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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
122/155

32.無線

 ガンッと何かがぶつかる音が鳴り、二人で支配人の部屋の中を覗く。



 界館の監視を緋愴(ヒソウ)に邪魔され、ただでさえ面倒臭がっていた支配人が、さらった子供を壁に叩き付け怒りを露わにしていた。



 最近は怨納(オンノウ)の代わりに後ろに立っている(ネイ)も少し離れ、右手を左肩に置きながら緩く首を傾げる。と、今まで鏡を見ていた顔がこちらを向いた。




(テン)(エン)

「うわッ……!」

「ウげッ……こッちキづクなよォ……」



 嫌な顔する二人を無理やり引き寄せ、机を殴る支配人から三人で離れた。



「あの刀……! 見つからないと思ったら……!」

「ひぅッ……! どうしたの……?」



 右腕の中で一番小さな天爾(テンエン)はずっと浮いている(ネイ)を見上げた。

 寧は肩を押え、呆れたように溜め息をつく。



緋愴(ヒソウ)が刀を隠してたみたい。ただでさえ鏡界が開けにくい場所に保管されてたのに、そりゃ見つからないよねって話」

「そレをオれタちにブつけルナよぅ……」

「天があれを壊しそびれてこうなったから」

「テンッ!? ご……ごめん……」

「アやマッてもいミねぇヨぉ……」

「支配人! (テン)(エン)が刀壊しに行くって!」

「えぇ!? テンがッ!?」

「なんデおレがコもリやらナきャナんネェんだよォ……!?」

「……天爾(テンエン)、壊してこい」

「はっ!? はいっ!」


















 日蔓と静璐が出かけている間、未優は指揮台に座ってスマホをいじる。


 先ほどまで太陽(たいよう)恋千(こゆき)と一緒だったのだが、二人が訓練に行ってしまったので今は一人。




 最近一人が多いなぁと思っていると、いきなり後ろから誰かが抱き着いてきた。

 驚いて振り返るとフードが脱がされ、丁字(ちょうざな)が見える。



「いぇーい」

「びっくり」

「した顔はしてないね。未優さん一人? 保護者は?」

「トンカチと出かけてる」

「じゃあちょうどいいや。足……」

「兄さん」

「厳しいね」



 そんな訴えかけられても。



 丁字と、指揮台の後ろに立っている弟の玄利(ひろり)にガン見され少し身を引いた。



「まぁいいや。研究棟おいで。前に無線渡したの覚えてる?」

「日蔓が死にかけた時のやつ?」

「そうそう」


 戦いが終わったあとに丁字がすぐに回収してしまい、忘れ去っていた。


 日蔓の幼馴染がよく使っているが、使うものなんだろうか。幼馴染は錨野(いかりの)だっけ。




「優羽君の無線と繋いでさらに性能アップさせたから渡そうと思って」

「分かった」



 未優は指揮台から降りると丁字と玄利とともに研究棟へ向かった。









「丁字、無線って何に使うの?」

「結構色んなのに使えるよ。例えば、今日蔓と未優さん離れてるけどもし界魔が出たとして無線で状況確認しながら戦えるし。僕とか、ほら前も日蔓がスナイパーしたでしょ。スナイパーの弾に未優さん達が当たらないように指示したりできる」

「私は使わなくない」

「相手が常に一人とは限らないからね。ルーキー君と二体を交代で戦ったりさ」

「ふーん……」




 丁字は研究室に入ると両サイドに並ぶ棚の一つを開けた。


 箱を取り出し、開けかけた時。





 どこかで爆発音が聞こえ、皆の短い悲鳴とともに火災報知器のサイレンが鳴り始めた。



 火災報知器のサイレンを初めて聞く未優は驚いて耳を塞ぎしゃがみこみ、玄利(ひろり)は未優の背に手を添えた。



「またやってるな。ひろ、これお願いね」

「あ、はい」




 丁字が出て行ってすぐサイレンは止まり、未優はゆっくりと手を離すと顔を上げた。



「……止まった?」

「はい。最近はよく鳴るので皆もう慣れてるんです」

「何今の」

「火災報知器ですよ。開発中にどうしても爆発するみたいで」

「危なすぎる……」



 未優は被ったフードを掴んだまま椅子に座り、玄利は未優の前に椅子を移動させるとそこに座った。


「向こう向いてください。無線付けてみます」



 未優はフードを脱ぐと首に巻き付け、指さされた方を向いた。




 右耳に冷たい手が当たり、寒さで鳥肌が立つのを我慢して数秒待つとすぐに手が離れた。



「良し」

「手冷たすぎ」

「あ、すみません。長所は夏に喜ばれることで」

「えぇ……」

「その無線、人の声は遮らず雑音は基本カットするのでいつも付けていても問題ないんです。ヘッドホンも上からできる形です」

「オンとオフは?」

「ありません。相手側が通信入れたら音声が入るようになっているので。だから、通信制御を持ってるのが日蔓さんと瞳星(どうせい)さんなのでその二人に任せていれば大丈夫です」

「へぇ」



 付けているのを忘れそうなほどフィットするイヤホンを手で触り、軽く叩いてみる。

 確かに微かに音はするものの、コツコツ音が聞こえない。でも会話の声は普通に聞こえるし、こりゃ便利。



「普段から付けてていいってことでしょ」

「はい。緊急時も安心です」

「丁字開発? なんでも作るね」

「優秀な研究者ですから」

「君兄弟にも敬語使うけど何? 癖?」

「尊敬する人に敬語は当たり前です」

「仲悪くないんでしょ。普通に話せばいいじゃん」


 確かに敬語を使うと少し距離ができたり、堅苦しくなりすぎたりするが、それでも尊敬する人には敬語を使いたい。

 兄弟としてどこかに出かける時は普通に話す時もあるが、こういう仕事の場では余計に。




「未優さんもいつか尊敬する人ができたら分かると思います」

「私敬語使えない」

「尊敬の念が伝わればいいんです」



 それを言うと敬語どうこうの話が変わってくるが。





 未優は袖で口を隠しながらクスクスと笑い、玄利も少し目を細めた。



















(ネイ)天爾(テンエン)忌厭(キエン)は?」

怨納(オンノウ)をからかいに。餓性(ガショウ)も戻り切ってないから遊びがいがあるみたい」

恐念(キョウネン)を呼び戻すか……」

「まだいいんじゃない? 緋愴(ヒソウ)の力が分かってからで」

「……怨納の異能が消えた感じがしないんだよね。かと言ってあそこに入ってるわけでもなさそう」

「緋愴が奪った可能性があるってこと」

「あれ喚いてばかりで力が何か分かってないんだよ。……まぁ、別に緋愴が戻ったら怨納はいらないんだけど」

「戻ると?」

「静璐がこっちに来たらね。計画は着々と進んでるよ」

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