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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
87/155

7.上司と部下

 緊急招集がかかり、未優はあくびをしながら日蔓とともにトラックに向かった。


 中には白梅課一班と主任、線蓮と、見たことない人も二人。



「あ? おい日蔓、餓鬼連れてくんじゃねぇよ」

「なんで線蓮がいんの?」

「念の為じゃ。曄雅来るって聞いたし」

「……来る意味なかったかな」

「チビ組は帰れよ」

「いくら最年少って言っても弱いだろ二人とも」



 包み隠さず文句を言ってくる一班主任の蝶草(ちょうそう)と下野に舌打ちし、まだ眠そうな未優を膝に寝かせて自分はスマホをいじり始めた。


 無視されたことにキレる二人を無視しているうちにいきなり二人が静かになり、日蔓は斜め向かいの線蓮に目を向けた。おぉ怖。








 二時間弱したところで現地に到着し、眠そうな目を擦る未優と手を繋いで外に出た。


 来ていた苺米(まいべい)課五班は全滅、生気を吸われてバラバラの場所に倒れている。界魔は鏡界内に帰った、か。



「鏡界に入られたら元も子もないぞ。夜明けまで待機ってか?」

「曄雅、未優起きてるか」

「未優、鏡界開けて戻っといで。未優出るのは全員死んでからでいいからね」

「はぁい」



 未優は一人で湖の傍まで行くと、湖に手を伸ばした。

 ちょんちょんと触れば、水が宙に浮いて鏡界が開く。それと同時に界魔が飛び出してきて、未優は日蔓の元へ戻った。



「開けてきた」

「よくできました」

「おい日蔓! なんだその子供!? どうっ……何やった!?」

「こっち気にしてる暇ないよー?」



 馬鹿でかい界魔は地面に手を突き、胸上しか出ていないにも関わらず周囲の地形を破壊するほどに地面を殴り始めた。


 界魔よりも人形(ドール)の救出に専念するせいで、被害が拡大していく。




「あーあーさっさと殺せば済むものを。経費のことも考えてくれんかの」

「自分で行けば?」

「わし招集かかってないから無理」

「なんで来たんだよ」

「ねぇ日蔓、これいつ帰れる?」

「眠いか」


 今日は五件だけだったが、終わるのが遅かったので疲れが取れていないのだろう。

 袖で口を隠しながらあくびをする未優の頭を撫で、仕方がないと溜め息をついた。



「行っておいで。先に帰ろう」

「アイス食べたい」

「寒いよー。また帰りにね」



 未優はフードを被ると木々を使って飛び上がり、こっちに手を伸ばしてきた界魔の手に足を置いた。

 轟音とともに衝撃波で界魔の手が弾かれ、未優は重力に従って界魔の上に落ちる。


 眉間に足を置くと一瞬の間を置いて湖が波立つほどの衝撃波が響き、風が吹き荒れた。

 たしか、生気を吸った界魔は殺した方がいいんだよな。



 さらに気合いを込め、また衝撃波を作り出した。

 界魔の頭が凹み、鏡界に落ちていく。



 界魔の頭を蹴って岸に飛び移ったが、足の力が抜けて頭から地面に突っ込んだ。

 痛かった顔を押え、日蔓に連絡する。




 十分もしないうちにすぐに山から降りてきて、駆け寄ってきた。



「未優、大丈夫?」

「痛い……」

「よしよし。戻って手当しようね」



 日蔓は未優を抱き上げ、未優は日蔓の首にしがみついた。痛みの涙を堪えて日蔓の首を絞めるほどに腕に力を入れるが、たかが未優の腕力。本人の腕が折れかけても日蔓はなんともないような顔している。





「未優、何アイスがいい?」

「……前のやつ。青いソフトクリーム」

「青いソフトクリーム……」


 トラックの隣に座っていた線蓮は僅かに眉を寄せ、日蔓は少し記憶を探ってからあぁと思い出した。


「アーモンドアイスね」

「なんでアーモンドが青になる」

「なんか、バタフライピーかなんかだった気がする。コーンが黒いやつだよね」


 小さく頷く未優を見て、やっぱりと確信した。


 ゴマのワッフルコーンにアーモンドミルクのソフトクリームが乗ったアイスだ。あれどこで買ったっけな。








 ドラスト(ドラッグストア)をはしごしてようやく見付けたアイスを、線蓮とトラックで待機していた未優に見せた。

 包装を全て剥いでから未優に渡す。アイスの袋も開けられたり開けられなかったり。



「……美味しい」

「そりゃ何より。帰ったら寝てても歯磨きさせるからね」

「頑張る」

「よし」






 案の定未優は線蓮の膝に寝転がって心地良さそうに眠り、日蔓はそれを仕方なさそうに眺める。線蓮は向かいから日蔓を向かいから眺められるので幸せそう。



 少しして、何故か停まったかと思えばトラックの扉が開いた。救急念の為救急車に乗っていた招集組が移動してくる。



「おい日蔓! さっきの餓鬼あれなんだ!?」

「うるさっ! 大声しか出せないの?」

「答えろ! 人間のできることじゃない!」

「人間がやってんだろ分かんねぇのか馬鹿。人に助けてもらったらまず礼を言え。質問はその次。文句は最後」

「俺の喋り方をお前が決めるな!」



 一班主任、蝶草(ちょうそう)の怒鳴り声で一班の女子二人は怯え、未優が目を覚ました。当然まだまだ寝足りない状態なので不機嫌になり、耳を塞ぐ。



「曄雅、起きたぞ」

「ここどこ?」

「ちょうど埼玉と群馬の県境じゃな」

「もう一台呼ぶかー……」


 日蔓がスマホでもう一台車を手配しようとしていると、ちょうど簪から連絡が入った。前橋で難航しているので、まだ近場にいるなら来てくれ、と。


 対応者は全員緊急搬送かな。



「よし、じゃ俺ここで降りるわ」

「じゃあついて行く」

「来んなよジジイ」

「ジジイの楽しみを取るな」

「勝手に楽しみにすんな」



 線蓮は未優を抱き上げると日蔓とともに降りていき、未優は顔にあたる冷たい風に少し震えながらフードを被った。足先までパーカーの中にすっぽり収まり、丸い塊になる。



「……未優はいつまで経っても幼いな」

「言うてもまだ九歳だし」

「未就学児のようじゃ」

「ふーん」



 子供の発育具合を知らない日蔓は適当に返事をして、とりあえず近くのベンチに座った。

 足を組んで、既に向かってくれている簪に信号の名前といる公園の名前を送っておく。






 座っているだけで絵になるからと線蓮に大量連写され、通報するぞと睨んでいるうちに簪の車が到着した。

 簪は長年運転手をやっているので軽での送迎は愛車を使っている。もちろん大型車や、牽引免許以外の第一種運転免許は持っていたはず。



「お待たせしました」

「助かります」



 日蔓が助手席、線蓮は後部席に未優を寝転ばせ、自分も隣に座った。


 パトカーが前後に二台ついているのでかなり仰々しい。



「出しますね」

「簪さんって老けないよね」

「頭からパトカーに突っ込みますよ」

「何何なんで」



 別に失礼なことを言ったつもりがない日蔓は頭に疑問符を浮かべ、簪は溜め息をついた。


 一度呆れたようについたかと思えば、今度は本当に思い詰めたような声で二度。



「……なんか、すみません」

「二度と言わないで下さい」


 特に線蓮専務の前では。











 もう一件を日蔓の鏡瞳で済ませ、さっさと家に帰る。

 現在未優と日蔓は同居状態だが、未優の部屋の家具もそろそろ揃えないと。

 誕生日が分からないので数え年で、十歳ぐらいからは一人で住むようにさせたい。思春期に一緒だと色々問題があるしあといい加減ソファ寝はキツい。



 動くのをパタリとやめてから身長が二年で十センチ以上伸びたせいで、慣れていたものが慣れずちょっと不自由になった。なんなら今も成長痛か知らんが膝が痛い時がある。






 未優がまだ起きない朝の八時、日蔓がネットで家具を検索していると、未優からメールが来た。盛大に誤字ってかつ誤送信が送られてきたので、本当に寝起きだな。





 朝食を作り、食べる未優の向かいに座ってタブレットを渡す。


「未優、これ好きなの選んで」

「……家具?」

「未優の部屋の。自分で使える台所欲しいでしょ」


 と言ってもしばらく食事は食堂になるだろうし作るのはクッキーぐらいだろうが。


 しかし日蔓の言葉に未優は首を横に振り、タブレットを押し返した。



「いらない……」

「揃えとくだけ揃えるよ。中学生になるまでには一人暮らししてもらうからね。言ってもここにもすぐ来れるんだし」

「ずっとここがいい」

「駄目だよ」

「やだ!」

「未優」



 未優は顔を逸らすと卵焼きを一つ食べ、それを口に含んだまま日蔓の部屋を飛び出した。

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