居心地の悪い部屋
二匹とも譲れないものがあると分かってからは、もはや語る言葉は持ち合わせていなかった。瀬穏がいくばくかすっきりとした表情をしたように思えたが、それは私の思い込みなのかもしれない。結論の無い対話であったものの、決して無益な時間ではなかった。
瀬穏に案内されて通されたところは、さきの大広間より小さくはあるが、やはり加工された石が敷かれた部屋であった。すでに氷雲と透は隅の方でころころと丸まっている。
我々が顔を見せると、氷雲が駆け寄ってこようとしたが、瀬穏はひとつ会釈をよこすと通路を戻っていった。その有無をいわせない背を見るに、やはりヒイクの慣習通り、客は客間から出してくれないようである。
「ああっ、瀬穏さんと話してみたいのになぁ」
氷雲がしょげたようにひげを垂らす。そういえば氷雲の目的は彼雌と言葉を交わすことのみであった。弟にとって、帆河瀬穏は突然出来た姉というだけの存在である。
「なに、そのうち機会はあるだろう」
肩を軽くぶつけて慰める。氷雲は鼻を鳴らしたが、どうも気が晴れないようだった。
「どんな話をしてきたの。兄ちゃんだけずるいよ」
「ああ、結局出来たのは挨拶程度のものだ。次に話をする時はお前も伴おう」
「本当に? 約束だからね」
それだけいうと、氷雲はまた透の横まで駆け戻った。
透はといえば、丸まっていながら耳を触ったり、後ろ足を踏みかえたりと落ち着きがない。声を掛けるかどうか迷ったが、やめておいた。透の妹との関係については、うかつに関わりを持つべきではないような気がするのだ。
居心地の悪い部屋で、三匹三様になんとか過ごしているうちに、私の中で考えがだんだんと整理されてきた。幸いなことに、瀬穏は権力目当てで家督を務めたいわけではない。家督に据えたくないという鼠を排除する方向でなら、私と瀬穏が協力できる可能性も十分に有り得る。その鼠が家督になれなくなれば、秤山家との婚姻にこだわる理由もなくなるはずだ。
一応の方針は決められたところで、ひょっこりと現れたのは泉央であった。
「すまないね、いろいろと前足が足りてなくて、充分な客のもてなしも出来ない。もう知っているだろうから恥を忍んでいうが、淵芳じいさんは客を会わせられるような状態じゃなくてね。家督が客をもてなさないなんて、いやはや、ひどい家だよな、全く」
泉央は悪びれているのかどうかよく分からない笑い声を上げた。




