入学 Ⅱ
続きです。お楽しみください。
「親父…!」
今になって考えてみれば気づかないと言う方がおかしかったのだ。親父が進学先について提案してきた時、「趣味」であるダーツのことなのに真剣な表情だったこと。そしてなぜか実技試験でダーツが課されたこと。その全てが異常と感じないあたり、俺は何故こんなに鈍いのかと自己嫌悪に陥る。
しかし入学した以上は生き残るしかない。蹴落とされてたまるか。
教室へ向かう途中。俺は再び御影と言葉を交わした。
「御影の言ってた意味がわかったよ。」
「……………わかってくれたようで何より。じゃあ俺はこの辺で。」
「いやいや、待ってよ。」
「……………君もわかるだろう?この高校では互いがライバル、蹴落とす相手なんだ。なんでそんなに親切にする必要がある?」
「さっき校長が言ってたろ?卒業率は1割って。」
「……………その通りだよ。」
「だったら友達同士で刺激しあってともに成長して、その例の『1割』の中に一緒に入ればいい話じゃないか?」
「……………君は………変わっているね。」
「俺は本当に友達がいらないと思ってる人間がこうやって会話してくれるとは思わない。御影自身も気づいてるんじゃないのか?」
確かに俺も覚悟が足りないまま御影に接したことは反省している。しかし独りきりでストイックに成長できる人間、というのはある種の「努力できる天才」というやつだと俺は思っている。
教室に戻る間、俺と御影はその後話すことはなかった。というかそのあとかけるべき言葉が見つからなかったのだ。
教室で待っていると、担任らしき先生が教室に入ってくる。
のそのそと気だるげな感じでゆっくりと教壇へ。
「はーい…。このAクラスの担任になった、藤堂匠だ。担当教科は数学。元プロダーツプレイヤー。よろしくー…。えっと君達はAクラス。ダーツの実力は今の所学年で最高ランクに位置付けられてる人間だ。でも気を抜かないでくれー、毎月ダーツの試験を行ってクラス替えするから、実力が下がればどんどんみるみるうちに落ちてくぞー。んじゃー、とりあえず自己紹介でもするかー。」
なんとも無気力そうな先生が出てきた。白衣を着ているからかとても数学科の教師とは思えない。そして髪はボサボサしていて少し寝癖のようなものが付いている。眼鏡をかけており、その下にはクマが大きく入った目が見える。
自己紹介と言ってもみんなの緊張が解けるとは到底考えづらい。何を言えばいいのだろうか。簡単に話せることと言っても名前くらいなもんだろう。
半分くらい自己紹介が終わったところでポニーテールで勝気なつり目がチャーミングな女の子が自己紹介した。
「星宮愛良です。特待枠で編入してきました。これから3年間、よろしくお願いします。」
空気が一瞬ピリッとした。これはある種「私は3年間生き残ってやる」と言う宣戦布告にも取れる。それを察した生徒の一部が空気を少し緊張させたようだ。
彼女が座るのと同時に次の子が立ち上がる。その姿を見た途端、俺の身体に電流が流れた。
「………星宮舞良。愛良は私の実姉です。姉と同じく特待枠で編入してきました。これからもよろしく。」
静かな雰囲気だが、闘志はひしひしと伝わってくる。そしてなにより可愛い。顔貌が整ってるのは姉妹2人ともだが、目元が姉の愛良さんより柔らかい感じだ。ツインテール、制服の着こなしなど、纏う雰囲気全てが俺の思考を一瞬奪った。
いかんいかん。ほかの人の紹介も聞かなければ。
そうこうしているうちに俺の番も近くなってきた。
「……………御影透。中等部からの内部進学生です。僕のことを知っている人も、知らない人も、これから皆さんと長いお付き合いになると思いますがよろしくお願いします。僕はいつでも暇なのでいつでも対戦お待ちしております。」
背が高い。190cm近くあるだろうか。足も長いし顔も小さくていわばモデルみたいな体型だ。
それにしても今まで自己紹介してきたクラスメイトとは完全に纏っているオーラが違う。語気から感じる自信だけではない。おそらく彼は他の生徒に比べて格段に実力があるとみて間違いない。
この後だと自己紹介しづらいな。
「八神翔です。翔って呼んでください。俺はダーツをやり始めて日が浅いです。まだまだ実力不足なので、皆さんと共に成長していきたいと思っています。思いがけず編入することになったんですが、入学したからには強くなりたいと思ってます。これから気軽に話しかけてくれると嬉しいです。よろしくお願いします。」
無難な挨拶にまとめられた。
自己紹介を乗り切った。ここから当面の課題は新たな友達作りか。
自己紹介タイムが終わったところで藤堂先生が再び口を開く。
「はーい。とりあえず自己紹介が終わったところで早速だが、来月行われる新人戦トーナメントに関して話すぞー…。この新人戦トーナメントだが、基本は全員参加だと思って欲しい。形式は男子も女子も4人のチーム戦だ。そして重要な条件が1つ。必ずチームに1人は一般編入生を入れること。特待枠の編入生については数として認めない。」
教室にいるほとんどが訝しげな表情を浮かべた。
今回のこの新人戦トーナメントは全員が参加する試合。そしてこのクラスにいるダーツ経験者連中はもちろん勝ちに行くはずだ。それを一般編入生、学科試験のみで突破したやつと組まされたらたまったもんじゃない。足を引っ張られでもしたらどうする。
クラスメイトのいわば憤りとも言うべき雰囲気を察してか、先生は冷めた目で見ながらこう付け足した。
「校長の言っていた意味をよく考えることだ。トーナメントに勝ちたければそれを考えないと厳しいぞー。
まあそれは置いといてだ。エントリー締め切りは来週末だ。担任の俺のところにエントリーシートを記入の上で提出しに来い。それじゃ今日は解散!」
そう言って藤堂先生はそそくさと出て行ってしまった。教室に入ってきたときの気だるげな感じとはえらい違いだ。
「チーム…一般編入生を入れるという条件…なるほどね。」
藤堂先生の言う意味、校長からの言葉、それらの凡そを理解した俺は早速ある人物に話しかけるのだった。
一般編入生はダーツの腕が特別評価されたわけではありません。学力試験及びダーツ理論に関する筆記試験を受け、そしてダーツの実力がある程度認められた人が編入できます。その枠で入学した生徒を、一般編入生と扱っています!(だいぶ変わった設定ですがどうかお付き合いください…!)
次回から本格的に高校生活がスタートします。お楽しみに!




