第四十五章 新しい仕事
二歳の娘を抱えて、独りぼっちで家に置き去りにする勇気が萎えて、華那は夜のアルバイトを断った。急に辞めると言われても困ると叱られたが強引に辞めてしまった。
明日は定期利用保育室に美華を預けて花屋さんのお勤めが始まる。なので、今日一日はずっと美華と一緒に居てやることにした。はいはいが日毎に上手になり、少し伝い歩きするのを見て可愛らしさが増した。
翌日定期利用保育室に出向いて手続きを済ませ、その日から美華を預けた。保母さんに美華を引き渡すと美華は泣いてママ、ママと叫んだ。小さな子供でも環境の変化を察しているのかも知れない。後ろ髪を引かれるとはこんな場合を言うのかと思いながら、美華の顔を見ないようにして逃げるように施設の外に出た。まぶたにうっすらと涙が滲む。
「華那、頑張れ」
と自分に言い聞かせながらペダルをこいだ。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
瞼に浮かぶ美華の泣き顔を振り払って元気な声で店の中に向かって挨拶した。
「ああ、来たか。待ってたぞ」
生花店の旦那は愛想良く華那を迎えてくれた。
「経験者なら教えることはないだろう。お客様が来店したら早速応対してくれ」
「はい」
先輩の女性が近付いてきて、てきぱきと包装紙やリボンの保管場所、レジの取り扱いなどを教えてくれた。
その日華那は精一杯頑張った。応対したお客様は十名を越えていたが手違いはなく夕方六時に帰宅の支度をして旦那に挨拶に行った。
「働いている様子を見ていたよ。思ったより上手に仕事をこなしたな。助かるよ。明日からも頑張ってな」
華那は旦那に合格と言われて安心した。店を出るとうっすらと汗をかくほどペダルをこいだ。一応午前七時半から二十時まで保護預かりをしてくれる契約だから時間には余裕はあったが美華に早く会いたい気持ちで急いだ。
保育室に着くと保母さんが美華を抱いて連れてきてくれた。華那が手を差し伸べると美華はしっかりと華那に抱きついた。
「特に何かありました?」
「最初はどこのお子様も泣いたりしますけど、美華ちやんは直ぐに慣れて大人しくしてましたよ」
それを聞いて華那は一安心した。
「美華、頑張ったね。ママはいつも美華のことを思ってるからね」
まだ言葉が分からない美華に、華那は自分に言いかけるように話した。
「美華ちやん、また明日ね」
と保母さんは美華の手を優しく握ってバイバイの仕草をした。
帰り道スーパーに寄ってその日の食料を買い込んだ。アルバイトを辞めたので生活費が足りない不安があったが、毎日の支出を抑えて乗り切ろうと思った。




