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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
139/155

49.白丸

「んで拾ってきたの……?」

「そう」

「物好きだねぇ……?」




 その白い生物を抱っこした未優を見下ろし、皆が微妙な視線を日蔓に向けた。


 まだ静璐、罌粟ペアと(おどろ)雪瀾(ゆなみ)ペアは帰ってきていないので少し人数は少ない。




「曄雅……駄目だよ……?」

「未優、これ何?」

「うさぎ」

「こんなでっかくないよ」

「餅」

「せめて生き物であれ」

「でも可愛いよ」

「でも鏡界の中にいたんでしょ」

「ラムネだって」

「あれは猫」

「これはうさぎ!」



 日蔓は睨んでくる未優を仕方なさそうに見下ろし、その生物を見下ろした。



 優羽を前にしても特に変わった様子はないが、絶対鏡界関係なので油断ができない。

 未優の周りまで警戒状態になるといよいよ心身がもたなくなる。



「……静璐が帰ってきてから緋愴(ヒソウ)に聞きに行こうか」






 校庭でラムネに噛まれながら遊ぶというかいじめられている白丸を眺め、本当になんなんだあれと凝視する。

 未優は線蓮とともに訓練に行った。


 ラムネの世話をできているので問題ないとは思うが、日蔓がいない時に支配人がなにかしてきたらそれが一番面倒臭い。

 これ以上未優を刺激すると、寝ている間に記憶が戻ったとしてその間に支配人が来ると未優本人が動けない時点でこちらが圧倒的に不利になる。


 それに静璐が加わればなおのこと。



 これ以上未優を下手に刺激したくないので今のままの環境をキープしたいのだが。







 タブレットで未優や静璐の過去のことを色々と調べていると、ふと膝に冷たいものが乗った。

 見下ろすと、あの白丸が耳を切って見上げてきた。


 いよいよ生物か怪しくなってくるな。

 ラムネは校庭のど真ん中で寝てるし。




 日蔓はそれを腕に抱えて持ち上げるとラムネを指揮台に置き、技術棟に向かった。





丁字(ちょうざな)

「おぉー一人は珍しい。ぬいぐるみの中身詰め替え?」

「生きてるんだよ、これ」



 机に置くと白丸はピンと耳を立て、ボールが跳ねるように机の上を飛び回った。


「わッなにこれッ!?」



 高く飛び上がった白丸を左右からガッと捕まえ、不可思議なものを見る目で凝視する。


 その目が怖いのか、耳が半ばから左右に折れた。



「うさぎの奇形? キメラ? なんかのハーフだよね……?」

「それを聞こうと思って。なんか生物に詳しい人知らない?」

「ん、呼んでくるよ」




 丁字はノートや紙を素早く綺麗にまとめると整頓された棚に入れ、忙しなく部屋を出て行った。



 またピンと耳を立てた白丸はその場でぴょんぴょんと飛び跳ね、それは段々高くなっていく。



「界魔でありますように」


 それを掴み、机に置くとスマホに目を移した。






 数分か、十分もしないほどに丁字が女子の技術屋を引っ張ってきた。


 錦合(にしきり)、動物園でバイト後に数ヶ月だけ大学で研究者になり、その後界館に入った元生物研究者。今は這いずり回ってちょっと強くなった蜜列(みつら)の専属技術屋で、生物の構造観点から何故か武術体術の理論を教えているらしい。理論上可能ならやれだと。



「連れてきた!」

「なんですか丁字さんッ! まだ蜜列(みつら)君に教えてる途中で……!」

「君の得意分野だよ」

「……なんですかその白い物体」

「何か分からないから助けを呼んだの」



 錦合はぴょんぴょんと跳ねる白丸に目を輝かせ、ふわふわもちもちの抱き心地に大喜びで抱き着いた。

 白丸も白丸で耳をピンと仰け反らせて上下に波打つ。



「いやぁかわいぃ!」

「女子はそう言うのが好きなんだねー」

「可愛いですね!? なんですかこの生き物は!」

「分からないから聞きたかったんだよ」

「うさぎ……? いやオオミミトビネズミ……フェネック……あ、ツチブタ! ツチブタの耳に似てる! でもこんな丸くないし……」

「……おぉ」



 調べてみたら、たしかにうさぎみたいな耳を持っている。が、普通に豚だ。こんな白丸くない。



 日蔓のスマホを覗いた丁字も関心しながら、二人で興味の出た全く違うことを調べているとまた白丸が飛び跳ね始めた。そのまま、日蔓の頭に飛び付く。



「可愛い!」

「邪魔だし……」


 でもアレルギー反応が出ないってことは猫科じゃないんだろうな。毛がないからか。分からん。



 二人の服に抜けた毛や何かが付いているということもないし、本当に白い皮膚なんだろうな。ホッキョクグマのように毛白いのに肌黒いとかはなさそう。




 錦合の頭に付け替え、日蔓は前髪を整えるとまたスマホに目を落とした。

 優羽と未優からどこ行ったと連絡が来ている。



 未優の教育された報連相連絡で優羽と一緒にいるということが分かったし、未優にだけ返そ。




「丁字、未優来るって。新スーツできたんじゃないの?」

「あ、できてるできてる! 靴もそろそろかなと思って」

「身長伸びてないからねー」

「靴は一年が買い替え目処だよ」

「買ってねぇからな」

「うるさ」




 また十分ほどして丁字が白丸を頭の上に乗せたまま待っていると、優羽と優羽の手を引いた未優がやってきた。



 未優は日蔓に飛び付くと丁字から白丸を貰う。



「日蔓、トンカチ帰ってきたよ」

「未優は丁字から新しいウェア貰って。僕行ってくるから」

「できたの?」

「できたよ。足見せて」





 白丸を持ち、周囲の視線を集めながら校庭に向かうと静璐が罌粟と何やら盛り上がりながら待っていた。



「お待たせー」

「お疲れ様です」

「おつかれ。どうだった?」

「いつも通り……?」

「役に立たなかったか。だろうね」

「ちょっとどういう意味よ!」

「日蔓さん、それなんですか?」

「例の白丸」



 普通なら首に当たる部分の後ろを掴み、静璐に見せると静璐は目を丸くして少しあとずさった。


 静璐は警戒心の高い方なので仕方ない。



「なんですかそれ……!?」

「分かんないんだよ。だから緋愴に聞いてもらおうと思って」

「あぁ……」

「日蔓、ちょっと触らせて」

「はい」


 手を伸ばしてきた罌粟の顔面に白丸を押し付けると、白丸は脚力なのかなんなのかまた顔に張り付いた。


 罌粟は叫びながら、静璐は日蔓の元に逃げた。



「くっついた……!」

「不思議だよねー」



 それを剥がし、静璐とともに界魔の塔に向かう。



 (うつ)に声をかけ、最上階に上がるといつも通り緋愴が暇そうに瞑想していた。



「緋愴」

「昼に来るのは珍しい」

「これ聞こうと思って」

「これ何か分かる?」



 耳を左右バラバラに前後に動かす白丸を見せた。



 緋愴は寄ってきて柵ギリギリまで来るとそれにじっと焦点を当てる。



「……なんだこれ」

「やっぱ知らないか」

「界魔か?」

「それも分かんないの?」

「界魔みたいな感じがしない。もし界魔になったんならフルーツを食べすぎての奇形だろうけど……支配人が創り出したものじゃない。これどこで?」

「未優が拾ってきたんだよ」




 なんなんだお前と見下ろせば、白丸は日蔓の手から逃げてその場でバウンドし始めた。



 数回飛んだかと思えば、ピタッと止まって身をよじらせる。

 コテンと寝返りを打ち、地面に背をこすり付けた。



「……謎すぎない」

「これは日蔓さんの持ち方のせいじゃないですか」

「じゃあ静璐が持って」

「はい……」



 静璐は白丸の背を撫でるとそれを掬うように持ち、緋愴は柵の隙間から手を伸ばすとそいつを上下に振った。



「ちょっ……」

「これ界動(カイドウ)だな」

「……カイドウ」

「鏡界の界に動物の動で界動。何かを通して世界を自由に行き来する動物の総称」

「……アメリカとかに行けるってこと?」

「その世界じゃない」



 もっと広い。言ってしまえば、この宇宙から抜け出した世界。


 パラレルワールドに自由に行き来する、鏡から出たんなら鏡を通り道に世界をまたにかける動物。



「そんな……ファンシーな」

「まぁ突拍子もない話だけど。別世界の生き物だって言われたらこの世界の原理に基づかないのも分かるだろ」

「そうかもしれないけど……」

「すごしてたらその世界もすぐ分かる」

「どういうこと」

「未優の記憶が戻った時……直後に支配人戦が起こるならその後。未優の記憶の回収に異世界人……前支配人に界魔の力を授けた創造神が来る。未優の記憶を回収しに」

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