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鏡界館  作者: 織優幸灔
二章
76/155

26.家族

 曄雅はボロボロの顔を隠すようにフードを被って机に座って足を組み、結楽は欠伸をしながら床に座ってスマホをいじる。



 優羽は救急看護車で手当を受け、二人は手当が終わったあと。




「お腹空いた……」

「食べた瞬間動いたらなぁ。……ドリア食べに行くか」

「待てその状態で食べに行くつもりか」


 黒いキャップに白いパーカーを着た線蓮がやってきて、二人で顔を上げる。



「その喋り方なんなの?」

「癖。帰って作ればいい」

「優羽しか作れない」

「レシピ見れば作れるじゃろ」

「面倒臭いんだよ」

「友達に頼め。ぼっちか」


 三人組でぼっちなわけあるか。



 内心馬鹿だなと嘲笑しながら、斜め向かいの机に座った線蓮から視線を逸らした。二人以外に友達がいないなんて言えない。



「結楽、優羽のところ行くぞ」

「動けるかな」

「動かすな」





 二人で優羽の元へ行くと、既に優羽は起き上がってぼんやりとどこかを見つめていた。突っ込もうとする結楽を曄雅が制す。



「優羽! 体どう?」

「二人ともおそーい。全身ボロボロだけど大丈夫そう」

「問題ないならよかった!」


 結楽は陽気に優羽の隣に座り、曄雅は優羽の正面にしゃがんだ。



 曄雅も左腕が裂けて使えなくなったが優羽は左肩を骨折している。せっかくのご尊顔も傷だらけだ。


 頬を掴み、顔を左右に動かす。



「なに……」

「痕残るかなと思って」

「大丈夫だよ。喧嘩の傷も綺麗に治ってるし」

「喧嘩弱いくせに」

「知的に勝ってるんで」


 元ヤンが何言ってんだ。



 曄雅は呆れ、優羽は曄雅の手から顔を離した。



「男の傷は名誉の傷なんだよ」

「女顔」

「黙れ女よりちっせぇチビが」

「あ?」


 曄雅と優羽が火花を散らした時、いきなり結楽が曄雅の手を掴んだ。


 腕を引っ張って自分の膝に乗せる。曄雅は真顔。



「優羽は何見てたの?」

「そーそー、曄雅、あれ誰? 結楽に構ってたけど」

「父親が結楽の父親と同じ顔だから両親と妹だろ。家破壊されて俺が見に行った時には帰ってきてたし」




 結楽はいわゆる虐待まがいなことをされていた。

 暴力等はなかったが、締め出し、食事抜き、軟禁。男は頭脳命の家庭だったのでテストや成績が悪いとテストに足りない点数を時間部屋に閉じ込めた。八十三点なら十七時間ぐらい。


 結果、女は馬鹿でなんぼの妹と頭が弱い両親が旅行に行っている間に結楽一人で界魔に襲われた。

 そもそも結楽は銃の才能があって、曄雅から半無理やり奪って撃ったので怒られながらも界館に引き入れられた。その時には優羽はいたらしいが、初めて会ったのは曄雅に班に誘われてから。



 部屋に引きこもり家族と別居状態だったせいで顔なんて朧気、そもそも人の顔を覚えようとしたことがない。


 妹は執拗に構ってきたがだいたい追い出してたからな。




 優羽の肩に腕を置き、ずっとこちらを見てくる三人をぼんやりと眺める。

 父親だけは、確かに重なる気もしない。



「……曄雅はなんで家族知ってんの? 結楽置いて旅行行ってたんでしょ?」

「結楽界館に入れたから軽く説明しに。まぁ行方不明届け出したらしいけど」

「大丈夫なのそれ。誘拐犯……」

「いや政府公認秘密裏組織だし。受理されてない」

「へぇ」


 優羽と結楽で関心の声をこぼし、曄雅は結楽の頬を挟んだ。



「顔に傷できたら写真アップできねぇな」

「大丈夫だよ神出鬼没だから」

「前半年ぐらい更新止まってたもんね」

「忘れてた時だね」

「忘れんなよお前……」



 曄雅は結楽の膝から立ち上がると、パーカーを脱いで結楽に投げた。



「頭洗ってくる」

「行ってらっしゃい」

「一緒に行こうか? 怪我!」

「へーきー」


 話の途中で歩いて行った曄雅を見送り、優羽と顔を見合わせ肩を竦めた。



 パーカーを畳み、優羽の膝に寝転がる。


「お腹空いたー! 優羽それじゃ料理できないね」

「うーん……まー肩だしなんとかなるよ?」

「寒白さんの弟子に外食行くなって言われた」

「確実に怪しまれるし曄雅があれじゃ対処が難しいからね。食べたいものあるなら作るよ?」

「優羽を労るつもりが」

「柄にもないことしないで」

「ひっでぇ!」



 二人でげらげら笑っていると、濡れた髪を上げた曄雅が戻ってくる。血を流しただけだが、くすんでいた黒が戻った。


「色男のご帰還だ」

「お前地べたで寝転がるなよ」

「ブルーシート敷いてあるし!」

「皆が土足で踏んでんのによ。前使われた時に土足で踏んだかもよ。少なくとも俺は踏んだ」



 結楽は黙って起き上がり、優羽が背中を軽く払う。





 三人で夜ご飯の話をして結楽がお腹空いたと駄々をこねていると、いきなり上からパンがぶら下がった。三人でそれを見上げる。



翠狼(すいろう)! ひっさしぶり!」

「久しぶりー曄雅先パイ。結楽先生これあげる」

「ありがとー!」



 碧眼の美青年、翠狼。曄雅の一つ下で曄雅より少し大きいが、平均よりは下の身長。


 優羽よりも早く曄雅の指導を受けていたうちの一人だ。あと二人、曄雅が幼い頃から目に留めて指導している子がいるらしいが入班と同時にそういう話は聞かなくなった。




「翠狼は兵庫だろ」

「線蓮専務についてきたんだよ。二、三人だけ、邪魔にもならない子って」

「あれは兵庫担当?」

「そうそう」



 翠狼に曄雅が取られないよう優羽と結楽でしっかり固め、曄雅は二人の頭を撫でながら翠狼と話す。


 線蓮は兵庫担当で、たまたま京都担当と会議をしていた時に連絡が入ったので連れてきていた優秀組をそのまま滋賀に持ってきたらしい。



「あの人凄いよ。実力だけで言えば寒白さん以上」

「翠狼、実力には本人の性格と周囲との兼ね合いも含まれるんだよ」

「そうだよ翠狼君。曄雅と結楽と僕みたいに、最強のバディもいないのに最強にはなれないんだよ」

「一人はどこまで行っても一人だからな」



 猫のように擦り寄ってくる二人を少し押し返しながら感心する翠狼に持論を話していると、線蓮が寄ってきた。

 振り返るとほぼ同時に曄雅は頭を掴まれ、顔をしかめる。



「報告書は任せたぞ。最後しか知らんし」

「……六枚!? だるっ!」

「六?」

「二枚ずつ? 地獄じゃん。メールじゃ駄目かな」

「アウトでしょ。さっさと書いて美味しいもの食べよ。……翠狼美味しかったよ!」

「良かった」



 曄雅は首を傾げる線蓮に、午前中に三体倒しているのを簡略して伝えた。さすがに一日六体は驚いたのか、目を丸くする。六というか、蜘蛛は無数。



「不運体質すぎる。連続で六体って」

「どうにも開いたらこっち来ちゃうんだよねー。たぶん曄雅がいるから釣られるんだろうけど」

「日蔓の血はそんなに特別か」

「日蔓の血だからねー」


 濁して満足する優羽は酔っ払った三十路のように曄雅に抱き着き、結楽は曄雅の背にもたれた。翠狼は優羽の反対から抱き着いてきて、三方を塞がれた曄雅は体を前後に揺らして結楽とシーソーのような動きをする。



「言うて古い名家というわけでもなかろうに。日蔓ができたのは割と最近のはずじゃろ」

「日蔓初代が支配人殺しかけてその栄誉でな。うちの家系は運動神経最悪だけど……」

「支配人?」

「曄雅、支配人って何?」

「なんかの界魔?」



 曄雅以外の皆が首を傾げ、曄雅も目を瞬いた。


「いや、支配人。界魔の総支配者」

「そんな奴いるの!? 無法地帯だと思ってた!」

「何それ極秘情報?」

「いや普通に公開されてるけど……」


 マジか支配人知らないのかこの四人。


 線蓮も向かいに座り、興味深そうに見てくる。



「……あ、優羽と結楽は見ただろ。新幹線であの黒いスーツの」

「ん〜! 優羽殺しかけたやつ! あいつ?」

「確かに尋常じゃない強さだったけど……」

「支配人が本気で戦ったことは記録上ないからなんとも言えないけど、一体で日本か世界か壊滅させられるぐらいの力はあるだろうな。他の界魔も従うし右腕的存在が何人かいる」

「詳しいね。授業でやるの? 結構常識?」

「いや……知らないのは仕方ないかも。そもそも上も負けたって公言したがらないし……」



 皆が線蓮を見たが、線蓮はそれを気にせず質問する。


「なんでそんな危険な存在知らされない? 師匠からも会長からも聞いたことがない」

「知らせて出くわして戦闘になったら勝ち目ないから。あいつ人の生気は吸わないから、上も極力避けてる」

「……曄雅先パイ、それほんとに界魔?」

「界魔。右腕が三体と腹心が一体、右腕三体が生きた人間集めて支配人に献上してる」



 気分が悪くなってきた曄雅は結楽と優羽にもたれかかり、結楽は体重をかけるのをやめて優羽とそれを支えた。



「曄雅、大丈夫?」

「あー気持ち悪い……」

「どうしたの」

「いや……いや、いい。大丈夫」


 曄雅はふらふらと立ち上がるといきなりどこかへ歩いて行き、結楽は慌ててそれを追いかけた。動けない優羽はそれを心配そうに見送る。



「……優羽と結楽はなんで界魔屋をしておる? 家じゃなかろうに」

「僕も結楽も曄雅に助けられたからだよ。九歳と十歳の小さい子にね」

「……待てあいつ何歳からやってる?」

「えーと……」

「物事ついた頃には見習いやってたはずです。初仕事が八歳のときで、優羽先生が二年目、結楽先生が一年目の時に史上最年少最強の班になって」

「……それで鏡瞳なし?」



 もう言ってしまえば、曄雅は鏡瞳は使える。使えるが、家に利用されないために落ちこぼれと言われているだけ。

 本気で開くと絶対に家にバレるので本気で使ったことはないらしいが、尊音が鏡瞳の天才だからな。それより上の兄の真の実力は未だ未知数だ。




「そもそも鏡瞳使える人が少ないから」



 優羽は立ち上がると軽く服を払い、二人を見下ろした。



「じゃ、僕はこれで。あんまり長居してると後ろのお仲間に怒られるよ」

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