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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
94/155

4.久方振りの

「ねー君未優ちゃん?」

「何?」

「ケーキ一人で食べるの?」

「馬鹿にしたいならどうぞ」

「そーゆーわけじゃないけどさ。甘くない?」

「好きだから」


 優羽は警戒する未優の前にしゃがみ、未優はケーキをぱくぱくっと食べると衝羽の方に逃げていった。


 それに笑顔で手を振り、ようやく目的の静璐に辿り着く。



「君でしょ、期待のルーキー君」

「え、いや……まぁ……日蔓さんのネーミングですよ」

「ネーミング酷いよねーあれ! 僕最初下衆ヤンキーって呼ばれてたもん。いじめっ子いじめ返してる時に界魔に襲われて。気にせずいじめてたら見られちゃってさぁ」

「それはもういじめられっ子ではないのでは……?」

「なんでいじめられっぱで負けなきゃなんないのかな。日本の悪習だよ」



 作戦のために静璐の情報を色々と聞いていると、どこかに行っていた日蔓が戻ってきた。



 未優が飛び付くのを、頭を撫でて手を繋ぐ。



「子育てしてるー」

「茶化すな。はい」

「何?」

「データ一式」

「残ってたの!? もう型古いのに!」

「機械オタクがいるもんで」


 お前の元担当だぞ。



 日蔓からUSBを受け取った優羽は嬉々としてタブレットに繋ぎ、写真フォルダを開いた。

 すご、見事に曄雅単体の写真だけ消されてる。



「スマホにぜーんぶ入ってるけどね」

「入ってるといいね」

「は?」

「未優、ケーキの箱捨てといで」

「はぁい」

「気分悪くない?」

「全然」



 優羽はすぐにスマホのデータは確認し、残っていることに安堵する。



「すご、全部あるじゃん。結楽のある?」

「あるよー」

「見せて見せて」


 曄雅は優羽からスマホを借りると曄雅と書かれたファイルを中に入っている写真ごと、バックアップごと消した。


 優羽が発狂する。



「はいありがとー」

「ちょっとぉ!? 僕のコレクションなんで勝手に消すのォ!?」

「僕のに入ってるから心配すんな」


 なんのための共有フォルダだったと。




 日蔓は優羽に手を振ると、丁字と話す未優の元へ行った。



「未優、この後何件か入れたからあんまり動かないでよ」

「仕事までに終わるの?」

「終わんなかったら明日に回せるから」

「明日身体測定するって」

「はいはい」



 未優は言われた通り椅子に座り、日蔓のタブレットで仕事の確認。静璐は隣で自分のスマホで見ている。



「……弱いランクばっか」

「支配人対策っすか?」

「二ランクはしばらく衝羽と線蓮に潰してもらうから。あんまり強いところ行って支配人に見付かっても厄介だしね。その代わり仕事が早く終わる分しごくから。特に静璐は」

「頑張ります!」

「日蔓も早く体戻しなよ」

「分かってるよ」





 あと数分で休憩時間が終わると言う時、いきなり地震か何かが起こった。地鳴りが鳴り、棚がガタガタと揺れる。震度四か五弱ぐらい。



「わっ!? 何!」

「未優頭抱えて伏せて。線蓮!」

「地震じゃない。……界魔じゃな」


 ラムネが予知しない。界魔の地鳴りだ。



 起きる地震のほとんどを予知するため、予知していないのにこれほど揺れると言うのが初めてなのだろう。驚き怯えるラムネを落ち着け、ひらがな表を踏ませた。微かに眉を寄せた。




「……曄雅! 外!」

「二人とも好きにやっていいよ」



 扉の付近にいた白梅家が扉を開けるとほぼ同時に震度四の地震が起き、未優と静璐は部屋を飛び出した。


 静璐が窓を蹴り破り、未優がガラスの破片から頭を守りながら壁に張り付いた界魔の顔面を踏む。



 勢いがつききらないままの蹴りだったが、静璐に後ろから押されもう一押しすると大きな衝撃波が起こった。


 横二十メートルはあった界魔の顔面全体が凹み、口から大量の生気を放出するが、まだ動いている。消化しきっていなかった生気か。




「トンカチカバー回れ!」

「はい!」




 未優は一回転して校庭に落ちた界魔にまた衝撃波を入れ、二度顔面を横蹴りした。


 未優が一度下がると交代で静璐が殴りを入れる。



「せーのっ……!」



 静璐の拳に合わせた未優の衝撃波で界魔が完全に潰れ、吐瀉物のように生気を吐き出していく。結構気持ち悪い。



「結構弱かったっすね」

「そりゃ異型だからね」

「やっぱ人型の方が強いんすね」

「知能は高いね」



 そんなことを言いながら二人で飛び上がって五階まで戻れば、日蔓が窓から見下ろしていた。


「おつかれさまー。せいろー、弱くなったねー」

「……マジっすか」

「自分の実力分からないってヤバいよ。未優の動きついていけてないでしょ」

「未優さんが早くなっただけじゃ……」

「現実逃避。未優が早くなったら一緒にレベルアップしないと置いてかれるよ」



 静璐は頭を抱え、未優は嘲笑うような顔でそれを見下ろした。

 だんだん汚れていく未優の心に日蔓も頭を抱える。




「……静璐、自主練してた?」

「鬼燈さんと西木(せいもく)課長に稽古つけてもらってました」

「あー……あの二人は駄目だよ。静璐より弱いから教育に向いてない。多少嫌いでも線蓮とか未優とか、それこそ大嫌いでも七竈(しちくど)とか。あれは嫌いながらに訓練してもらう価値はあるから。無駄話は省いて」

「だって未優さんは放心状態だったし日蔓さんは寝てたし七竈さん俺探す方法ないんすもん……!」

「……未優」

「日蔓が寝てたから!」



 二人に指さされて怒鳴られた日蔓は目を丸くし、ごめんねと謝った。

 まさかそこまで影響与えるとは。未優を衝羽と線蓮に慣れさせておいてよかった。まぁ対支配人で日蔓が死んでもいいように慣れさせておいたのだが。


「んじゃ僕が見てあげるよ。未優も動き鈍ってたねー」

「……ケーキのせい」

「減らすぞ」

「ごめんなさい」



 フードを被って警戒する未優とガチ凹みする静璐を連れて部屋の中に戻り、扉を閉める。

 弱くなったと言っても部屋に被害が出る前に片付けられたので良しとしよう。




「でも二人とも衝撃波は強くなってたね。特に静璐。未優に負けず劣らずだったよ」

「……ほんとっすか? 未優さんに気合いって教えてもらって」

「気合いでどうにかなるんだからすげぇよ」


 普通どうにもなんねぇもん。



「未優も偉いよ。ちゃんと教えて」

「先輩してるよ」

「偉い偉い。できる静璐も相当だけど」



 癒し系に分属される三人のほわほわした会話に皆が癒されていると、扉の外を覗いていた白梅家の三女がいきなり悲鳴を上げた。


 それを見た白梅は三人の後ろの扉を開け、二人は振り返り、日蔓は前を向いたまま笑って鏡瞳を開いた。



「しつこー。異能か」



 界魔が跡形もなく潰れ、周囲に血液らしきものが散乱する。いや、血液らしきもの大半諸共消えた。



「気分悪いのに勘弁してほしいよねー」

「日蔓、私のケーキ代」

「僕がやっても未優に入ってくるよ」

「主任がやったら主任に入るんじゃないの?」

「班が報告書出したら班になる」

「書いといて〜」


 甘えん坊に戻ったなと思いながら未優の頭に手を乗せると、ふと未優は日蔓の奥にいる静璐に目を向けた。



「トンカチ」

「どうしたの静璐」

「あ、いや、生気出たのに大きさ変わってなかったなと思って」

「たまにいるよ。見た目変わらず力とか速度が激弱するやつ」

「へぇ」

「だいたいでっかいのは界魔喰ったのだからねー」



 まだまだ経験が浅いなと笑っていると、気を取り直した線蓮が皆に席に着けと声をかけた。



 まだ唖然としている皆が席につき、何人かが後ろに立ち、また会議が再開された。

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