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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
90/155

10.アレルギー

 クリスマスでの単独出動要請が終わり、未優と線蓮はケーキ屋の外で待つ。


 クリスマスで人が多く、未優は入りたがらなかった。

 弟弟子の花盞(かせん)を置いておこうとしたらケーキ買うからと先に日蔓とともに入られたのだ。

 どうせ彼女と食べるんだろうな。まぁ松葉杖だからどっちにしろ無理だけど。



「あー曄雅とケーキ食べたぁい!」

「食べないの?」

「嫌われてるから食べれんのじゃ」

「私食べてるよ」

「いいなぁ!」

「いいでしょ」



 この子煽り属性あるなぁと、ベンチの隣に座る未優を見下ろしているとふと人影が視界に映った。

 ふとと言うか、ずっと気配は気付いていたが他人かと思っていた。


 でも動く様子はないし見る分には問題ないかと顔を上げると、その女性とバッチリ目が合った。誰やねんこいつ。



「未優、ケーキ食べに行っていいか?」

「駄目だよ。私の分が減る」

「じゃあ曄雅撮りに行っていいか」

「私はいいけど」

丁字(ちょうざな)が未優撮るのと同じ感じで」

「私は嫌じゃない」

「じゃあ行く」



 袖で口を押えながら上機嫌に足を振る未優を見下ろしていると、ふと未優が無表情に戻った。

 上を見上げるので線蓮も見れば、さっきの女性が未だじっとこっちを見続けている。


 たぶん線蓮と同じ歳ぐらいで、普通の顔に普通の服の普通の日本人。ただ行動が変と言うだけ。



 なんかどっかで見たことあるかもしれないと微かに眉を寄せると、ちょうど日蔓と花盞が出てきた。



 二人で何か話しているのを、未優が飛びついていく。



次聡(じそう)兄さん、誰ですか?」

「知らん。それよりお前クリスマスまで仕事してて大丈夫か」

「大丈夫じゃないですよ彼女ブチ切れてます」

「はよ帰れ」

「サプライズで買ってってあげようと思って」

「ここで惚気けるな」

「惚気じゃありませんよ浮気現場に行くんですから」


 こいつも苦労してんなぁ。クリスマスまで仕事入れるから浮気されたのか、浮気されたから予定入れたのか。



 肩を叩いて哀れんでいると、いきなりさっきの女性に声をかけられた。


「あの」



 振り返り、花盞の肩を掴む手に力を入れた。日蔓が未優を静かにさせる。



「誰お前」

「やっぱり次聡君だよね。郷真(きょうま)さんと住んでた」

「誰……」

「覚えてませんか。帆聖(ほみち)です」

「……あぁ。あそう……じゃいいや」


 じゃあいい。無視しても問題ない。



 線蓮は花盞の背中をバシッと叩くと、そのまま歩き出した。


 後ろから女性の慌てた声が聞こえる。



「あの! 郷真さんのお墓の場所! あと姫智(ひめち)さんが鬼の形相で探してました!」


 その声を後ろに、二度と関わらんでおこうと心に決めた。










 線蓮は日蔓と未優とともに軽に乗って帰り、花盞(かせん)は自分が来た車で帰った。





 線蓮と日蔓が部屋で騒ぎ、主に日蔓が線蓮を嫌がって騒いでいると、部屋に怒涛のインターホンが鳴り響いた。

 未優が耳を塞いで部屋に逃げていき、日蔓は覆い被さってくる線蓮の足を蹴り飛ばすとインターホンに応答する。


「はい」

『日蔓!』

『日蔓さん!』


 半泣きの男が二人揃ってよくもまぁ。




 男男しくなった部屋を見下ろし、盛大に溜め息をつく。


 線蓮は足を抱え、花盞は線蓮の後ろから全体重を線蓮にかけ、衝羽は未優のいないソファで一人丸まり。

 主に怪我、破局、破局。衝羽に関しては破局と言うか推しの恋愛が成就し心崩壊寸前なだけ。推しって言っても三次元。




「……未優! 早くケーキ食べないと溶けるよ!」

「うるさいのもうない?」

「ないよ」

「未優さァん!」

「これ以外は」



 未優は椅子に座ってケーキを食べ、膝に乗る衝羽の頭を撫でた。大泣きしてる。



「日蔓さん飲みに行きましょ」

「僕飲んだことないんだって」

「普通成人式の後飲むでしょ!? 家族、友達、兄弟姉妹! それこそこれとかそれとか!」

「うーん仕事で成人式も出てないんだよねー」

「そんな悲しいこと言わないでくださいよ」

「言ってねぇよ耳腐ってんのか」



 花盞は日蔓に泣きつき、それを線蓮が引き剥がし、日蔓はまた盛大な溜め息をついた。




 何が悲しくてこんな涙に囲まれたクリスマスを過ごさなきゃならんのか。過去に帰りてー。











 クリスマスが終われば年越しになる。例年の如く、クリスマスが終われば帰省が始まる。


 それと同時に起こるのは深刻な人材不足。

 地方に人が行くため発生率の高い都市部が手薄になるのだ。




「今は線蓮に預けてるの? 未優ちゃん」

「そう。用事あるって言ったらどっか遊びに連れて行ってくれたみたいで」

「優羽君も結楽君も考えられないだろうね。まさか昇進したら子育て始めたなんて」

「まーびっくりだろうね」

「二人のお墓参り行ってる?」

「一回も。死人の墓とか行く意味ないでしょ」

「失礼だよ」

「礼儀なんてないよ」



 仕方なさそうに溜め息をついたのを聞いて、いつも通り膝立ちの日蔓はそれを見上げた。



「今さら挨拶しに来ない程度で怒ると思う?」

「怒るでしょ。全然会いに来ないって……」

「怒らないよ。余裕抜かして守るとかほざいてたやつが来てもウザいだけ」

「自己肯定感! 二人はそんなに酷くない! もっと信用して!」

「あはは、やられた側だからこそ分かるんだよ」

「器が小さいだけじゃない」

「もっかい言ってみろ餓鬼」

「ひぇっ!」



 日蔓は頭を抱えて怯えるのを見下ろし、弾むように笑いながら部屋を出ていってしまった。




「……出てきていいよ」

「明るくなったねー」

「何がさ」

「性格? 前はもっと根暗だったのに」

「口が丸くなっただけだよ」

「そうじゃなくてさー。前はそんな話題出たら黙り込むか自虐に走ってたから」

「未優ちゃんの影響じゃない?」

「誰なのそれ。最近よく聞くけど」

「女の子だよ。鏡界で界魔に守られてた女の子」

「界魔じゃないのそれ」

「知らなぁい。楽しそうならなんでもいいもん」


 溺愛心の塊め。




 頬杖を突いて無邪気に笑う大人を見下ろして、溜め息を零した。

 すっかり大人になったのに身長と笑う姿だけはまだまだ子供で、でも心は性根の腐った欲望まみれの大人そのもの。


 いつからこんな汚れた子になったのかな。あーあ。















 夜、日蔓がソファで寝かけていると部屋の扉が開いた。

 未優が元気に帰ってくる。



「日蔓ただいまー!」

「おかえり」

「ケーキの食べ放題行ってきた!」

「美味しかった?」

「うん。でもケーキほとんどなくなっちゃった」

「よく食べたね」



 未優は上機嫌で日蔓の足元に座り、狭いソファがさらに狭くなった日蔓は丸まりながら寝落ちた。






 顔を踏まれる感覚で目を覚まし、それを睨んだ。


「何ラムネ……なんでいるの……」


 なんで僕ベッドで寝てんの。



 ラムネは日蔓の顔から片足を退かせ、尾をふよふよと振った。


 少しして、日蔓が咳き込み始める。

 その振動に驚き、ラムネは部屋から逃げ出した。






 ハッと目を覚ませば病院で、横では未優が足を振りながらまんじゅうを食べていた。



「あ、起きた!」

「しー。……なんで病院にいるの僕」

「線蓮さんが息できてないからって」



 どうやら昨日未優が帰ってきてすぐ寝落ちした日蔓を、ラムネを連れてやってきた線蓮がベッドに移動させたらしい。

 ラムネが普段入れない日蔓のベッドで遊んでいるうちに日蔓の呼吸が止まりかけ、緊急搬送、と。



「未優、線蓮のマンションの部屋分かる?」

「ラムネちゃんの部屋?」

「そう。一人で行ける?」



 頷いた未優にしばらく線蓮の部屋にいるよう伝え、未優を見送ってから待っていた看護師に色々確認してもらった。


「すぐに先生が来ますので、起きてお待ちください」

「はい」




 何気に入院って初めてなのではと思い出していると、すぐに担当医がやってきた。


 普通の内科の先生。



「日蔓さん、だから健康診断やれって言ったでしょ」

「健康診断の類なんですかこれ」

「アレルギー検査!」

「……アレルギー」

「猫アレルギー。体内に入ったら呼吸困難になるほど喉が腫れる」


 厄介なものになったぞ。



 医師の説明を聞き、とりあえず顔に猫を近付けるな、猫に触れた手で顔を触るな、猫の触れた服を着るな。


 猫の毛や猫の何かが呼吸器に入らない限り大丈夫らしい。



 話を聞き、真顔になると深く頭を下げた。


「またお世話になったらすみません」

「お世話にならないで」

「殺意の高い猫なもので」

「日蔓さんが避けるの」

「まぁできたら」

「死ぬよほんとに」


 死んだら死んだでまた一興と笑えば本気で殴られ、頭を抱える。この医者患者殴った。


「打倒支配人ならこんなんで死ねないでしょ」

「別にそんなんありませんけど。まぁ一応気を付けときます。……退院ってすぐできますよね?」






 三日間の経過観察入院中、話を聞き付けた尊音(たかね)が飛んできた。



「にいざんッ!」

「待て待て待て待て」

「丈夫な体だけが取り柄なのにっ!」

「蹴り飛ばすぞ」

「えッあっ」



 しまったとでも言うように口を押える尊音の額を弾き、誰も来ないうちに早く帰れと言っておく。


 わざわざお見舞いも買ってきたようで、でもいらないと突き返した。まだ喉が痛くて食べれないのだ。



「もー本気で心配したんだよ」

「座る前に帰って」

「にーさん」

「尊音も検査受けといてよ。血的に似てるんだから」

「……はぁい。今度予約しとくよ」

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