8.初日
翌日、十一月朝の五時。
まだ日も昇らぬ時間に未優を引きずりながら校庭に降りる。
五時集合で四時五十分だが、ほとんど誰もいない。いるのは地方にいた部長や朝強いらしい数人だけ。日蔓はいない。
本館の人達は中部圏に入るので今日はいない。
北海道と東北、関東と中部は合併だ。
「未優さん、起きてください。日蔓さんに怒られますよ。強くなって日蔓さん守るんでしょ」
「寒いよぉ……」
「防寒対策バッチリじゃないっすかこのウェアとパーカー!」
「内臓が寒い……」
内臓冷え性だろうか。
静璐は未優にカイロを渡し、未優はそれを冷たい頬に当てながら指揮台の方へ寄った。
そして、それから七分した五時。日蔓がやってきて、今いる人物の名前を確認する。
「……じゃあここ八人は夜十時までね。始めようか」
「お願いします」
「じゃ手始めに界館の外三週走っといでー。静璐に負けたらプラス二週。静璐は皆に負けるまでね。手脱いちゃだめ未優は夕方動けなくなるから僕と準備運動!」
飛び出そうとする未優のフードを掴み、静璐含む皆を追い出した。
皆が永遠に回り続ける中、二人で準備運動をする。
「未優」
「ひかづらぁ」
準備運動をやめた未優に声をかけると、それに被せるように未優に名を呼ばれ目を丸くした。
「静璐さぁ、あの界魔から何聞いたの?」
二人になったのを見計らったように雰囲気の変わった未優を見下ろし、微かに目を細めた。
「支配人の腹心について。未優が気にすることじゃないよ。未優は支配人だけ見てたらいい」
「それだけにしては皆の顔が変わったよね。普段通りの顔してない。静璐も日蔓も線蓮さんも」
「馬鹿な未優はどこに行ったんだか。勘繰るのはいいけど未優にも皆にも言ってない理由考えてね。……よしよし」
不機嫌そうに睨んでくる未優の頭を撫で、ようやく降りてきた追加の数十人にも視線を向けた。
さっきは全員日蔓担当だったものの、こんだけの人数来たらちゃんと振り分けないとな。
未優に軽くランニングさせている間に全員を集めた。
「えーと、昨日の紙に書いた近距離、中距離、遠距離で別れて。さっさと動けー」
おずおずと別れ始めるそいつらに声をかけ、遠距離を技術棟二階、中距離を界魔の塔側の校庭に行かせた。技術棟に七竈と優羽、界魔の塔側には丁字がいる。今日いるかは知らない。大人の報連相なめんなよ。
「一分以内に外周走ってるやつら呼んできて。はーやーくー」
追い出すようにそいつらも追い出し、時間を見てから校庭に白線を引き始めた。
約五分ほどした後、皆が戻ってくる。
おかしいな、静璐なら五分で六週はいけるのだが。
「遅いよー?」
「だって、日蔓さん、馬鹿ほど早ぇんすもん」
「んー、でもまだ準備できてないからもっかい走っといで。あ、何人かはまだ来てない奴ら起こしてきて。手榴弾かマシンガンなら貸してあげるから」
「いっ、行ってきます……!」
いつの時代もこの脅しはよく通じる。
唖然とする奴らの頭をさっさと行ってこいと殴り、校庭から追い出した。明日からは監視カメラ借りないと。
百メートルラインを何本か引き、反復横跳び用や幅跳び用も用意した。
後で中距離も合流するのでちょっと多めに。
少しして、ちょうど門前を通りかかった数人に声をかけた。
「そこ四人、中入って」
「あ、はい」
中距離の奴らも数人以外は走りに行かせ、残った数人で体力測定をやらせた。
「百メートルは普通に計って。幅跳びは走りと普通両方。反復横跳びは動きなくなるまで。転けたらやり直し」
前にいた三人に適当にバインダーを渡し、タブレットから顔を上げた。
固まっている全員を睨み、さっさと動けと追い払う。未優が一番楽しそう。
「日蔓、中距離の子は成績いいならそっちに渡していいんでしょ」
「うん。こっちも成績悪かったら渡すから交換で」
「まー成績いい人なんて未優さんぐらいだろうけど」
「そこはちゃんと見てるから」
天性の運動音痴か、鍛え方が悪いだけか筋力不足か。ちゃんと見たら分かる。
「じゃ終わったら呼んで? 練習しとくから」
「はいはーい」
珍しくと言うか、初めて見たウェアにパーカー姿の丁字は手を振るとすぐに銃をセットしながら元の場所へ戻って行った。
指揮台に座り、全て測り終わった奴から全力疾走に返す。一人に声をかけてこいと伝えて。
全員終わるまで走らせるが、まだまだ遅刻組が降りてくるので終わるのは昼前かな。
タブレットに近距離組全員の必要、不必要を書いていると、いきなり遅刻組が大急ぎで飛び降りてきた。
思わず面食らい、目を丸くする。
何事かと思えば、後ろから七竈が全力疾走で追いかけている。両手にショットガン。
「おおお遅れましたすみません!」
「申し訳ないと思うなら一発撃たれてこい。明日遅刻したら問答無用で撃つからな」
「はッはいッ!」
近中組は走りに行かせ、遠距離は七竈に引き渡した。射撃場で優羽が数人に教えているらしいが、まるで才能がないようだ。
そりゃ年々実力は下がってるからな。
「まぁ期待はしてないから」
「まぁな。後で曄雅もやるんだろ。見せてど……」
「は? やらないけど」
「優羽と碧生と合わせろ。本番はその後だ」
「あー丁字がいんのか……」
「優羽となら合わせる必要ないって?」
「夜中にやるかー」
ここはしばらくかかるだろうし、丁字は一人で射撃精度を戻している最中なので引っ張って優羽の所に行くか。
日蔓は立ち上がると目を丸くする七竈を放置して、丁字の元へ行った。
「ちょうざなくーん」
「はぁい」
「優羽のとこ行くよー」
「まだやってんだけど」
「夜にまたやるから」
「夜には足の鑑賞会がッ!」
「死んだら一生見れないからねー」
丁字を引きずって技術棟に入り、二階に上がると優羽に声をかけた。
「優羽」
「ちょうどよかった。合わせるのいつやる? 丁字君いるなら必要でしょ」
「これ結楽の頭にできないかな」
「んークローンならいけるかも?」
「……やるか」
「本人の生態情報が必要ってだけ言っとく。AIじゃないから学習機能はないよ」
忘れそうになるが天才技術者の丁字は立ち上がるとパーカーを払い、壁沿いまで歩くとそこに座った。相変わらずの癖だ。
「やるのは夜中の方がいいよね」
「だねー。未優が寝てる間にやらないと動き変わると面倒臭いし……」
「何動き変わるって。そんな目で見たまんまに動くの?」
「そうそう。足使いが変わると気合いの入れ方が変わるらしい」
だから記憶が戻った一ヶ月の始め半月は衝撃波が出なかった。と言うか出すための気合いが入らなかったのでできなかった、という方が正しいか。
違和感や過去に意識が取られると気合いが入り切らないようだ。
「……曄雅が子育てしてる」
「元々餓鬼は二人養ってた」
「歳上なのになぁ」
「……三十路だ」
「泣きてぇ」




