたれたナイフで両脚の腱を切られたのだから。
「痛っ……!あ……あんた!こんなことしてただで済むと思ってんの!?」
必死に強がる……だが彼女の全てを恐怖が包み込む。そんな彼女を嘲笑うかのようにナイフがトンネル内の灯りを反射して鈍く光る。
少年の顔は喜んでいない……怒っていない……哀しんでいない……楽しんでもいない……そう、ただただ無表情。冷たい氷のような無表情。
そして……彼の表情のように冷たいナイフが彼女の首へと侵入する。
「私は……死にたく……なぃ、まだ楽しいって思ってないのにぃー!」
それが少女の最後の叫びであった。ただ虚しくトンネルの中に響き渡る。どうしてか普段多少は車が通るこのトンネルにこの日の夜だけは一台も通らなかった。
少年はナイフを丁寧に死体の服で拭い、人混みの中へと消えていった。
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ここはサザンカ外れの森の中。
普段誰も足を踏み入れることのない未開の地。
だがこの日は違った。
森の中を進む人間が3人。
いつ魔物に襲われてもおかしくない……だが、森の魔物は誰もが怯え、巣に篭っていた。
「やっと着いたー!」
疲れ切った顔をしてサリアが大の字になって草の上に転がる。
彼女のすぐ前に佇む小さな遺跡、それがゲツヤたちが森を進む理由、旅をする理由であった。
「ここが……祠ですか……。すごく神秘的なところですね!」
レミーナはサリアよりも体力があるようで森を1日中歩いていたというのに疲れていないようであった。
そんな彼女は遺跡を見てその神々しさに見とれている。
「ゲツヤ君はどう思いますか?」
ニッコリと微笑んでゲツヤに遺跡を見た感想を尋ねる……いや、同意を求めているのだ。
だが、正直なところゲツヤはなんとも思わなかった。
「あ、遺跡だな」とそれくらいの感想しか出てこなかった。だが、
「ああ……確かにそうだな……。」
レミーナの機嫌を崩させまいと思ってもいないことを答えた。そのおかげでどうやらレミーナは満足そうだ。
しかしここを訪れたのは決して観光目的なんかではない。
やらねばならないことがあるのだ。
「おい、そろそろ中に入るぞ……。」
「えぇ!?もうちょっとここで休もうよぉ〜!」
そんなサリアの反対に被せるようにしてレミーナが答えた。
「じゃあ、2人だけで中に入りましょうか、ゲツヤ君♪」
ゲツヤの左腕にしがみつきレミーナが先へ進もうとゲツヤを引っ張る。
それを見たサリアがガバッと起き上がり、さっきまでバテていたとは思えないほどのスピードでレミーナをゲツヤから引き剥がした。
サリアとレミーナが必死に睨み合う……そんな2人を無視してゲツヤは先へと進むのであった。
祠の中心部分、そこには女神像のようなものが立っていた。
聞くところによると初代賢者だとか。
その像の前にサリアが跪き、祈りを捧げた。
するとその瞬間像が光りそれと同時にサリアも光りだす。
「これは……。」
「綺麗……。」
レミーナの感想通り、像とサリアを中心に光り輝くその光景は美しい夜空より、花に包まれた草原より、ゲツヤが元居た世界のネオンに彩られた夜景より遥かに綺麗であった。
祈りが終わり光も消え失せた後、あの光景の余韻に浸るゲツヤとレミーナを見てサリアは不思議そうな顔をしたのであった。
森から帰還し、ゲツヤたちは山茶花の宿に到着した。
もちろんその宿屋はテーラー一家の経営する宿屋であった。
受付を済ましこれから部屋に戻ろうとしたそのとき
「ゲッツヤァ〜おかえりー!」
待ってましたとばかりにメーナがゲツヤの胸目掛けて飛び込む。
それをキャッチしゲツヤは抱きかかえる。
もちろんそれを見てサリアとレミーナが黙っているわけもなく
「なんでゲツヤはそうやってメーナちゃんばっか贔屓するの!?」
「ゲツヤ君、後から……後からでいいのでレミーナのことも抱きかかえてください!」
各々の感情を剝きだす2人の頭にゲツヤはコツンと拳をぶつける。
「お前らは、子どもにムキになるなよ……!」
守られてると錯覚したメーナがサリアとレミーナに舌を出す。
それに怒ってサリアが
「あらぁメーナちゃんは子どもだもんねぇ!よかったねぇゲツヤお兄ちゃんに抱っこしてもらえて!」
と言ったのだが、再びゲツヤはあきれた目で彼女を見つめた。
それすらも羨ましそうに眺めるレミーナには誰も気づかなかった。
そして朝、ゲツヤたちは次なる祠へと向かうためサザンカを出発することになっていた。
ザクスらサザンカ軍やサザンカの行政部、そして街の住人から感謝の言葉を贈られ、報奨金を受け取ったゲツヤたちは馬車に乗り込む。
サザンカに別れを告げ、次なる目的地へと進むのだ。
サリアは街の人々に手を振り、レミーナは出発前に購入した物の総額を計算している。
そして馬車の床に座るゲツヤ、その膝の上にはメーナが座っている。
ゲツヤたちが宿を出るときであった。
一人の男が彼らを引き止めた。
「待ってください、お客様!」
ゲツヤたちを呼び止めたのは宿屋の主人、メーナとアティスの父親であった。
彼に続きメーナとアティスがゲツヤたちの元へと走ってくる。
「娘を連れていってもらえませんか?娘がそれを望んでるみたいなので……。」
よほど悩んだのか、彼の表情は娘との別れを哀しんでいる。
それがゲツヤにでもわかるほど表面に出ていた。
「ボクも連れててってよ!きっと役に立つからさ!」
「悩んだのですが、お客様たちと一緒なら安心かと思いまして……。」
「本当にいいのか?」
「うん!」
ゲツヤの最終確認にも曇りなく答えるメーナ、そんな彼女を見てゲツヤは首を縦に振る。
「では……娘をよろしく頼みます!」
そんな光景を見ていたレミーナは1つ疑問を持った。
「アティス君は行かないんですか?」
その問いにアティスは首を横に振って答えた。
「アタシは宿の手伝いもあるし……ちょっとやりたいことがあるニャ!」
「そうですか……寂しくなりますね。」
ずっと一緒に居ただけあってレミーナは寂しそうに肩を落とした。
「そんニャに落ちこまニャくても、きっとすぐに会えるニャ!」
アティスがそう励ます。
励ましているのか、それとも本当にすぐに会えるのか、どちらにせよその一言が少しレミーナを元気付けたのは確かであった。
「約束ですよ?」
「うん、約束ニャ!」
こうして、ゲツヤたちの仲間にメーナが加わったのであった。
「では、サザンカの復興は我々も協力させていただきます。」
荒れ果てたサザンカの街、そこの復興にクテシフォンたち聖騎士が参加するように名が降った。
必死に建築家の指示を受け、資材を運ぶ聖騎士たち。
そんな中、クテシフォンは青く澄み渡る空を見上げる。
「結局、強敵って強敵には巡り会えなかったんだな……。」
ゲツヤの意向もあって彼の名は表には出されなかった。
そのためクテシフォンは彼に気づくことなく大工仕事を手伝っていたのであった。
ゲツヤの名が出されなかった理由はただゲツヤが目立ちたくない、それだけであった。
闘いで荒れに荒れた草原、その中を一台の馬車が進む。
その中にはサザンカを救った英雄たち。
馬車は次なる目的地、テオドア帝国へと進む……。
これにて第2章、完結です!今週中には次話を投稿しようと思いますので、是非ご拝読下さい。
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