4.コンビニ
「未優さん!」
「無理」
一週間。
ついには内容もメニューも聞く前から断られるようになった。
まだ班として活動していないのに日蔓があんな学校のど真ん中で言ったせいで既に噂が広まって、もう注目されている。
「未優さん!」
「無理」
「未優さん!」
「無理……!」
「みゆ……」
「だーもうしつこいなぁ!? お前暇人か!? 仕事だっつってんだろ!」
「言ってないです!」
「私は毎日仕事が入ってんの! こんなべーべーべーべー無駄口叩いてる暇あるなら腹筋千回でも一日持久走でもしてろ! お前じゃ私のトレーニングどころか見習いの基礎トレーニングでも途中で吐いて終わるだろ! 基礎ぐらい自分で終わらせろウスラトンカチ!」
「はい!」
「私に話しかけるな!」
返事をする前に未優は怒って行ってしまい、静璐は緩く手を振りながらボソッと嫌ですと呟いておいた。
周囲の奇妙なものを見る視線が刺さる。
「……静璐君」
「薄紅さん。おはようございます」
「おはよう……。あの、未優さん……」
「あ、サインはまだ貰ってないっす」
「いやそうじゃなくてさ……? 未優さん凄い怒ってたけど……」
「毎日これっすよ。日蔓さんにしつこく付きまとった方が未優の気が散って見てもらえるからって言われて。最初は迷惑かなと思ってたんすけど、俺腹筋増やしても持久走一日やっても効果ないんで……」
「うぅん……未優さんも疲れるだろうから程々にね……?」
「分かってます。今日やること言ってもらえたんでしばらくはもう」
にしっと笑い、軽く会釈すると階段を駆け下りた。
下駄箱で靴を履き替え、パーカーの前を締める。
制服と言うか、仕事着は例の耐熱寒水電のトレーニングウェアに男子はカッターシャツと反射せず風通しもよく春夏秋冬いつでも使えるパーカー。女子はミニスカート、男子は長ズボン。ジャージでも可。
パーカーの色は役職によって違うそうで、見習いと研修生は黒。平は黄緑、班は各々色が違って、主任は青で課長は白ベースらしい。
第三班は西木課長の水色と日蔓主任の青をアクセントに入れた薄青紫。
ウェアとズボンは皆が黒で、パーカーだけ装飾やアクセは自由。
ちなみに未優はオーバーサイズのパーカーを着ているので一見スカートなしに見える。
校庭は授業で使っているので、学校外を走ろう。
ここは地図に乗っていないので迷子にならないように。
スマホを片手にイヤホンを付けてかなりハイペースで進む。進むが、全く息は上がらないし疲れも来ない。
ペースを上げて一日走っていたら疲れるか。
ぼんやりと空を見上げながら曇ってきたなぁと眺めながら、普通の人より明らかに早いペースで走っていると電話が掛かってきた。
「車花宮です」
『静璐ー、戻っておいで。初の仕事だよ』
「あの、俺全然……」
『体力も筋力も十分。駐車場分かる?』
「はい」
『入口に窓口があるからそこにおいで。待ってるよー』
「分かりました」
通話を切って、また全力疾走で校内に戻るとマンション裏の駐車場に行った。
窓口にはエクレアが数十本は入っている箱を抱えてシュークリームを食べている未優といつも通り私服の日蔓。
「お待たせしました」
「おつかれー。行こうか」
「はい」
「車使う時は窓口に声をかけて番号札を貰う。運転手が車出してくれるから、行き先伝えるだけ」
「生徒だけでも使うんすか?」
「使うよー。特に君らは僕がいる時の方が少ないからね」
「忙しいんすね」
「そうだよー!」
「ラーメン屋めぐりしてるだけだろ……」
「君と違って太るんだよ」
「やめろ頬っぺを引っ張るな。食べれない」
四人乗りの軽に日蔓が助手席で二人は後部席に座る。
今回の目的地はとあるダム湖。
絶景スポットとして有名で、多くの観光客が訪れるがその絶景が故に反射が綺麗。つまりはどんな界魔でも湧いてしまう。
しかもかなり頻繁に揺れているようだし、出てくるとしても馬鹿デカいのが一体か細々したのが何体も出てくるだろう。初仕事にはピッタリの規模だ。
「殺さないでね、死骸処理が面倒臭いから。弱るか気絶させたら僕のところに持ってきて」
「あの、弱点とかって……」
「ないよー。ないけど湖付近で戦ったらすぐ逃げられるから気を付けて。鏡界には入っちゃ駄目だよ。中どうなってるか分からないから」
「うす……」
「まぁとりあえず未優に守ってもらって!」
「寝てますよ、未優さん」
「……子供め」
三十分でエクレアを完食した未優は扉にもたれて眠っており、二人でその寝顔を覗き込んで苦笑いを零した。
それからまた三十分した頃、未優が目を覚ました。
「ねぇちょっと寄り道しよう」
「……さっきたらふく食ってたじゃないっすか」
「消化した」
「今の一瞬で!? マジっすか……」
「仕方ないなぁ。じゃあコンビニ行こ」
「ねぇケーキ屋ァ!」
目覚ました瞬間ケーキ屋が飛び込んできたからそこに行こうと言いたかったのだろうが、理解した日蔓のからかいで強制的にコンビニになった。
それでも泣く泣く降りていく。
気付けばもう十二時半。
だから寄り道を挟んだのか。
「あ、運転手さんは?」
「私は皆さんが仕事している間に食べるので大丈夫ですよ」
「でもこっからあと一時間半でしょ? 二時ってお腹もたないじゃないっすか。なんか買ってきますよ。リクエストあります? アレルギーとか嫌いなものとかも」
車を降りる前に軽く話し、おにぎりとお茶と栄養面でフルーツジュースも買ってくると言ってから車を降りた。
既に店に入っている二人を追いかけ、自分のご飯と運転手の分も買う。
「静璐多くない?」
「そうっすか?」
おにぎり五つにお茶二本にフルーツジュース一本。
おにぎり五つが多いのだろうか。
「俺いっつもこんぐらいっすよ」
「よく食べるねー」
「……未優さんほどじゃないです」
「それは本当に」
おにぎり二つに炭酸ジュース二本にシュークリーム三つにロールケーキとティラミスを二種とヨーグルトとドーナツ三つずつにチョコレートとグミ二種類ずつを二つ。バケモンか。
「店員さんも引いてるし……」
「……未優のあのオーバーサイズって体型隠すためだったりするかな」
「でも超小顔で足もめっちゃ細いっすよ」
「胴回りだけさ」
いたずら顔で笑う日蔓に呆れながら内心あるかもと想像して笑っていると、店にヤンキーが三人入ってきた。
「お、美人いんじゃーん!」
「まーた絡まれる……」
あの顔の良さからコンビニ行ったりスーパーに行くとだいたい絡まれる。不良かナンパ男に。
「ねぇ君名前は? 甘いもの好きならこれからカフェ行こうぜー。奢ってあげるよー?」
「見た目重視の幼女性愛者野郎の金で食うほど不味いスイーツはない」
大炎上しそうな発言。
未優は袋を持つと出て行き、キレたヤンキーは未優の肩を掴んだ。
未優は静璐に執拗に話しかけられていた時よりも嫌そうな顔で振り返る。
「お前餓鬼だからって手加減されると思うなよ」
「半グレだからって世間が許してくれると思うなよ」
「あぁ!?」
「おいこいつ殴ろうぜ。殴って拉致って金儲け!」
「娘を返して欲しければ身代金ー。警察には言うなよーってか? それで警察に言わない馬鹿がどこにいる? それに残念だが私に親はいない。保護者はそこにいるけど」
いつの間にか会計を済ませていた日蔓はいきなり振られた話に目を丸くし、首を傾げた。
身長が百七十もない華奢体型なので弱く見える。
「何?」
「お前が保護者ァ? 親いねぇ餓鬼引き取って洗脳でもする気か?」
「三つ言いたい。俺は保護者じゃない。後見人。二つ目は公共の場で騒ぐな迷惑。三つ目、仕事に遅れるから自分の都合で他人に迷惑かけんな。あと邪魔。餓鬼の悪遊びするなら空き地でも探してろ」
日蔓が睨むとヤンキーは顔を引きつらせ、日蔓はにっと口角を上げた。
瞬間、少し遅れて会計が終わった静璐がヤンキーの肩を叩く。
「あ!?」
「お前らこんなとこで何してんの?」
静璐は顔を引きつらせながら首を傾げ、ヤンキー三人組はサッと顔を青くした。
静璐がグレているという情報はなかったが、元友人だろうか。いやこの反応は一回は締めてるよな。
「迷惑だよ……?」
「せ、いろ……さん……! 千葉に、いたんじゃ……!」
「ちょっと大事な用で。とりあえず出よう? 日蔓さん、これ持ってって運転手さんに渡して下さい」
「りょうかーい。未優も……って先帰ってるし」
日蔓も先に戻り、車の窓から静璐がヤンキーと話しているのを眺める。
怯えているが、ひれ伏せているような様子ではない。何か、怯えている種類の中でもトラウマがあるような様子。
ちょっと気になるな。
「ねぇ日蔓、なんであれと幼女性愛者野郎が知り合いなの?」
「さぁ? 記録には喧嘩とかはなかったんだけど」
「狂気の沙汰だね」
「……どういうこと?」
「優しすぎるから怯えられてる。殴って半殺しにした後に笑ってもう駄目だよとか言われてみ。トラウマでしかない。それを善としてやってる静璐もヤバいし、愛の鞭とか言いながら殴るあいつの思考もヤバい」
「笑顔絶やさず狂気、か」
「やっぱあいつ嫌いだわ」




