未来は確実に変わっていく
「えーと……ここが、こう、で……」
「ルミィ、刻む紋様が少し違ってる」
「え、ほんと?」
「本当」
ルミナスとアリューズが製作しているものは、とても細かい。
所謂、補聴器兼耳栓にもなるという代物。
魔法が使えなくても、人にはある程度の魔力が流れている。
それを魔石に対して流し込むことで、魔道具が使えるようになっている、という仕組みなのだが如何せん作っているものが小さいので、とんでもなく集中力を持っていかれてしまう。
紋様を刻んでいるのは、土台になる部分。
そして、対応した魔石をはめ込んで完成……になるのだが、魔石の選定もかなり時間をかけた。
音を伝える仕組みから学んだ上で、祖母の伝手を使って風の魔石を探してもらい、質の良いものを手に入れられたから、遠慮なく使っている。
一般的に流通させることは今のところ考えておらず、あくまで卒業制作のために設計をしたもの。『こんなものができて、一般的に流通するようになれば便利になるだろうなぁ』という表向きの理由があるものの、そもそものきっかけはマリアの癇癪から来ているのだから、研究心というものはどう働くのか本当によく分からないものだ、とルミナスもアリューズも、何度も思った。
そんなことを考えつつも作業の手は止めなかったが、さすがに目が限界に来てしまった、ということで遅ればせながらも休憩をとることにした。
「う~……」
「休憩しよう。さすがに疲れた」
「……そうよねぇ……」
んー、と体を伸ばしているルミナスと、拡大鏡から視線を外したアリューズは、二人揃ってようやく休憩を入れることにしたのだ。
「ねぇルミィ、思ったことがあるんだけど」
「何?」
「ルミィはさ、何回か人生をやり直してるんだよね?」
「うん」
アリューズには何も隠し事なんてしない。死に戻りのことを話してからは、何でも素直に(夜更かし以外)話すようにしようと心に決めたのだ。
「婚約者って……どんな感じだったの? その……」
「繰り返しても、基本的にはアリューズだったわ。あ、でも一度だけ違って……いや、でも何らかの原因があったけどその一度も確かアリューズだった……ような」
「そう、なのか」
ルミナスの言葉にとても嬉しそうに微笑んだアリューズは、彼女の言葉をぐっと噛み締める。
所謂運命の相手、ということで良いのだろうか、と思うと顔がにやけそうになってしまう。
「僕は……その、やり直しとかは分からないんだけど、でも……あの日、ルミィに会ってから『この子じゃないと嫌だ』っていう気持ちは強かったんだよ」
「……っ」
一応、まだここは学校なのだから、そんな叫びたくなるような内容を言わないでほしい、とルミナスはしみじみと思う。
それに、アリューズはとても端正な顔立ちをしているから、女子生徒からの人気がとても高いのだ。
(心臓に悪い……うぅ)
「いよっ、お二人さーん!製作は順調?」
「あら、アリア」
「そっちはどうなんだ?」
「ぼちぼち、ってところ。いやぁ、思い通りにいかない駄々っ子、って感じで面白いねぇ」
けらけらと明るく笑うアリアの様子を見ていると、ルミナスもアリューズも、自然と笑顔になってしまう。
アリアが来ると、空気もほんわかするしルミナスもアリューズも笑顔が多くなる。
「アリア、最初は『魔道具開発つらーい!』って悲鳴上げてたじゃない」
「そうなんだけど……こうほら、慣れてくると、ね?」
「何となく分かるよ、アリアの気持ちは」
笑いながら会話をしている三人を見て、クラスメイトたちもつられてほっこりしている。
とんでもないライバル同士であるにも関わらず、この三人をはじめとしたクラスの面々は、皆揃って仲がいい。
他のクラスに関しては、割とクラスメイトがギスギスしたりしているのだが、このクラスはそれがないから先生たちも不思議に思っているくらいだ、と担任から言われたことがある。
「でさ、二人は製作が終わったら色々進めるの?結婚式とか、二人で住むお屋敷見たりとか、あれこれあるでしょ?てか、どっちがどっちの家継ぐの?めっちゃ気になる」
「アリア、聞いてくること多いよ」
「そうよアリア、一つずつね」
あ、ちゃんと答えてあげるんだ、とクラスメイトの心の声が一致する。
しかし、あのローズベリー家のご令嬢とリーズ家のご子息の婚約なのだ。二家とも揃って魔道具事業をかなり手広く行っているし、そもそもルミナスは現時点でローズベリー家の一人娘。
色々な相手から婚約の申し入れがあった、と聞いているが全てミーシャをはじめとしたローズベリー家の面々が断りを入れた、とも。
『ルミナスには心に決めた相手がおり、二人の仲も大変良好。そんな相手以外に婚約者など不要である』と、入り込む隙など与えない、と言わんばかりにとても強く跳ね除けた、と言われているのだ。
「領家の跡取りに関しては、僕がローズベリー家に入ることになっている」
「私、ひとりっ子だからね」
「……あ、そっか」
そう、ローズベリー家にはこれまで子供がおらず、跡取りをどうしようかということが大きな悩みの種だった。
しかしルミナスがやってきたことにより、これは呆気なく解決できる。
「え、んじゃアリューズんとこは?」
「こっちはどうにでもなるよ。うち、親戚もかなり多いし、何より僕の両親がルミィのこと大のお気に入りだから、婿入りも呆気なく了承してくれたんだ」
アリアは話を聞くからと、二人に対して学院内のカフェテリアであれこれ買い込んできており、はいどうぞー、と色々出してくる。
それを受け取り、テイクアウト用のカップに入っている飲み物を受け取ったルミナスは、ごくごくと飲んでいく。
「あれ、アリア。これって……」
「便利でしょ、温かい飲み物買ってから冷めないようにできる保温バッグ!」
「……お前の卒業制作、何だっけ?」
「えーっと、冷たいものを冷たいまま運べるバッグ、だけど」
「「応用したら良いでしょ!!(良いだろう!!)」」
クラスメイト全員、そしてルミナスとアリューズの思いは見事に一致する。
「へ?」
「応用したらすぐに作れるだろう!?」
「そうよ!!アリアならいけるわよ!」
物凄い迫力であれこれ言ってくる友人たちにちょっとだけドン引きしていたアリアだが、ふと視線を逸らして見渡した先のクラスメイトたちでさえ、うんうんと頷いていたり、真剣な眼差しで『はよやれや!』と言わんばかりに訴えかけていたりしている。
「あ、う……」
たじろいでしまったアリアに対し、ルミナスとアリューズがはて、と首を傾げて念の為に、と口を開いた。
「あのさ、もしかして……」
「アリア……貴方、温かくする系の魔力操作、苦手……?」
アリアが半泣きになって頷けば、そういうことか、と全員が納得する。
いくら魔法を使えるような魔力がないとはいえ、得意、不得意はいつの時代にも存在するのだ。
「反属性だからさ、ほんっっとに難しくて……」
あはは、と笑っているアリアに対して、何かのスイッチが入ってしまったらしいルミナスに、がっちりと腕を掴まれてしまった。
「へ?」
「練習、あるのみね」
「いやちょっと待ってルミナス……」
「善は急げ!練習室の予約を取りに行くわよー!」
「いやあの、まずは他にも改良したいところがあるから練習よりも他を…………あぁぁぁぁぁ!!」
えいえいおー!と叫んでいるルミナスは、体を動かすにはちょうどいいからということで、そのまま職員室に引きずられていく。
まるで病院に連れていかれる子供と、引きずっていく親のようだった……というのは後々アリューズがぽつりと呟いたのであった。




