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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
121/155

31.幻水刀

 校庭で一仕事して、例のブツを回収した日蔓は未優とともに道場に入った。



 夜の道場破りをしばらくやっていないので少し埃っぽいが、問題ない。




 扉を閉めて電気を付けると未優は畳に目を輝かせた。



「畳だ」

「前も来たことあるよ」

「そだっけ? 体育館しか覚えてない」

「そんなしょっちゅうは来てないからねー」



 日蔓は布袋の口を解くと、鞘に入れられた幻水刀(キョウスイトウ)を出した。


 黒と金の鞘、青と金の柄。ずいぶんと派手好きだったらしい。





 鞘と柄を持ってゆっくり引き抜くと、それは青白く光を反射し白銀に輝いた。


 しかし全て引き抜く前に刀身は途切れ、見事に折れた先がそのまま顕になる。



「短いね」

「持ち主が最後の戦いで折ってるんだよ」





 さてと。



 未優を道場の隅へ行かせ、目を閉じ脳裏に支配人の顔を思い浮かべた。

 微かに開ける鏡瞳を開いて、それと一緒に気合いを刀に込めてみる。



「うわッ!」


 未優の声が聞こえ、その感覚を忘れないようにしたまますっと目を開けると、折れたはずの刀身が戻り微かに青白いモヤを放っていた。青白いというか、青緑白いというか。



 息を吸って鏡瞳を閉じるとそれは形状が歪になり、全く違うことを考えると補完された刀身は消えた。


 鏡瞳を開いただけじゃ意味はない。

 鏡瞳なしで気合いを込めると僅かにモヤが出て、支配人の顔を思い浮かべるとそれは綺麗に現れた。


 鍵は主人を殺したアイツへの怨念か。



 一番強いのは優羽か尊音か、有望株と支配人の接点はないので感情操作が必要になるんだろうか。




 刀を鞘に納め、未優を呼んだ。



「未優、これ持てる?」

「……軽いよ」

「嘘じゃん」

「マジ。……ほら、牛乳より軽い」

「か……軽いならいいけど……」


 そんな未優が軽い軽いほど言うほど軽いかな。



「それ抜いてごらん」

「……こう?」

「そう」



 未優は体の前で日蔓と同じように持ち、それを恐る恐る開けた。


 しかし今度は日蔓の時のような光り輝く白銀ではなく、赤黒い、鏡瞳とはまた別の禍々しい圧を放つ。



 未優はビクッと体を震わせ、怖かったのかすぐに日蔓に返した。

 日蔓はそれを受け取り、すぐに刀を開けるが既に白銀に戻った後だった。




「何それ……」

「特殊な武器なんだよ。未優が使うわけじゃないから大丈夫だよ」

「使いたくない」

「おいで」



 未優は日蔓のパーカーの裾をがっしり掴み、日蔓は袋を持つと未優と手を繋いで静璐のところまで戻った。





「せーいーろーくーん」

「はーあーい! どうしました?」


 ノリのいいことで。




 日蔓は静璐に刀を渡し、また抜いてもらった。うん、黒い。

 未優は日蔓の後ろに隠れ、静璐もすぐに突き返すように日蔓に刀を渡した。



「だっ……大丈夫?」

「な、なんですかそれ……」

「支配人恨んでる刀。未優もこうなったんだよね。……未優」



 後ろに隠れている未優、呼んでも反応しないので頬を挟むと、日蔓の手を両手で掴んだ。



「そんな怖い?」

「え、ひ、日蔓さんは……」

「全然。黒くもならないんだよ」

「……俺それ触りたくないです」


 トラウマ二名。



守明(もりあ)、抜いてみて」

「おー」



 守明が抜くと、黒くも青白くもない、ただの多少艶やか程度の鉄色。日蔓とも静璐達とも違う。



「招集案件だな。静璐もおいで」

「日蔓、俺は」

撫秞(なゆ)呼んでくれる? 未優が完全怯えてる」

「了解」



 スマホで呼ぶかと思えば、どうやら校庭に混じって訓練しているようで走って呼びに行った。



 日蔓は震える未優の頭を撫で、刀を静璐に預けようとしたが珍しく静璐はそれを拒否して未優を抱き上げる方に回った。トラウマレベルじゃねぇな。






 未優は静璐にくっつき、静璐は引きつった顔のまま少し離れた。




 修行中の御一行の元へ行き、守明が連れてきてくれた撫秞に未優を預けた。



「えーと……優羽と尊音も呼ぶか」

「日蔓、何するの?」

「刀がこうなる条件見付ける」



 そう言って、日蔓はまた刀を抜いた。

 白銀に光り輝く刀身が僅かに見え、しかしそれはすぐに納められる。



「やーうー」

「なーあに。それあれ?」

「そうそれ。あれ終わった?」

「終わった終わった。曄雅あっちいいの?」

「線蓮行かせたし」



 突如現れた優羽と日蔓のあっちこっちそっちどっちの会話に皆が置いていかれていると、日蔓が喋りながら優羽に刀を渡した。

 日蔓の後ろから抱き着く形で喋っていた優羽はそれを受け取ると少し離れて鞘から引き抜いた。


 日蔓よりは弱いがほんのり青白く輝き、刀身が全て現れるとそれは微かに強くなる。



「わぉ」

「んー……?」


 とりあえず支配人関係は確実だと思うのだが、何故光るのか黒くなるのか、刀身が補完されるのか。発生条件を考えたいのだが。




「何これどうなってんの?」

尊音(たかね)呼ぶか」

「僕への説明はなし?」

「説明できるなら困ってない」



 日蔓はスマホをいじり、優羽は刀を納めると日蔓の後ろから腰に腕を回して肩に顔を置いた。日蔓はそれに対してなんの躊躇いもなく腹を肘で殴る。



「いった……」

「あ、尊音? 校庭おいで。優羽が呼んでる」

「お兄ちゃんだよッ!」

「うるさっ……」



 優羽は日蔓の耳元でスマホに向かって叫び、日蔓は顔を離した。優羽の体を押して優羽から離れ、静璐たちの方へ行く。


 優羽のせいで尊音の声が聞こえなかった。



「尊音、もっかい」

『うん? だから霖弦(りんげん)が来てるから……』

「あぁちょうどいい。連れてきて」

『うぇぇ……』

「来たの二人だけでしょ。ついでに帰そう」

『母さんも来てるよ? 酔翁(すいのう)さんと話してる』

「うげぇ……」



 

 授乳期間を明けたばかりの日蔓と尊音を兄弟揃って現会長、酔翁に預けたのは両親と祖父母の判断だ。別に家の習わしというわけでもないが、なんでかは知らん。

 そのせいで日蔓は、まぁ尊音にもなんだろうが、親や家族というものがイマイチ分かっていない。なんなんだろうな、兄弟は何となく分かるのだが。



「まいいや。おいで」

『はぁい』





 少しして、日蔓がまとわりついてくる兎結(うゆね)翠狼(すいろう)を振り払おうと頑張っていると尊音と尊音に連れられ霖弦がやってきた。



 兎結は手を振り上げると兄弟揃って捕まえようとするのを、日蔓は捕まるフリをしながら直前でさっとかわした。





「尊音、これ開けてみて」

「日本刀! 本物初めて見た!」

「そりゃねー」


 尊音はそれを受け取ると刀を引き抜いた。

 まぁ、優羽とさして変わらない。変わらないが、なんだろうな、白銀より青さが強い気がする。この刀の思惑が分からない。



「光ってる〜」

「なんかちょっと青いね」

「皆は白いの?」

「白、黒、銀」

「優羽君表作ろう表。丸バツ表」


 尊音は嬉々として優羽のタブレットを覗き込み、優羽は仕方なさそうな顔をしながらタブレットに即席丸バツ表を作った。

 丸バツ表と言うか、縦に人の名前と横に色を書いて印を付けるだけだが。



「……黒二人。青は尊音だけでしょ」

「曄雅、界魔に聞いたらなんか分かるやろ」

「あー」



 霖弦に明らか低い声で返事をした日蔓はそれ以上は何も言わないまま尊音から刀を受け取り静璐に声をかけた。











 夜中、本当に夜中。深夜の二時。外は吹雪いているので外での訓練も中止し、班にわけて体育館と道場で専務と部長がしごき倒している。あとで日蔓も参加する予定。



 刀を持ち、界魔の塔に入ると階段を上る。


 界魔は一昨日から今日の夕方頃まで研究所に行っていたらしいのを静璐から聞いてこの時間になった。夜は何かと忙しい。




「……界魔」


 声をかけると、牢の隅で何かをしていた界魔が顔を上げた。



「……懐かしいものを持ってきたな」

「やっぱ知ってんだ」

「支配人を唯一殺しかけた男が持っていた刀だ。変幻自在に曲がって使い手の腕も良かった」

「一部始終知ってんの?」

「見てたからな。……結局、最後は天爾(テンエン)にそれを折られて左腕を取られてた。それ、半身ないだろう」

「うん。……これのカラクリ教えてほしいんだけど」



 界魔は光の当たる手前まで出てきて、日蔓に手を差し出した。



「鞘を」

「鞘?」

「こう言うのは……込められた本体よりそれを抑える箱を見た方が分かりやすい」



 刀を抜いて牢の間から鞘を渡すと、界魔はそれを片手に持ってもう片手でその鞘を撫でるように動かした。


 いきなり鞘がガタガタと震え、日蔓が後ずさるとほぼ同時に鞘は界魔の顔面を突こうと勢いよく跳ねた。

 しかしそれは壁にぶつかり床に落ちるとすぐになくなり、界魔はそれを拾う。



「界魔、とりわけ強い界魔に相当反応してる。牽制役も収めると言うよりかは揃って力を溜めてる状態に近いな」

「どういうこと?」



 幻水刀(キョウスイトウ)は界魔を殺すと作れる刀と言われている。界魔が吸っていた生気の思いが刀に宿り、刀が変幻するようになる。


 この刀が切った界魔がどれほどいるか知らないが、吸われた生気の大半が界魔を恨んでいたのだろう。恨みに恨んだ結果、こうして刀が使い手の思考や血にまで反応するようになっている。




「お前があの男の子孫だと言うのは分かってるだろう。あの男もフルーツを食べてお前らの言う異能を手に入れていた」

「……良すぎる勘?」

「第六感がな。良すぎる勘は時に未来予知より厄介になる。こちらが図れないことすら感じ取ってくるからな」



 鞘を受け取り、刀を納める。



「その刀はお前の僅かな異能と男に似た血に反応する。加え元の持ち主を殺した支配人を殺したいほど恨んでいるはずだ。刀に乗り移った想いもそれに共鳴してお前が持つとそうなる」

「気合いはいらないってことか」

「き……気合い……?」

「なんか、鏡瞳やる時みたいな気合い」

「はぁ……?」


 分からないかなぁ。


 自分でも詳しく説明できるものではないのでそんな首を傾げられても困る。




「……支配人殺そうとした奴と僕の血が似てるって言った?」

「あぁ」

「それ、男の異能も僕に継がれてるってこと?」

「たぶんな。……お前、人間を逸した身体能力と鏡瞳を使うだろ。弟は鏡瞳に全振りしたようだが。……お前の言う鏡瞳を体に乗せる感覚はそれだ」

「お前に言ってないんだけど」

「静璐が上司から聞いたとか」



 鬼燈め。この三人情報通じすぎだろ。



「じゃあ僕の気合いの招待は未優と静璐の衝撃波と同じってことか」

「根本はな」

「あの二人が刀抜くと真っ黒になってめっちゃ嫌がるようになったんだよね。なんで?」

「……言っただろ。その刀は界魔を嫌っていると」


 あの二人はフルーツを食べた時は幼く、その体にしてはフルーツの量が多すぎた。

 異能は成長真っ只中の子供の体に溶け込み、二人の体の成長とともに強く根深くなっていく。



「あの二人はもう、表は人間としてでも体の中は界魔に近い。二種類も食べた未優も、異能が適応しすぎた静璐も。……俺の異能で取れるのは最低限あの少女ぐらいだな」

「は? 何取れるって」

「聞いてないか。俺が怨納(オンノウ)……あの、オーラの強い界魔と戦わなかった理由」

「知らない」

「俺は主に五つの異能を使う。そのうちの一つ。一定時間触れたものの異能を奪える」

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