011 合同演習
約一ヶ月間、合同演習に備えた訓練や各種手配などをこなしながら当日を迎えた。
演習のフィールドとなるのは都市の外縁部にある廃棄区で、各部隊の訓練場としてもよく使われる場所だ。
各々の部隊が次第に到着して、顔合わせと開始式が行われる。
「統制管理局の壱臣です。今回は、指揮官として参加させて貰います。よろしくお願いします」
都市入出管理局、食料プラント防衛局、発電受信所防衛局、そして統制管理局の面々の前で挨拶を行った。
続いて各局の代表達が挨拶を行い、隊員宣誓へと移る。 食料プラント防衛局からまだ新人のような女性が代表して宣誓を行った。 少し緊張のこもった、それでもしっかりと演習場に響く声だった。
最後に、統括オブザーバーとして雨宮副局長が演習についての細かい規定や注意事項の説明を終え、各部隊のブリーフィングへと移る。
「あの、壱臣代行官。少しよろしいでしょうか?」
「ん?」
移動しようとした時、急に呼び止められ後ろを振り向くと、女性の隊員が姿勢良く立っていた。先程、隊員宣誓を行った女性隊員だ。
「自分は、食料プラント防衛局所属の富士司咲夜と申します」
少し緊張した面持ちで名乗りながら敬礼をしてきた。僕は返礼をしながら改めて名乗る。
「ああ、統制管理局の壱臣です。 富士……司さん? 何か用ですか?」
「いえ、自分は壱臣代行官と同じ防衛スクールを去年出ておりまして……壱臣代行官の武勇伝を良く耳にしておりました! 今回、お目にかかれたので、ぜひご挨拶にと思いまして!」
どうやら僕の出身校の後輩らしい……。 てか、武勇伝って何だよ!? そんなの知らんぞ、僕!
「ああ……それは、わざわざありがとう……」
「今日は、胸を借りるつもりで挑ませて頂きます! どうぞ、よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げてお辞儀をされる。 よく分からない噂が流れている事に戸惑いながらも挨拶を返す。
「ああ……こちらこそよろしく。 お手柔らかに……富士司さん」
「はい! ……それと、私の事は富士司と呼び捨てで結構です。……その、……咲夜と……呼んで頂いても……」
まあ、後輩に当たるわけだし呼び捨てでもいいのかも知れない。最後の方は何かゴニョゴニョと言っていて聞き取れなかったが……。
富士司との挨拶を終え部隊に戻ろうとした時に、来栖が物凄い形相でこちらを睨み付けていた。こわっ……。 合流が遅れたのは悪いと思うが、他の隊員と挨拶を交わしていたぐらいで怒り過ぎだろう……。
「すいません、どうやらスクールの後輩みたいだったので、少し話し込んでしまいました」
「ああ、別に構わん。 そろそろ最初の模擬戦の相手が決まる頃だろう。壱臣、デバイスの確認をしてくれ」
武上隊長から促されてデバイスで確認すると、対戦相手が表示されていた。
「最初は、入管局の警備隊が相手ですね」
都市入出管理局の名前と開始時刻までの30分の表示を皆に見せて確認をとる。
「入管局か。まあ、肩慣らしには丁度いいな。とはいえ、油断はするなよ!」
「おお、遂に始まりますね! 私、今日が楽しみで昨日はスリープモードに出来ませんでした!」
壱与がはしゃぐように言う。いや、お前寝なくても平気だろ。
「はしゃぎ過ぎるなよ、壱与。 あと、今日はジー・シグネットは起動させるなよ」
「むぅ、そんな私がホイホイとジー・シグネットを起動させる安い女みたいな言い方はやめて下さい!」
どこで覚えてくるんだ、そんな言葉……。 まったく、心配だな……。 気を取り直してみんなに向き合う。
「コホン、最初の模擬戦では、予定通りにAプランの作戦でいきたいと思います」
「本当にあの作戦でいくのか……? まあ、お前らしい奇抜な作戦だが……」
やや呆れ気味な武上隊長と他の面々だったが、特に反対は出なかった。
「ええ、ヒューマノイドの運用作戦としてはわかりやすいでしょう」
この合同演習は、少しのタイムラグを設け都市の市民達にも中継で視聴される。 マザーとしてはプロパガンダを含んだ施策だが、市民としてはエンターテインメントの向きが強い。インパクトのある絵というのも必要だろう。
「まあ、壱与ちゃんの初陣だからな、花を持たせてやるか」
熱田さんが少し笑いながらおどける。
「私TUEEEをお見せします!」
壱与のレトロコミック用語だ。 皆、苦笑いを見せながら相槌を打つ。
他に細かい作戦の確認を行い、各々が準備を始める。 30分の猶予時間の内にドローンの配備や、フィールドの準備を進め、各員配置に着いてもらう。
デバイスの表示時間が残り1分を切る。 皆の気配がガラリと変わり、空気が張り詰めてくるようだ。 演習とはいえ、緊張感が伝わってくるな……。
「では、状況を開始します」
表示時間がゼロになると同時に僕はそう告げた……。




