かんぬきのない檻
がらんとした棲み処を、二匹して音を立てないように進んでいく。奥へ進めば進むほど、とろりと霧がかかったように空気が濃くなるのは、どの家の棲み処でも同じである。まだ歴史の浅い斎家でも、その生き様の濃密さは変わらないのだ。そうして、その息づいた霧から味が感じられそうなほどになった時、ついに会議の場である広間にたどり着いた。
「ここだね」
「しっ」
氷雲の囁きを制止すると、私はまず息を整えた。盗み聞きをする時にもっとも邪魔になるのは己が焦りによる注意散漫、次に呼吸の音のせいで気づかれることである。どちらも、自分が落ち着いていればなんの問題もない。幼少のみぎりに幾度となく盗み聞きをして悪戯を仕掛けてきた私である、この状況でも息を整えることはたやすい。
そうしてゆっくりと鼻面を差し出すと、新が広間の一段高くなっているところにふんぞり返り、一族の者どもを見下ろしているのが見えた。
「おい、栄。ここからはお前に任せる」
すでになにやら大まかな話は新からあったらしく、どよめきが広がっている斎家の鼠たちの中、もぞもぞと動きがあったところから、栄が壇上に上がった。
「聞いての通りだ。ちょうど客として受け入れている鼠たち、彼らは私の一存で迎え入れた鼠だ。舵谷家の者を名乗っているが、それは私の入れ知恵。正体を隠させて匿ったのには理由がある。それを、これから説明する。どうか、最後まで話を聞く耳を持ってほしい」
栄はそこまでいうと、ぐるりと広間を見まわした。どよめいていた者たちはまるで露の垂れた水面のように静まり、栄へ目をやって離さない。栄がこの家の者たちにとってどういう鼠であるか、あらためて思い知らされる。
当の栄はというと、神妙な顔つきであるが、眼光にはわずかの曇りがある。もちろん、我々を利用することは盤桜由依花を裏切ることに他ならないから、そこに迷いがあるのだろう。だが、すでに切り出してしまった言葉を止めることは出来ない。二度ほど口を開けては閉めたが、ついに声を発した。
「あいつらは、チュダイだ」
その場にいた者たちの息を飲む音が、耳をそばだてなくともよく聞こえる。その中でも特によく聞こえたのは、聞き覚えのある声、見覚えのある背中。ただ一匹驚かずに、ヒッとしゃくりあげた透の声だった。
秤山家の会議で封風叔父がこんなことをいい出したら、まず一家の者は騒然と喚き散らし、会議続行が困難になること必至である。しかし、斎家における栄の威光は、関東チュダイの誰しもに馬鹿にされるまだらの叔父とは大違いだった。驚きの波が広間にひと通り行き渡ると、今度はその波が壁にぶち当たって反射していくかのように、どの鼠も壇上へ尻尾の先を向けて、意識を栄へと集中させていた。
一挙前足一投後ろ足を見逃すまいとする斎家の皆の心持ちが、私にとって都合がよかったのはいうまでもない。私は待っているよう氷雲に合図を送り、次の瞬間会場に潜り込んだ。
栄をじっと見つめている斎家の鼠どもは、そもそも私と顔を合わせたことすらない。まして、チュダイの匂いのしない私を、まさか今チュダイと暴露された鼠だとは思いもしないはずと踏んだのだ。壇上の栄から顔を見られないように注意しながら、末席にたむろする若いヒイクらの隙間に身をうずめた。遅れて入ってきた私は一瞬奇異な目で見られたが、ちょうどよく栄が喋り出して、彼らの興味は壇上へと引き寄せられた。
「普段から、私がチュダイの家へとしげく通っていることは、皆も知っての通りと思う。だが、誤解なきようにまず弁明しておく。このたび客として迎えているのは、その盤桜家とは別の家の者たちだ。私が盲目の恋慕に駆られて花を摘んできたのではなく、華やかに咲いてもらうために前足を尽くそうとしたのだと知ってほしい。彼らの本来の名は、盤桜由依花嬢と懇意にしている秤山家の丈雲、氷雲という兄弟鼠だ。つまり、由依花嬢から、その兄弟をヒイクの社会へ馴染ませてほしいと頼まれたのだ。皆も分かるだろう、惚れた雌に頼まれたなら無下に断るわけにもいかないことは」
栄はわざと大げさなしゃべり方をしていた。身振りも大きく、壇上の端から端まで歩きながら、なるべく多くの鼠の顔を見ようとしているかのように目を輝かせている。まるで演技に魅せられるかのように、ヒイクたちは熱い視線を返していた。栄は、それに返事をするかのようにくすりと笑った。
「ただ、単純に好意を稼ぐために引き受けたわけじゃない。今までにないチュダイからの申し出が、新進の斎家にもたらされたことを、私は好機と考えた。チュダイがヒイクに馴染みたいという理由、いったいどんな理由かその時は分からなかったが、絶対に解き明かしてみせようと心に決めてね」
私は舌打ちをしそうになったのを堪えた。そして、会場がいっそう栄にのまれているうちに、もう一歩広間の中心へと歩を進めた。
栄の演説は調子良く続いて、斎家の鼠たちはいよいよ熱中の度合いを高めた。固唾を飲み、目を見張り、前足を組んで、その様相は一種の異様を呈している。その熱の中に落とされた一点の影のように、透だけはだらりと背を曲げていた。
改めていおう、私は斎家の内情など知りもしないし知りたくもない。新と栄に確執があろうがなかろうが、透が新や栄に胸の内を隠して媚びへつらっていようが、そんなことは全て私の知ったことではない。知ったことではないが、檻に閉じ込められている間のものの考え方が、全く狂ったものになってしまうことは知っているではないか。たとえそこに金属の網や、尻尾の届かないかんぬきがなかったとしても、家督やその息子とのしがらみに絡めとられて、己の意志だけでは飛び出すことすらあたわないのならば、いったい檻となにが違うのだろうか。
「ばかだ。ねずみというのは、意外とばかだな、本当に」
透の耳元でひそやかに囁いた言葉は、いつ、だれに言われたものだったか。
とっさに振り向きかけた透の肩に爪を当てて、平静を装うように念を入れる。私は栄の目が広間の反対側にいった瞬間を見計らって、彼雌と共に壁際へと場所を移した。
「なぜ、ここにあなたがいらっしゃるのですか」
さすがに動揺したのか、透の声は少しだけ震えている。そのことに、思ったよりも強く満足を覚えながら、私は口の端に牙をのぞかせた。
「昨日の夜あんなことをいい置いて、合図まで残しておいて、なぜもなにもなかろうが」
実のところ、部屋になにがあったのか、私は分かっていない。だが、氷雲の言動と、いってみたあとの透の反応を見るに、二匹で決めたなにかがあったことは確実のようだった。透はひゅっと息を飲むと、その息をゆっくりと吐き出しながら笑ったのである。
「昨夜の言葉を覚えているのは、なにもそちらだけではありませんよ。どういった風の吹き回しですか」
「いっていろ。私はお前に退路をことごとく断たれただけだ。鼠助けなど柄にもないことをするわけがないだろう」
「ふふっ。それでは、静かな湖畔、穏やかな風の中、銀色の月の下を案内してくれるというわけですね」
「月が出るまで逃げおおせろということか。ずいぶんと買ってくれているものだな」
私は広間をさっと見渡すと、ひと跳びするために後ろ足へ力を込めた。
「もういいぞ、栄! これから先は、私が弁舌を振るおうではないか!」
私は大声を上げると、ぽーんとひと跳び、前のねずみの背を蹴って、更にひと跳び飛び越えて、華麗に栄の立つ演壇へ登った。あっけに取られている斎家のねずみたちをぐるりと見まわしながら、最後に耳打ちしたとおり、透が氷雲の元へ走ったことを確認する。
「勘の鋭い者は気づいているだろうか。そのとおり、今しがた、斎栄くんから紹介にあずかったねずみが私、秤山丈雲だ。関東チュダイ御三家に家名を連ねる秤山家の前家督、秤山封雲が長子にして、現家督秤山封風の甥に当たる。遠くも近くも以後お見知り置きを。といっても、どんぐりと大して変わらないヒイクのちっぽけな頭の中に収められる名かどうか、少々不安なところであるか!」
呵々大笑とばかりに嘲ると、唖然一色だった広間は面白いほどにみるみる怒気に染まっていく。威嚇の鳴き声があちこちから響き渡る中、私は悠然と栄を見据えた。栄は牙をむき出しかけのまま、凍りついたように固まっている。
「丈雲……!」
「もちろん、先に裏切ったのはお前だな、栄よ? ここで私が傷ひとつ付けられてみろ。斎家は約定を簡単に裏切る上に、隠滅を図って客鼠にすら牙をむく野蛮な一家と評判になるぞ。ははは、これはこれは、卑劣暴虐と名を上げれば、佐樹草家を相手取るに充分な家名であることよ! 充分すぎるほどだ!」
「うぐっ、ちくしょう。皆、前足は出すな!」
栄が叫ぶ。斎家の者どもからは驚きと更なる威嚇の声が上がったが、栄にひと睨みされると、途端に私に迫る歩を止めた。そのまま栄はその体をわずかに移して、新と私の間をさえぎるように立ちはだかった。
「悔しいが、この会議をお前に盗み聞きされるとは思っていなかった。俺の失策だ」
「そうだろうとも。そうでなければ、あんな調子はずれな演説などできないだろうな」
「うるさい。お前が逃げを打つ以外の方策を取ると思っていなかっただけのこと。なにが狙いか、さっさといえばどうだ」
私はわざと黙ってせせら笑った。栄は全身の毛を逆立てて怒りをあらわにしたが、唸り声までは上げられない。私が一歩前に出ると、栄は慎重に後ずさる。奴が劣勢を認めているのを知って、私は胸のすく思いだった。もう一拍溜めてから、ようやく私は口を開いた。
「狙いもなにもあるものか。我々は、単純にいとまを告げに来ただけだ」
不気味な沈黙を突いて放った私の言葉は、まるで誰の耳にも届かなかったかのように空虚に消えていった。
栄はひげをひくりと動かす。
「なんだと?」
「ヒイクは耳も悪いのか。あいや、それとも言葉が難しすぎたのか。ありがとう、さようなら、といいに来たのだよ。栄くん」
「分かっているよ、そんなことは!」
栄が声を荒げて、尻尾をしたたかに地面へ打ちつけた。前足の爪をはばかることなくカリカリと噛んで、必死に落ち着こうとしているのが滑稽だ。いったん裏をかいてしまえばこの有様、栄の本性かいま見えりと口の端を歪めていると、くっくっく、と笑い声がする。
「見事じゃねえか、秤山の。どれ、栄、下がれ。俺が出よう」
声の主は斎新である。新は、昨日見たどの顔ともまた違う顔つきで、悠然と前に現れた。安い挑発に乗せられた素振りもなく、奇抜であってもやはり現家督の威厳をかもし出している。小柄な体躯が私と対等に見えるほど、新は落ち着き払っていた。
「まずは、あんたの度胸を褒めようじゃないか。これほど無礼千万の振る舞いを、ヒイクの巣窟のど真ん中で演じたチュダイは、後にも先にもいねえだろうよ」
くつくつと笑う姿には余裕すら感じられる。改めてこのねずみのことを不気味に思いながら、私は応えた。
「ヒイク随一の破天荒と噂の新殿からのお言葉、まこと恐悦至極。一生の誇りとして、孫ねずみにでも聞かせてやりましょう」
「いうじゃねえか。ますます気に入ったぜ。だが、てめえ、ひとつ思い違いをしてる。栄はどうか知らんが、俺はこの斎の名に裏切り卑劣の烙印を得たところで、どうとも思わん。むしろ好都合だ、てめえがいったように、佐樹草と喧嘩するにゃ良い宣伝文句になる」
尻尾にむずがゆいしびれを覚える。どうも、新の考え方は読めなかった。
「ぼんくら揃いかと思えば、少しは話の分かる雄もいるものだ」
「伊達に家督をやってねえ。ところで、どうやって土産話をする孫をもうけるつもりだ?」
新はにんまりと下卑た笑みを浮かべると、私がまばたきをした一瞬で間合いを詰めてきた。そして、まさかと思っていたが、私の喉笛に爪を突きつけたのである。
「ここで死んじまったらよ」
ガリッ、と、皮膚に爪が食いこむ感触があって、ジトリ、と血が滲んだ感触があった。もし私が跳びすさろうとでもしようものなら、そのまま前足を振り抜かれて、喉を真横に引き裂かれる形である。命を奪える一歩手前まで、躊躇いなく踏みこんでおきながら、新の目の色はひたすらになにも映さぬ澱んだ黒であった。
やはり、この雄は恐ろしいほど冷酷である。新がなぜわざわざ栄に斎家の鼠たちをまとめる役を回しているのか、その理由を垣間見た気がした。
「新、貴様は私を殺せない」
「ははっ、そうか。客ってのは大切にするのが、ヒイクの腐った慣習だったなぁ、え?」
「もちろん、それだけで貴様の足を止められるとは、はなから思っていない!」
私は新の前足をつかむと、その前足を地面へ叩きつけるように下へ押しつけた。無謀な賭けと分かっていたが、わずかな隙を作れればそれでよかったのである。地面へうずくまった私の背中に新の牙が刺さる、だがこれは致命傷ではない。痛みが筋に沿って脳天へ伝わった瞬間、私は叫んだ。
「氷雲!」
「兄ちゃん!」
応えた声は、なんと若鼠らしくなったことか。一切震えることもなく、甲高く裏返ってもいない。凛と澄んだ声質が広間に響き渡って、その場にいたどの鼠も、新でさえ声の主の方へ目をやるしかなかった。
「兄ちゃんを放してもらおうか、斎新!」
広間の入り口のところで氷雲は、段取り通り透の首へ爪を突きつけていた。ややぎこちない前足つきではあるものの、透の脈をしっかりと圧さえている。透が身じろぎひとつしないのを見て、広間中の鼠が息を飲んだ。
私の背中から牙がゆっくりと抜けた。
「なるほど、なるほどねぇ。常道には常道、外道には外道。そういうのは嫌いじゃねえ。そりゃあそうだ。てめえが命を賭けるなら、切り札に押さえておくべきも命。殺されるなら殺すってか。透は、俺にとってそんなに大切な雌に見えたかい?」
新が耳元で静かにつぶやく。全身に悪寒が走るほど悪意のこもった声であった。
私は黙って身をひねると、新の瞳を睨みつけた。牙から血をしたたらせて、新は変わらず冷酷然として見えた。
そう、恐ろしげなことを口走りながらにたりと笑った新の、黒々と澱んだ瞳の奥に、わずかな揺らぎがあることに、私以外誰も気づいていなかっただろう。私とて、背中の痛みで返って神経が研ぎ澄まされている今でなければ、しくじったと観念したかもしれない。それほどまでに、新は動揺を押し隠すのが巧かった。
いったい、斎新という雄は、どれほど野性に従って生きているのか、最後まで推し量れない雄である。実の娘ではないにしろ、家族である透を殺されかけてなお非道さを演じることを選ぶことに、どんな考えがあるのか。
そこまでして非道を演じなければならない理由を、私は知らない。私は突然、新のことが哀れに思えた。斎家という、地盤がないながら御三家とまで呼ばれる一家の家督として、彼はこの性格を取り繕わざるを得ないのだ。破天荒、乱暴者でありながら、肝心なところでおどけて、何を考えているかを悟らせないようにしなければ、関東ヒイクの覇者ともいえる佐樹草家に対抗し得ないのだろう。
私はちらりと広間を見やった。ここに集まっている何十という斎家の鼠たちは、何十という瞳をすべて家督に向けて、透の無事を祈るように前足を組んでいた。いずれも斎新を恐れながらも頼りにしているのだ。新は頼られざるを得なかった。もしかすると、新は、斎家のどの鼠の喉に爪を当てても、今と同じように動揺を隠せないような雄なのかもしれない。なにも透だけが新の牙を折らせる鼠ではないのかもしれないと、そんなことを考えていると、途端に新の顔つきが、悪意の威嚇ではなく、必死の懇願のようにみえて仕方がなくなった。
これでは、悪役は私ではないか。背の傷から垂れてきた血が私の前足の爪を汚した。滴を払うように前足を振る。その仕草が氷雲に合図を送ったように見えたのか、新の首が一瞬で広間の入り口を向いた。
「私と弟をこのまま外へ出させてもらおう。そうすれば、斎透の血は一滴も地に染みない」
舌がざらざらに乾くのを感じながら、私はうなった。
「丈雲、さんざ世話になった透に、お前、なんて仕打ちを」
新の背後から、栄がかすれた声を出す。私も耐えられなくなって透の方を見た。彼雌は、この斎家に居場所がないと信じていた。だが、その実はどうだ。新も、栄も、心の底から透を案じているではないか。私のしていることは、透の出奔したいという願いは、間違っているのではないか。
しかし、透は、伏せた目を上げようともせず、怯えるふりを続けていた。
「ぐずぐずしていると、本当に血を見るぞ!」
私の迷いは、広間を貫いた若鼠の一声に打ちのめされた。もちろんのこと、声の主は我が弟、氷雲である。その言葉は、斎新への脅しに聞こえるよう言葉を選んでいたが、その実たしかに私に向かって告げられていた。
駆け出した足を止めてはいけない。それが逃げを打つ時の鉄則である。それなのに、斎家の情に流されて、勝手に足下をすくわれた気分になっていた。すでに迷う時期は過ぎていた。新の愛情が本物であるかどうかなど、些事に過ぎない。今は清濁併せ飲み、私と氷雲と透の三匹でこの場から去ることのみを考えるだけだった。
「私も弟もそれほど気の長い方ではない。新、栄。世話になった恩を仇で返す我々を恨むがいい。我々の信頼を裏切った報いを知るがいい。だが、念のため最後に問おう。邪魔をせず、追手を出さず、斎透を付き添い鼠に伴わせて、我ら兄弟を見送ることに異存はあるか?」
最後の一言を放った後の新の表情は、意外にも少しほっとしたように見えた。もちろん、我々としても必要以上に事を荒立てたくはない。建前だけでも体裁を整えた方が後腐れがないことを、新も意識したのだろうか。破天荒という噂の裏にある計算高さを垣間見たような気がした。
ところが、新が口を開く前に、栄が威嚇の声を上げながら牙をむき出した。
「透の身の無事を保証出来るのか? 我らの目の届かぬところで透が爪にかかるかもしれないと、こちらは怯えて暮らせというのか?」
「当たり前だろう! いい加減にしろ、栄! 仮にも世話になった雌を私が爪にかけるというのか!」
つい反射で怒鳴り返してしまったところを、新が前足を上げて制した。
「もういい。黙れ」
声の調子が思わず悲愴であったため、栄も私も二の句を継ぐことができなかった。新がさっと尻尾を振ると、広間に集まっていた鼠たちがどよめきながら、壇上と出入り口までの道を空けた。新は顔をそむけて、前足を払うように動かした。
「消えろ。チュダイなんかと関わるのがそもそもうざってえんだ。透でもなんでも連れていけ。二度と戻ってこなくていい」
私はきびすを返して出来た道を駆けた。そしてそのまま止まることなく、斎家の棲み処の中を駆けた。無事に目的を達したはずなのに、逃げるように駆け抜けた。




