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鏡界館  作者: 織優幸灔
四章
150/155

10.没

 頭が殴られるような痛みに襲われ、ハッと目を覚ました。



 体を起こすと、向こうが少し騒がしい。



「あ、起きた〜」

「ようがー!」

「…………は……?」



 似た笑顔でにこやかに手を振る二人に、いや一人に唖然として、無理やり体を起こした。



 咳をすると、血を吐いて内臓に激痛が走る。



「まだ安静に……!」

「あは、思ったよりボロボロ。弱くなったねぇ」

「ねぇ? 六年ぐらいサボってたんだと」

「せめて三年にしろ寝太郎」

「ギリシア人だよ。太郎はおかしい」

「ハーフでしょ。アレスくーん!」

「アー……痛った!?」



 殴られた優羽は頭を抱えて勢いよく立ち上がり、医療班に支えられた日蔓は怒鳴ってくる優羽よりも十三年前と全く見た目の変わっていない結楽(けいらく)を見下ろした。



「……幻覚が見える」

「おーおー幻覚だけで済ませていいのかな」

「結楽だ……! ちゃんとウザイ……!」

「失礼すぎるよアレス君」

「……待ってほんとになんでいんの意味分かんないふざけんな殺すぞ」

「戦意喪失はどこ行った」



 日蔓は優羽に肩を借り、優羽の座っていた椅子に座る。



「……ほんとになんでいんの……?」

「そもそも成仏してないからね。神様に体借りた」

「分かった。……で?」

「信じてないね君。ちゃんと優羽と静璐君がお墓参り来た時も見てたんだよ」

「静璐どこいった? 未優も」

「向こうで手当受けてるよ」

「ねー俺の話は無視ですかー? ねーせっかく心バキバキなアレス君を慰めにさー?」

「うるさい……」



 イマイチ頭が起きていない日蔓はしっかりとは理解せず、優羽に教えられるがままにそちらに進んだ。



 本館の裏側に行く角を曲がって、別の治療場を覗いて、すぐに一歩戻る。



「どったの」

「夢?」

「残念」



 パーカーを脱いで、右腕がない未優と右眼の眼球が潰れたのを手当している静璐を再度見直して、一瞬呼吸の仕方を忘れた。



「……みゆ……」

「あ、日蔓起きてる。おはよー」

「あ日蔓さん! 大丈夫ですか!」

「二人とも……怪我……!」



 日蔓が詰まり詰まり、言葉を紡ぐと二人でビシッと日蔓を指さした。


「日蔓の方が重傷」

「日蔓さんの方が重傷!」

「でも、二人とも……!」

「私は命に問題ないし静璐も異常ない。内臓潰れて息してなかった日蔓の方がヤバかったの!」

「……未優どうしたの……?」

「記憶が戻ったらなんとなく頭良くなった気がする」



 未優の元に駆け寄ろうとして膝を突く日蔓を優羽と結楽で支え、静璐と未優も駆け寄った。


 立ち上がった日蔓は二人の頭に手を回して、今出る力いっぱいで抱き締める。



「……死ななくてよかった。僕は慣れたけど、二人とも危険な場所に連れていかなかったから……」

「慣れても内臓の昨日は低下する一方ですよ」

「日蔓重い。死にそう」



 日蔓は慌てて立ち直して、静璐に肩を借りた。


 未優は日蔓の椅子に自分の椅子を近付けた。



 騒ぎを聞いて丁字や希愛海も顔を出す。



「日蔓! よかった!」

「生き返りましたのね!」

「死んでないと思うんだけど」

「息も心臓も止まってたんですの!」

「それは……死んでるなぁ」

「パーカー着ないからだよ馬鹿。邪魔なら言ってくれたら改良したのに馬鹿」

「お前はツンデレか? 需要ないよ」

「誰もツンもデレもしてねぇよ」



 椅子を引っ張ってきた未優は椅子に座らず日蔓の傍に立って、日蔓は未優を片足に座らせた。



 日蔓の後ろから、守護神が顔を出す。



「アレスくぅん、目覚めたかぁい?」

「アレス?って何」

「僕のミドルネーム。ハーフだから」

「日蔓さんミドルネームあるんですか!? かっこよ!」

「日蔓・アレス・曄雅ってこと」

「ダサいから滅多に言わないの」



 かっこいいかっこいいと騒ぐ静璐に半目になっていると、静璐の声を聞いた緋愴が界魔組を連れてやってきた。



「おー起きてる。静璐はどうした」

「日蔓さんのミドルネームがかっこいい!」

「あっそ。そんなことよりお前動けるか?」

「いけるいける」



 しょんぼりした静璐を恐念が慰めて、緋愴は恐念から静璐を奪った。



 日蔓は立ち上がると重心を探して、軽く飛んだり腕を曲げたり伸ばしたりして動作を確認する。




「休戦令が出た。日暮れと共に再戦する」

「誰だよ休戦令出せた奴」

「私だが」



 見上げると、ピンクの髪をしたその少女は地面に降りる前に宙でピタッと止まった。



「……ほんとにそっくりだ」

「誰……! 頭意味分かんなくなってきた……!」


 日蔓は未優の腕を掴むと後ずさって、その少女と結楽を見た。



 ピンクの髪に青と紫の目、DNAどうなってる。

 そもそもなんで死んだはずの結楽が。生きていたとしてもその姿はおかしいし。てか今その子供浮いたな。



「日蔓、鏡の世界があるんだから別の世界もあるよ」


 未優に袖を引かれ、一瞬そんなわけと思ったがそうじゃなきゃ説明つかんな。うん。


「そっか。そうだね」

「それで納得すんのマジ?」

「だってそれ以外ないでしょうが! 理論的に説明してみろよあの世とか幽霊とかなしで!」

「ごめんじゃあそれで」



 何故か半ギレの日蔓にごめんと言って、とりあえず席に戻ってもらう。



「私の説明は置いといて」

「置いとかれちゃ困る」

「彼も説明することないから置いといて」

「……もういいよ」

「単刀直入に言おう。その子の胎児時の記憶と予知夢を頂きたい」

「いいけど何、脳改造するとかそんなん?」

「そんな技術ない。そもそもその記憶と予知夢は……まぁいいや。くれるならいい」

「あっそ。ケーキの個数減るね」

「うん」



 この二人の会話、お互いがお互いに言うこと諦めるせいでめっちゃ薄っぺらい。


 そんな、もういいやとまぁいいやが重なることあるか。




「じゃあ、私は観戦しておくから終わったらまた来る」

「さよなら」



 日蔓は椅子に座って未優の髪をまとめ直し、イマイチ理解できていな皆が日蔓を見下ろす。


 こんな全てを受け入れるってか全てを流す人もなかなかいないと思うが。



「……ちょっと毛先切れてるね。また髪切ろう」

「短いのがいい」

「結べないからねぇ」



 少し、また戦うのが億劫になってきた日蔓は小さく溜め息をついた。


 未優が少し振り返って、後ろにいた結楽は日蔓の頭を掴む。



「何……」

「歳取ったね。内も外も」

「メンタルに来る」

「外はともかく内まで歳取ったら人間死ぬよ。社会的にも人生的にも」

「分かってるんだがね」

「分かってないから歳取ってんでしょ。あーやだやだ。見てよ俺のこの一切変わらぬ若々しい姿」

「お前の方が歳取ってんじゃん」

「一人でふらふらしてた年数は人といる年数の三倍の長さなんよ」

「ご愁傷さま」



 優羽は結楽を撫でて、結楽は日蔓の頭を掴んで、日蔓は後ろ向きで優羽の胸ぐらを掴んだ。

 何だこの三角構造。


「曄雅、あれは俺じゃないんだから殺してよ。中身も元々の界魔に乗っ取られ始めてるから」

「所詮力無しの雑魚らしいし」

「……それより支配人の弱点がなー」

「あ、それ、俺……」



 静璐がおずおずと手を挙げた時、さっき日蔓が寝ていた場所担当の人がやってきた。



「あの、お話中申し訳ありません」

「ん?」

「皇雪様、下野様、罌粟様、西木様、十二単(とふとえ)様、白花(しらかな)様、錨野様、衝羽様、翠狼様、阿菫様が目を覚まされました。……希愛空様、繰紫(くりしき)様、寒白様、松笠様、天葵(てんぎ)守明(もりあ)様、天葵蒼灯(そうとう)様、蝶草(ちょうそう)様は息を引き取られました」










 希愛海は泣きじゃくりながら皇雪にすがりついて、各々師や弟子に手を合わせる。



 未優は日蔓にしがみつき、日蔓は未優の背に手を添えながら薄く笑う。



 ここで泣いたらあとがもたない。ここで泣いたら、きっとあとで壊れるから。まだ我慢。





 皆が手を合わせる間も医療班は慌ただしく手当をして、残って戦った部長や主任たちを最後まで救命措置を。



「……今起きてる人は死なない?」

「死なないよ」

「支配人とは、皆はやらないんでしょ」

「……それがいい」

「私だけでいい」

「僕もやるよ。僕も静璐も未優も、界魔たちも。六人だけだ」



 (おどろ)と鬼燈は目を覚まさない。白梅と苺米(まいべい)も死の瀬戸際。使わなければいけないものだけ使って、あとはもういい。もう十分働いた。



「……未優も腕痛かったら休んでていいよ」

「平気。片腕残ってる」

「無理しないように」





 未優は日蔓に顔を埋めて泣き、日蔓は未優を抱き上げると先程の椅子が輪になった場所へ戻った。




 椅子に座って、膝に座ったまま大泣きする未優の頭を支えながらスマホで連絡を取る。



 未優の記憶が戻ったなら、きっと日蔓はお役御免になる。静璐の親とは未だ連絡が取れないので静璐はしばらく日蔓の傍か、息子からなら連絡取れるかな。




「……曄雅」

「再戦いつ?」

「日没から」

「……ちょっと電話してくる」

「ん」

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