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鏡界館  作者: 織優幸灔
三章
102/155

12.会長

 子供界魔の証言で支配人が次に動くとしたら未優の記憶が戻った時と分かった。



 そして支配人が未優と静璐を狙う理由。

 物心つく前から鏡界の存在に気付いていた未優と、子供界魔が鏡界に連れていった静璐は何度か鏡界の中で会っている。

 その数回の面会の時に支配人やその他腹心、右腕たちと会い、その時にフルーツを食べた。




 子供界魔は初めて吸わされた生気が自分の母親と妹だったらしい。まだ人間の記憶が強い中それを吸わされ、人間の記憶が残り続けるまま人を殺した。だから支配人を恨むし殺したいと、支配人の目的を頓挫させてやりたいとずっと思っていたらしい。


 そんなことを秘める中で現れた支配人が重宝する二人。

 前の(マイナス)ランクの時は殺されてもいいので支配人が見ていない時に未優を殺そうとした。静璐に対しては自分も愛着があったから、未優だけ。



 でも結局は支配人は来れないだけで見えてはいたらしい。帰ってくるや否や殺されかけて、こっちに引き渡されたと。








 十二年前の胎児大量虐殺、支配人は人間を操って繁殖させようとしたわけじゃないらしい。

 支配人は生き物の死体を喰った分界魔を作り、生気を吸った分フルーツを作れる。年間平均百人近くに上る、原因不明の人形(ドール)化。そのほとんどは支配人のせい。


 自ら作り出した異能フルーツを喰らえば支配人の異能は増え続ける。それが支配人の異能。



 母体を通して異能を植え付けた胎児は非常に出来のいい界魔になるそうで、今の腹心と右腕数体はその赤子が元になっている。そして、異能持ちの胎児や赤子から生まれた界魔は多くがランクで言う(マイナス)ランク。


 元が胎児のため知能を持たずすぐ殺されているのもいるし他に喰われるのもいるが、もし支配人が気に入って傍に置いているなら支配人一体で手一杯なのにそれクラスが約七体。子供界魔が一体相手にするにしても、六体いるわけだ。

 全盛期の曄雅が一人もいない今、一人ずつの苦労が相当になる。



 ただ、支配人は未優と静璐に対しては我が子のように可愛がっているらしい。だから支配人を相手にさせるなら絶対に殺されない二人。

 支配人の怒りの元凶である日蔓が手出しをすると、支配人は苛立つと何をするか分からないので二人に対しての保証もなくなる。




 支配人右腕の最古参から言えることはこれだけ、と。






 寝転がったままタブレットに送られてきたメールを確認し、眉を寄せた。



 日蔓の寝転がる付近の机にはエナジードリンクの空きが三缶と辛口のガムのゴミが二つ分。ちなみに空き缶にはストローがささっている。


 知らなかった両親も祖父母も全親戚ドン引きの悪習慣だ。



「ちょっと……曄雅……ほんとに体に悪いわよ……!」

「線蓮、パソコン貸して?」

「寝ろ」


 拒否されてもこいつは甘えた目すれば一発で貸してくれる。いてよかったかも。写真撮られるけど。



 パソコンは重たいので持ってこなかった。だいたいタブレットで済むが、やはり並行した方がやりやすい。



「曄雅……! ほんとに寝てちょうだい……!」

「終わったら寝るから邪魔しないで」

「日蔓さんって案外自堕落な生活してるんすね」

「仕事に熱心と言いたまえルーキー君」

「未優さん真似したら駄目っすよ」

「はぁい」

「ほんとに駄目だよ未優。早死するから」

「自分で言うなら寝なさい!」

「僕死んでも興味無いし」


 いや意味分からんし。



 礼焃は向かいから頭を掴み、日蔓はその両腕を片手で掴むと片手でタブレットをスクロールする。その隙を見計らってか、傍にいた丁字が日蔓の顔付近で眠り香を焚いた。

 一瞬寝落ちかけた日蔓はすぐにガムに手を伸ばし、静璐は机の上に置いてあったガムを静かに取る。



「……ちょっと静璐」

「丁字さんもう一回」

「はい日蔓くーん」

「やめろ!」


 日蔓はタブレットを持つと線蓮の後ろに逃げ、線蓮は日蔓の頭を撫でた。日蔓がホッとした瞬間に頭を押え、丁字から奪うように借りた眠り香を焚く。



「はいおやすみ」

「おぉ」

「じゃ貰うぞ」

「線蓮さんストップ! 何する気っすか!」


 静璐は線蓮に膝枕券と交換で日蔓を貰った。この人に任せたらほんとに日蔓の身が危ない。



「……あーあ取られた」

「線蓮さん日蔓連れてって何する気だったの?」

「そ……」

「ちょっと専務さん黙って」


 隣で新ウェアのデザインを書いていた丁字は線蓮の口を塞ぎ、静璐が机に置いた日蔓のガムを口に入れた。線蓮絶句。



「あいつなんてもん食べてんだ」

「日蔓は自分に関しては超適当で無頓着だからなぁ」


 皇雪と守明(もりあ)は顔を引きつらせながら、丁字が差し出してきたガムを断った。

 絶句した線蓮はガムを捨てるとすぐにお茶を飲むが、相当不味かったらしい。口を押えて動かなくなった。



「未優さん穢そうとした報いだよ」

「それは知らなくていいって……言おうとしたやん……! これ不味ッ! なんでこんなん売れとんの!?」

「出た時たま神戸弁イケメン」

「黙れバリ不味いってうわッ……!」

「なんで神戸弁」



 皇雪が茶化し、それどころではない線蓮は礼焃に支えられながらお茶を飲み、丁字は不思議そうな顔。


「ほら、次聡(じそう)は兵庫出身だから」

「あそうなの?」

「なんや都会っ子やん。なんで老人語なんか使っとるんや」

「不味い……!」

「分かったからちょっと黙れや」

「関西人、気つよ」

霖弦(りんげつ)も人のこと言えないだろ」

「俺元は富山県民やし?」

「大阪弁のくせに。ミーハーか」

「うるさいのぉ陰キャ」



 霖弦と晴縺(せいれん)の双子も口喧嘩を始め、晴縺の奥さんがまぁまぁと宥める。

 日蔓家の嫁への扱いは褒められたもんじゃないが、女に対して酷いわけじゃない。嫁入り婿入りに対して酷いだけで、女同盟なめんなよ。



「二人ともうるさいわよ」


 曄乃の一睨みで二人は睨みながらも黙り、西木はようやく落ち着いたらしい線蓮にまた声をかけた。



「線蓮、お前一生神戸弁でいろや。その顔で神戸弁モテんで」

「なんのことか分からんな。丁字、食え」

「やだよあの反応見たあとで」

「食ったら未優の足の模型十個」

「ほんとに!?」

「ちょっと! あれ面倒臭いのに!」

「好きなスイーツ買ってやるから」


 商売上手め。



 丁字は薄っぺらい長方形のガムを開けると半分を妹の紅音(あかね)に渡し、二人は無言で食べると水で丸呑みした。



「はい十個ね」

「半分だったから五個な」

「はぁ!? 騙した!」

「当たり前じゃろ」

「じゃあ私も五個?」

「しょうがない。未優は二分の二で二つな」

「なんで二つ!?」

「誰も十個買うとは言っとらん」

「騙した!」



 未優と丁字二人で線蓮の胸ぐらを掴み叫んでいると、いきなり後ろの襖が勢いよく開いた。

 お怒りの日蔓が顔を出す。酷い(くま)



「ねぇ遊びに来たなら帰っていい? 中部地方の人ら東京に放置してんだよね。別に全部の家から一人ずつ出たらあと伝言でもなんでもいけるでしょ。松笠と会長の二人に至っては俺一回も見てないんだけど。酔い潰れた専務に四家って、集まる意味ある? 丁字兄妹も実家帰る予定だったのにさぁ。シスコン(皇雪)マゾ(鬼燈)も正月ぐらい家族といたいだろうよ。マゾ(鬼燈)に関しては知らんけど」

「日蔓寝てないから怒ってんだよ」

「未優」

「やっぱり優羽が必要だよトンカチ君」

「呼びます?」

「私も久しぶりに会いたいわ。この前は曄雅に遮られたし」

「人の話聞いてんのか」



 苛立っている日蔓がそれを見下ろしていると、西木が仕方なさそうに溜め息をついた。



「仕方ない。助っ人呼んでやる」

「あ?」





 それから数十秒して、いきなりドタドタと足音が聞こえたかと思うと後ろから突進され背中に激痛が走った。背骨に直で入ったぞ。



「痛ッ……!?」

「久しぶりだねぇ曄雅くん! また男らしくなって!」

「こいつ酔っ払ってる……!」

「火に油やったか。こりゃ正月明けてからやな」



 ふくよかな胸が今にも零れそうなほど胸元をはだけさせたその女性は日蔓に飛び付くと、そのまま頬擦りをした。


 重さで潰れそうになる日蔓が助けてと手を伸ばすと、線蓮がそれを掴んだ。



「曄雅、浮気?」

「は?」

「曄雅くんは私のだよ線蓮君。下がってろじじい」

「お前の方が歳上だろ婆さん」

「歳いった男に価値はないんだよ?」

「曄雅は歳いった女に興味ないけどな? 追っかけてんのにそんなんも知らんのか。惜しいな、あと三十若かったらどうにかなっとったかもしれんけど」

「マジで潰れそう……」

「重いって。退け整形女」

「整形馬鹿にすんなよ」

「してないわ邪魔や」

「俺歳上に興味ない」



 女性が上に寝転がったことで完全に潰れた日蔓がそう言うと、丁字が妹を、静璐が未優を庇った。それを見上げて言い方が悪かったと自覚する。


「俺他人に興味ない」

「日蔓酷い」

「拾ってもらえたことが奇跡だと思って」

「はぁい」




 日蔓はそれを退かし、神妙そうな顔で後ろに立っていた松笠(まつかさ)にそれを預けた。


 松笠はそれをつまみ出すと二日酔いで伸びている鬼燈にげんこつを落とした。



「お前仕事しに来て何やってる」

「ごめんなさい無理やりなんですだから殴らないで下さい痛い」

「だから? だって? 何」

「すみませんすみませんすみません」



 頭を抱え師匠相手に縮こまる鬼燈を皆が呆れ顔で見ていると、また襖が開いて会長が入ってくる。が、日蔓は線蓮の膝上。



「僕ちょっとかなりの不運体質すぎない?」

「モテ期だよ」

「いらねぇよ。みゆー助けてー」

「……日蔓さん未優さん限界っす」

「ヤバいな」

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