50.界魔
大会開始前日ということもあり、ほとんどがいる中で現れた支配人。その脇には瀕死の薄紫の界魔が倒れている。
仲間じゃなかったのか、未優に危害を加えたのが支配人の意に反したのか。
未優と日蔓に合流した静璐と三人で軽く体を伸ばし、警戒心と闘志を高める。
薄紫の界魔が検知に引っかかってすぐに警報が鳴り、皆が体育館やその他避難場所に指定されている場所に避難を始めた。すぐに班所属から専務までが集まり、平はそれ以下やそれ以外の護衛に入る。
「……あぁいた。怪我は大丈夫ですか? 足も胴体も。治しに行こうと思ったら別の予定が入ってしまって」
「そいつ仲間じゃないの?」
「そう思ってたんですけどねぇ。ずいぶん力を使ってやったのに、どうやら裏切られたみたいで。やはり人間に近付けすぎるといけませんね。某逆や反感を覚えてしまう」
支配人はそいつの腕に足を置き、軽く踏み付けてその腕をちぎった。回復力が支配人近かったはずなのに、何故か回復しない。力不足か支配人の力か。
「力を付けすぎると自惚れると言うのもありますね。少しでも私に勝てると思っている方が間違いなのに」
「裏切られたと思うなら早く殺せ。こっちは迷惑してんだ」
「……いります?」
「は?」
支配人の問いに未優は素で反応し、周りはさらに警戒心を高め日蔓は未優を少し下がらせた。
支配人は倒れている界魔を持つと引きずりながらこちらに寄ってくる。
「便利だと思いますよ。私を恨んでいるそうなので殺すのに使えるかも。また裏切るかもしれ……」
「ストップ。それ以上近付いたら未優撃ち殺す」
日蔓は未優のこめかみに銃口を近付けると支配人を下がらせた。支配人はその界魔を捨てるように置くとやれやれとでも言いそうな様子で踵を返し中央に戻る。
「……その二人くれたらもうここに手は出さないんですけど」
「断る」
「言うでしょ? 困りましたねぇ。記憶も戻らないし……」
支配人の声は段々小さくなり、最後の方はもう誰にも聞こえない独り言と化した。
日蔓が未優に突き付ける銃口を離さないので無理やり近付くわけにもいかないと思ったが。
被害がなくなるって言ってんのに渡さないってことは失いたくないということか。信用されてないだけかもしれないけど。
でも、やってみる価値はあるな。いざとなればそっちを殺して未優の死体でもなんでもと静璐さえいれば死体はたぶん生き返らせれるだろうし。
そうと決まれば人間は善は急げと言うよな。
口元に手を当て考えていた支配人は振り返りと内心満面の笑みで笑い、くるっと踵を返した。
瞬間、未優の目の前に膝を突いて現れると同時に全員が支配人に飛びかかる。日蔓は未優に手を伸ばす支配人に一発、首の左側に撃ち込んだ。
「脆いのはここだっけ?」
支配人が首を押さえると同時に皆が総攻撃を叩き込み、中でも静和の右ストレートが顔面に直で入った。
日蔓のもう一発と希愛姉妹、専務二人からの攻撃で一瞬隙を見せる。日蔓の腕から抜けた未優は静璐の殴りで飛んだ分軽く助走をつけると、支配人の首目掛けて蹴りを入れた。休みが多くなったこの期間、何もせず一人寂しく待ってただけと思うなよ。
ちゃんと練習して、横からでも衝撃波が作れるようにまで頑張った。気合い入れないとできないけど。
傷口をえぐられた支配人に回復の隙、反撃の隙を与える間もなく皆で攻撃を仕掛けるが。さすがの速さで回復した支配人は攻撃してきた一人ずつをなぎ払い、段々雑になってきて複数人をその場に叩き付けたり何十人を殺す勢いで払い除けた。
「お前……!」
「覚えてなかったかなぁ? お前からしたらほんの数日前だと思うけど?」
互いに怒りが溢れた支配人と日蔓は睨み合い、日蔓は銃を握り締めた。もう骨折なんて関係ない。そろそろ治りかけだし、悪化してもまぁ骨がズレるぐらい。問題ない。
「おー怒ってる怒ってる。なんか嫌なことでも思い出したかな?」
先ほどの教師とのこともあり、珍しく完全にブチ切れている日蔓が誰が見ても憎たらしい笑みを浮かべると、元々復讐の意で腸が煮えくり返りそうだった支配人の堪忍袋の緒が完全に切れた。
背後霊にでも取り憑かれたんじゃないかと思うほどにゾッとするオーラが放たれ、しかしそれとほぼ同時に二つの鏡瞳で相殺される。
「未優、静璐、あんまり使うと疲れるよ」
「気絶で戦力減るよりいい」
「ちゃんと鍛えてますんで」
支配人は両手を首にかけると面の上から開いた目で三人を睨んだ。二人の鏡瞳が、未優の鏡瞳が消えるほどのオーラが放たれ、結局数人は気絶する。二人の鏡瞳がなければ全員気絶していたのだろうが。
「お前、あいつの末裔か……!」
「……何言ってんの?」
「嫌いな血筋だ。代々俺の邪魔をする……!」
日蔓が眉を寄せていると、いきなり支配人が襲ってきた。日蔓は反射的に腰のナイフを抜いたが、それを首に突き刺す前に未優が支配人を蹴り飛ばした。静和と線蓮が追い打ちをかけ、二人が下がると交代で皆が攻撃をしていく。
未優と静璐はガッツリ戦闘態勢だが日蔓はそもそもあいつに敵わないことは知っているので手出しはしない。それよりも、倒れている界魔の傍によって銃口を頬につけた。
「起きてる? 界魔って寝ないよね」
「……なん……」
「支配人が言ってる嫌いな血筋って何?」
「なんでお前に……!」
「お前特に硬い皮膚もなかったよね」
喋れなくなると困るのでまずは腕に一発。あと足にも。
「……喋る?」
「俺がお前に言う意味はない……!」
「お前が俺に逆らう権利はない。お前ぐらいなら俺一人で十分殺せるよ」
意地でも喋る気はないらしい。支配人は静璐と未優が筆頭で死ぬ気で食い止めているし、少しおしゃべりをしよう。
「十二年前の支配人乱入で支配人を半殺しにしたのは俺。お前支配人が鏡界開けた時に後ろにいたよね。従者的なやつ? こき使われるから逆恨み? 人間らしいねぇ。支配人が憎い? 殺すならこっちに協力した方が賢いんじゃない? 裏切らないって証拠があるならお前に殺させてもいいよ」
銃のグリップ部分で界魔の頭を軽く殴りながらねぇねぇねぇねえと執拗に聞いていると、界魔はその腕をガシッと掴んだ。まだ血らしきものが流れる力の弱い腕。そんなんで止められるか。
「分かったから……その腕やめろ……!」
「痛い? 痛覚あんの?」
「ない。感覚はある。鬱陶しい」
「痛くないんだ。一発撃っていい?」
「いいわけあるか」
見れば界魔の支配人にちぎられた腕が徐々に回復し始めている。代わりに他の傷の再生が止まった。
「じゃこっちに協力するんだね」
「あいつを殺せるならなんでもいい」
「その意気その意気。で、あれの弱点は? どうやったら死ぬの?」
「……あいつ死ぬのかな」
ちょっと待てそこ不確定になると大変なことになるぞ。
日蔓が破顔し、界魔が悶々と悩んでいると、皆の疲労が蓄積され始めたのか支配人がやや優勢になってきた。
支配人の初めの怪我が治ると同時にほぼ空中戦に近いため皆の体力の消耗が激しい。かと言って未優と静璐交代では抑えられないし、でも未優の足も限界に近い。
だんだん威力が弱まって着地がおぼつかなくなってきた。
静璐は初めから全開で全く落ちていないが、それでも怪我で辛そうだ。
静璐が支配人の前をやっているうちに全身が悲鳴を上げる中また飛び上がって、宙で一回転して支配人を蹴った。しかし気合いが落ちたせいで衝撃波が起こらず、支配人に振り払われるように吹き飛ばされた。
瞬きよりも早く、当然受け身も取れないまま壁に叩き付けられる。
「未優さん……!」
「太薰蛇さん大丈夫……!?」
駆け寄ってくる教師を無視して立ち上がり、痛みの走る肩を押えた。体を捻ったまま飛ばされたせいで負荷が左に集中してしまった。丁字のスーツに感謝だな。
「未優さん! 大丈夫!?」
「……丁字、昔援護やってたんでしょ。屋上死守するからやってよ」
「日蔓さんに頼むのは無理?」
「今別の交渉中。首の左側が弱点だって」
「まぁー……気が向いたら頑張る。はいはい脱いで〜」
いきなり丁字にパーカーを脱がされ、新しいのを肩にかけられた。おとなしく袖を通す。ちょっとあったかい。
「フード被っても邪魔にならない形にしたから。衝撃緩和と斬撃耐性ついてるよ。ガレキにも日蔓さんの剣にも耐える」
「助かるよ」
「足見せてね。はいこれもつけて」
耳に超フィットするイヤホンを片耳に付けられ、上から耳を保護するシートのようなものを付けた。
「なにこれ」
「これで常時無線はできるよ。このシートで二百デシベルを耳元で聞いても大丈夫だから」
「便利! デシベルって何」
「さぁ行ってらっしゃい」
未優は丁字にフードを被せられると、地面を蹴ってまた走り、飛び上がると両足で支配人の背面を蹴り飛ばした。いい加減空中戦は不利すぎる。ただでさえ身長差が大きいかつ界魔と人間と言うのに、間合いが詰められない空中戦は不利というか無理。
静璐や線蓮ばかりに気を取られていた支配人はそのまま地面に叩き付けられ、未優は真上から一回転して慣れた通り上からかかとを置いた。しかしすぐに足を掴まれ、地面に叩き付けられる。が、このパーカーのおかげか、地面がえぐれたのに骨が無事だった。
地面に叩き付けられた未優の上から静璐が真正面で支配人を殴り、斜め後ろから線蓮が、真後ろから鬼燈と蘇芳部長が殴った。静璐に片腕を掴まれた未優は勢いよく上に引っ張られ、その力と足の筋力をフル活用して支配人の顎を下から蹴り上げる。
静璐の腕を引っ張る勢いで一回転し、支配人の顔面を真横から蹴り飛ばした。
『ナイス未優』
「ん……!?」
いきなり耳元で日蔓の声が聞こえ、挙動不審になると同時に起き上がった支配人の首を何かが貫いた。直後こめかみも貫通とまではいかなかったが何かが撃ち込まれ、支配人は未優たちから離れると屋上の真ん前に姿を現した。
屋上に伏せて援護射撃に回っていた日蔓は隣にいる丁字を守りながら弾を変えた拳銃で三発。手を伸ばしてきた支配人の手のひらに一発、既に再生した左首に一発、眉間に一発。昔の弾じゃ無理。でも今ここには天才科学者が揃ってる。
三箇所貫いたその弾丸は、貫通し切る前に支配人の中で爆散した。




