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華那……たった十円の奇跡  作者: 梓理(あずおさ)
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第四十九章 家政婦

 利昭は橋本絹江の積極的な誘いに引きずられてその後何度かデートを重ねた。利昭の心の中では未だに他界した妻や好意を寄せてくれている咲恵について整理がついていなかった。だから、絹江とデートを重ねても今ひとつ心のときめきがなかった。絹江にしてみれば自分の歳を考えるとどうしてもあせりがある。

「利昭さん、お葬式の時にお見かけした若い家政婦さん、まだ子供さんたちのお世話もお願いされているんでしょ? 将来子供たちに自然な形で私を受け入れて頂くため、子供のお世話を早めに私にさせて下さらない?」

 絹江は利昭を紹介してくれた利昭の伯母に、家政婦に子供の世話を頼んでいて、先日葬儀で見かけた若い子がその家政婦よと教えられていた。彼女たちから見れば咲恵は家政婦だ。家政婦と言われて利昭は戸惑ったが説明が面倒なので何も言わずに聞いていた。

「今度子供たちと一緒に遊園地にでも出かけません? 子供たちと仲良しになって、昼間は私が子供たちのお世話をします」

 咲恵はその後も今まで通り家に来ているが、利昭は無理に追い出すようなことができなかった。長い間に情が移り邪険にはできない。曖昧なまま、ずるずる引きずってはいけないと思いつつ、さりとて咲恵がいなければ仕事中心配が増えて仕事に集中できない。


 お天気が良い日曜日を選んで、利昭は翼と雛を連れて上野動物園に出かけた。

「咲恵さん、明日は親戚に子供たちを連れて行くからお休みしてくれないかなぁ」

 婉曲的に咲恵に家に来るなと言う利昭の気持ちを察して咲恵は、

「はい。分かりました。お気を付けて行ってらっしゃい。何かあったら電話をしてね。約束だよ」

 絹江には予め計画を話してあった。


 動物園の表門入園ゲートの所に絹江が待っていた。久しぶりに来た動物園に翼も雛も興奮していた。ゲートを入ると雛は真っ先にライオンやトラが居る東の方に駆けだした。

「危ないから、走っちゃダメですよっ」

 絹江は子供たちと手をつないでゆっくりと見て歩く光景を想像していたが、手をつなぐなんてチャンスはなく、期待が外れてしまい、結局子供たちの後ろを小走りで利昭と並んで走った。

 子供は利昭と絹江の存在を忘れたかのように、二人で手をつないで次から次へと園内を進んだ。

 ようやく子供たちが立ち止まった所で、利昭はアイスクリームを買ってきて二人に渡し、

「この人は絹江さん、今はパパのお友達だけど、そのうち新しいママになるかも知れないから大切にしてね」

 利昭が絹江を紹介すると、子供たちはきょとんとした顔で絹江を見た。一瞬狼狽した様子で、

「お姉ちゃんは? どうして今日は来ないの?」

 と答えた。利昭は慌てた。

「お姉ちゃんはもう来ないよ」

「お姉ちゃんじゃなくちゃ嫌だ。雛、行こう」

 と翼が雛の手を引いて次のサルがいる所に走り出した。戸惑う絹江に、

「ごめん。まだ子供たちの気持ちは今までのままらしいね。絹江さんを受け入れるまで時間をかけて根気よく接してもらわないと難しいようだな」

「あたし、絶対に仲良くなりますから」


 結局子供たちは絹江をよそ者のような目で見て利昭から離れず、お別れするはめになってしまった。


 夜咲恵は利昭の家を訪ねると、翼と雛が飛びついてきて動物園に行った話を始めた。利昭はとまどった。咲恵には親戚に行くとウソをついたからだ。夕食が終わって、

「咲恵さん、悪いがもうここには来ないでくれないか」

「お仕事でお帰りが遅いのに子供たちをほったらかしにするんですか?」

「前に言ったけど、お見合いした女性が来るから」

「あたしは嫌。翼ちゃんと雛ちゃんが可哀想」

 利昭は困ったが兎に角冷たく咲恵を遠ざけねばならなかった。

「もう僕らに構わないで咲恵さんは別の道を行ってくれよ」

 咲恵を押し出すようにドアの外に出すと玄関の鍵を閉めた。雛は泣きべそをかいている。

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