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鏡界館  作者: 織優幸灔
四章
148/155

8.未優

 日蔓たちが校庭で支配人を押えているうちに、未優は医療班に解熱剤と、丁字(ちょうざな)に鉄板の入った少し古い形の靴を貰った。


 最新のにも入っているが後々困ると嫌なので。



「未優さん、薬は早く効くけど気持ち悪くなるの。フルーツを食べたなら気持ち悪かったら喉の奥に指突っ込んで吐いてね」

「分かった」

「……未優さん大丈夫?」

「平気」


 丁字にヘッドホンを貰って、それを付けた。






 記憶がフラッシュバックして頭が痛い。思い出したくないことも、思い出したらいけないことも全て思い出した。


 でも、体の体温は下がってきているし頭も澄み始めている。大丈夫。



 自分の記憶が戻ったらこうなることぐらい、ちゃんと気付いていた。




 一曲終わったのでヘッドホンを返して、フードを被る。



「……白玉とラムネよろしくね」

「頑張って」







 校庭に飛び出し、初っ端一番強い衝撃波を支配人にぶち込んだ。


 足が痛い。でも、相手に入るダメージはざっとその十倍以上。緋愴も半身吹き飛ぶ威力。




 上から静璐と、寧と緋愴も四方から蹴りを入れた。



 お互いがお互いの衝撃波を受けながら、でもその全てを受けているのは支配人。


 これで叩きやすくなると思ったのに。




 緋愴と寧は払われ、静璐は緋愴が引っ張って庇い、足を掴まれた未優は地面に叩き付けられた。




「記憶が戻ったなら早く戻ってきなさい。親から助けたのは私だと思い出したでしょう。貴方は捨てられた子なんですよ」

「……親から……捨てられても……」




 思い出した。全部、思い出した。

 未来夢はフルーツの力じゃない。記憶喪失で脳の要領を空けることがフルーツの力であって、未来夢はもっと昔から見ていた。

 いつか、正確には分からないけれど、母のお腹の中にいる時からもうすぐ外が見れるというのは分かっていた。お腹の中で見た未来夢がそれだから。



 そして、脚力もフルーツの力。脚力を強くするんじゃなくて、脚に全身の筋力と筋肉を動かすエネルギーを集めるもの。


 紡舞(お兄ちゃん)から離されたあの日、鏡界に逃げ込んで界魔から逃げ惑うために脚を強化したまま感覚が染み付いて離れなくなった。

 そのせいで使わない腕力は落ちるし腹筋も使えない。


 使うと痛くなると言って使わなかった腕はほぼ骨だけ。腹筋はかろうじて一般人ぐらいかな。




 でも、原理を思い出したなら体感は人より鋭い。日蔓に、何もない体に教えてもらった。







 凹んだ地面に手を突いて、腕を強化して後ろに飛び下がった。


 微妙に移動が間に合わなくて距離が短いが、いいや。脚に戻す分が少なくなった。




「親に捨てられても、お前に拾われても、私を育てたのは日蔓だ。誰も殺戮暴君にはついて行かねぇよ?」



 助走をつけて、思い切り支配人の顔面に蹴りを入れた。




 何度、支配人に誘拐未遂をされたか。それを守ってくれたのは日蔓や静璐、線蓮、衝羽、丁字。男ばっかだ。


 別にいいが、丁字妹だって罌粟だって希愛姉妹も撫秞(なゆ)も、皆に助けられて生きてきた。



 紡舞(お兄ちゃん)と別れて記憶が消えて、そこから人生が始まったと言うなら未優の第二の親は日蔓で皆は家族も同然の友人だ。

 皆を殺そうとする奴について行く気はないし、自分が危険にさらされる道に行く気もない。



「私が選ぶのは皆といれる安全で楽しい道だ。紡舞(お兄ちゃん)殺して私使おうとしたお前に従うことはない」




 体慣らしで足や腕に強化を移動させたり分散させたり、強く反撃できない支配人の懐に潜り何十発も。



 少し感覚が掴めてきたという時、支配人の目付きが変わった。




「未優下がってッ!」


 地面を蹴って、日蔓の横に着地した。



 緋愴が代わって、支配人の力を押し合いで抑制する。



「未優、調子良さそうだね」

「思い出したら分かるようになった」

「無理しすぎないようにね」



 日蔓のパーカーの裾を掴むと、頭を撫でられた。



 静璐も移動してきて、寧も集合した。



「未優さんッ!」

「未優、足と腕出して」



 静璐の心配を流しながら傍にしゃがんだ寧に足を出すと、寧はその足を掴んでアキレス腱の横を押した。



「痛ッ! 痛いッ!」

「なにやってんの……!」

「力が滞りすぎたら足が腐って落ちる。いきなり移動させたら全身の血流が阻害される」

「上手くいってたのに!」

「上手くいきすぎ。突っ返えながらだったら筋肉が慣れてこんなんもならなかった」

「はぁ!?」



 逆ギレする未優を落ち着け、日蔓は流石ながら天才の未優の頭を撫でながら鏡瞳を開いた。




 日蔓の鏡瞳は対生物だが、支配人の力が強すぎることに加え日蔓の鏡瞳もそれに吊り合うもののため周囲のオーラにまで鏡瞳がかかったらしい。

 支配人から半径五メートルほどの地面が凹んで、二人の押し合いが始まった。



「日蔓」

「未優はやらなくていい。下手に押し返されたら厄介だ。……優羽」

『やらせるの?』

「そのために残ったんでしょ」

『だんだん冷たくなってきたねお兄ちゃん』

「守るものが増えたんでね」



 次の瞬間、校庭どころか建物や周囲の土地全体が一段下がって支配人が地面に倒れた。



『わぉ』

「わぁ……」

『下がったところ全部に支配人のオーラが充満してる。……界魔が寄ってくるよ』



 尊音の、身体能力や曄尊(あきたか)から続く血を全振りした鏡瞳で地形が変わってマンションの一棟と建物の一部が崩れた。



「えぇ……」

『あぁ安心して。建て直すための費用ぐらい捻出するから。線蓮が』

『俺ッ!? いや……!』

『黙れ会計専務』

『お兄ちゃんに振られたからご機嫌ななめだよ』

「何振られたって……」



 無駄話もそこそこに、軽く緊張が解けたところで全員でかろうじて立ち上がった支配人に突っ込んだ。





 地面が強く揺れ、校庭に大きな影がかかる。



「何……!?」

『大きすぎて把握できない』

『滝から出てきたんだ。かなり古い界魔だから滅多に動かないけど』

『尊音知ってるの?』

『伊達に総管理人やってないんでね。この辺りの鏡界の界魔は報告書にある限り暗記してる』

「わーすごい流石」

『もっと褒めて』



 日蔓と阿菫は支配人直前で踏み切って飛び上がると、二人で刀と短剣を構えた。




「一」

『二……三ッ……!』



 二人でタイミングよく、阿菫が二回振る間に日蔓は四回振って半回転した。



「うし」

『指示出すよ慣れない人聞き流して。曄雅』

「二、一」

『左二十(20)四十(40)、拍五十(50)百十(110)一三(130)六零(60)二一零(210)

『後ろ』



 未優の声でハッと振り返ると、真後ろに支配人が来ていた。


 照準セット、首左側。銃で撃ち抜き、反対の手で短剣を振った。



 こいつ、ほんとに左側以外鉄より圧倒的に硬い。




『曄雅下がって。線蓮たちの応援』



 一度下がると、交代で寧が飛び出した。



 線蓮どこ行ったと周囲を見回せば、界館の外。敷地外で、右腕二体と五人が奮闘中ってか押され中だと。




「役に立たねぇ……!」

『強すぎるんだよ。今までの右腕とは段違(だんち)だから』

「んじゃ僕無理。未優ッ! 線蓮援護! 静璐と阿菫でオレンジ、紫。刀組支配人に振って」

『指示入れるよ。……刀組、支配人に。静璐、阿菫でオレンジ紫。曄雅は赤と赤紫三十秒で殺して雑魚片付けて』

「無茶苦茶やんけ……!」

『前専務、白梅班は三ランク以上。鬼燈、課長は建物破壊しがてら裏の界魔殺せ。それ以外は反射物の回収』



 日蔓はハンドガンを口で咥えると、両手に短剣を持って班所属が押えている警穿(ケイハク)餓性(ガショウ)の元へ行った。



『曄雅周辺全員伏せて』



 皆が伏せた瞬間、日蔓は地面を蹴ると人の上を通って警穿に切りにかかった。


 当然飛んでくる餓性の額に短剣を突き刺し、赤の頭を横に切断。



 額に突き刺してなお動く餓性の頭を固定しながら首を跳ね、短剣を戻した。



「優羽、刀ちょうだい」

『おや?』

「間合いが狭すぎる。背に腹は変えられん」



 日蔓は一度下がると、校舎横で並べられた幻水刀を拾った。



「ね、刀見てるの誰?」

「俺です」

「戻ってきたら阿菫、皇雪、希愛海、罌粟に渡しといて」



 蓬懺(ホウザン)を阿菫に、烙刧(ロクゴウ)を皇雪に、籐朧(トウロウ)を希愛海に、日蔓の刀を罌粟に。


 日蔓は望欲(モウヨク)を使う。最後まで日蔓と同等に使える人は現れなかった。



『曄雅、刀使うなら支配人と当てようか』

「先に雑魚片す」

『はいはい』



 日蔓は界館の敷地を飛び出すと、周囲の雑魚を斬り殺す。



 斬れば斬るほど刀は重くなって、勝手に界魔の元へ向かおうとする。




「使いにくい……!」

『どったの』

「刀が勝手に動く! クッソ……」

『エイリアンハンド症候群!?』

「違ぇッ! 界魔殺す度自我が強くなってる!」

『それは頑張って』

「無理。支配人と当てて」

『下野、松笠、曄雅と交代。残る人は曄雅に斬られないように気を付けて』

『裏切りですの!?』

「優羽黙ってろ」

『さーせん』




 日蔓は刀を鞘に収めて、鞘を短剣ホルダーに固定した。刀のために新しく作り直したのだ。



 パーカーを脱いでジャージ一枚になって、髪を結び直す。



『ちょっと……まさか生身でやる気』

「中にウェアは着てる」

『死ぬよ!』

「黙ってろ」



 刀に手を掛け、それを抜きながら支配人の元へ飛んだ。

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