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Parallel Lab  作者: 古今里
20/21

暗躍

東日本の沙生の屋敷を出発し、研究所のある北日本に入国した蒼啓たち。北日本の拠点にて、一行は最終準備をする。肩慣らしに鍛錬を続ける蒼啓、夜行とその守護霊たち、ズイ、疾風は、自分のいた世界に思いを馳せ、語る。三者三様の人生を確認し合い、一行はさらに目的意識を燃やす。

 やってきた出発の日。北日本の拠点を出る蒼啓たちを、四月朔日(わたぬき)(こだま)が見送ってくれた。デジャブだ。八方家を出た時と同じ顔に見送りされた(きずなと違って谺は泣いてはいなかったが)。

 車や電車を乗り継ぎ、小樽市に入る。駅前は人が多い。

 蒼啓は昨日の作戦会議を頭の中で振り返る。これから向かう、小樽市の南に位置する天狗山。途中までしばらく観光バスに揺られ、ロプーウェイを乗り継げば到着する。そこから伸びる裏道の先に、研究所の支部は建っているらしい。

 研究所の支部は、表向き「人類の進化」をテーマにしており、併設する博物館は観光スポットとなっている。そこに向かうツアーを申し込み、研究所に侵入する手筈となっている。ツアーに参加したのは、怪しまれないためだ。今回のツアーは40人程の規模で、先導者は一人。勿論その人も共謀ぐるだ。財閥の私設調査員。ツアー参加者を40人にしたのも、数人途中で抜けても分からないだろうという魂胆から。しかし流石に蒼啓たちに加え夢名と政10人が一度に抜けるのはリスキーだ。そのため、順々に数人抜けていくことにした。

 見学が許されているのは、博物館と研究所内の一部。しかし一部だろうが、研究所に入ってしまえば、そこからは財閥の私設調査員の情報を元に潜入すればいい。

 そして肝心の監視カメラ対策はというと、私設調査員折り紙付きのステルス装備があるらしい。人の目には見えるが、監視カメラには映らない、特殊な装備品だと言っていた。実際拠点で試したが、確かに、人間どうしの目視では確認できるのに、監視カメラには映らなかった。監視カメラとモニターを繋ぐ電子信号を狂わせる装備品が、映像に映ることで変換ミスを起こし、モニターには表示されないようになっているらしい。

 そうして研究所に潜入し、隠れたまま世界線移動装置のある部屋まで辿り着ければ僥倖。途中で何かトラブルがあれば……戦うしかない。元々その覚悟は持っているから、皆準備を怠りはしなかった。

 そんなこんなで今現在一行は博物館で研究員の説明を聞いていた。研究員の話は、割と真面目に聞いたが面白かった。人間という存在が、今後どのように進化していくか。またそれを人工的に行うことはできるのか。そのために科学は何をすべきか、等々。特に蒼啓が興味をそそられたのが、魚や鳥の特徴を、人間にもつけられないか、という話題。水の中でも呼吸ができること。または空を飛ぶこと。それらは何千年も前からの人類の夢だろう。

 魚の特徴というと、えら呼吸と泳ぎやすさに特化した体。これは既に仲間であるズイが身につけているので、その隣で聞くのは説得力があった。ズイのいた世界線では、科学に頼らず、人間が環境に適応するために進化したと言われているらしいので、そこでもまた世界間の違いを感じた。

 またもう一つの、空を飛ぶこと、という話題は、確かに夢があった。今のところまだ人間に翼が生えているのは見たことがないが、ズイの例を考えれば、既に別の世界線ではそういう人間もいるのかもしれないと思ったし、その後で聞いた話では、研究所は実用化を目指していると言っていたので、この世界線での実現も近いのでは?と、蒼啓は期待の目で見た。

 だが、ふと思い出す。そうだ、これは肯定しちゃいけない。だってこの研究は、他の世界線の人々を犠牲に、進められている研究なのだから。親友の一徹がそうなってしまったように、犠牲になった人たちにも、これからも続くはずだった人生があり、自分のように悲しんだ家族や友人が絶対にいるのだ。だから、これを、この研究所を、肯定するわけにはいかないのだ。そう考え直して、蒼啓はひそかに闘志を燃やした。

 その後、見学用に解放されている研究所の一部施設へと、一行は足を踏み入れた。ついに潜入開始。研究所の中を見る前に、トイレ休憩が挟まれたので、そこでまず夢名と流、逸石が離脱。周りの一般観光客たちは一ミリも勘付かず、またツアーへ戻る。

 先陣切って潜入した3人は、隠密しながら次の離脱者との合流地点へ向かう。研究所の迷路のような構造も、事前情報によりバッチリ頭に入っている。使われていない倉庫や廊下の死角などで待機しつつ、次の離脱者を待つ。

 次に研究所内部へ侵入したのは、蒼啓、夜行、石華。先導者である夢名と政のいない唯一の組であるが、空気が読めてあまり騒がしくない3人が揃った。ツアーの最後尾に自然に移動し、少しずつ前の観光客から離れていく。最後の観光客が曲がり角を曲がった後、例の装備を着け、立ち入り禁止の扉へ潜入。配布された無線で連絡を取り、扉のすぐ先にいた先導の3人と無事合流。そしてまた、6人は次の合流地点へと急ぐ。

 最後の組はズイ、行雲、疾風、政。政が先導して他3人を抑え、再びツアー団体の最後尾につける。階段を上る時に前の観光客の視界から外れ、来た道を戻り、また立ち入り禁止の扉から内部へ侵入する。

こうして順調に研究所内部へ潜入した一行は、ステルス装備をつけ、悠々と監視カメラの前を走り去る。警音も何も鳴らないのが、潜入の成功を物語っていた。

財閥の情報を元に、一行は研究所の奥へと急ぐ。










 その、一行が進む研究所の、ある一室にて。

「クックックッ。この計画がうまく行けば……私の地位も確固たるものとなる。東日本は孤立無援に追い込まれ、経済も困窮。後ろ盾の国も自国の内乱で応援どころじゃない。その!きっかけを作った!私は!外務省のトップとなり!裏で新生日本国の外交を牛耳る存在となるのだ!アーハッハッハッハァ!!!!」

 ミュージカルのように応接室内を踊りながら独り言を言う男の姿。黒と白の入り交じったオールバックの髪に、グレーのウィンドウペーンのスーツに、黒いYシャツを合わせ、京紫のネクタイ、モルガナイトの石のついたネクタイピンに、黒い革靴。くるくると回りながらひとり、愉悦に浸っている男を、現実に戻す者がいた。

「1人で何やってんねん」

「わちょあ!!!???」

 いつの間にか部屋の扉が開いており、これまたいつの間にか横にいた自分の腹心を見て、男は奇声を上げた。

田無たなしィ!ノックせえ!いつも言ってるやろ!」

「聞こえてたで。お前のミュージカル。ご機嫌やったなあ」

「おい、話聞けや」

「ええやんか。俺とお前の仲やん」

 田無と呼ばれた男は、上下黒のスーツに、グレーの生地に黒いストライブのYシャツとブロンズブルーのネクタイ。ネクタイと同じ色の長めの髪を、全て後ろに持っていき、低い位置で縛って背中に垂らしている。踊っていた男と比べても大分大柄な田無という男は、失笑を禁じ得ない様子で、肩を震わせていた。

「せやな……って!あかんやろ!あんな、今の俺とお前は雇用関係にあるんやで。ちょっとは雇い主に気ぃつこうとかないんか!」

「気心知れた奴に今更気ぃつこうとか、ないわ」

 そう言って、田無は着けていた黒い手袋を脱ぎ、ソファの前のローテーブルに置いて、懐からタバコを取り出す。慣れた手つきで火を着けようとすると、シュボッと小気味良いライターの音が部屋に響く。

「ぐっ……それはそうやけども!」

 一人ミュージカルを見られた挙句に正論で返されて、羞恥心に満ちた様子の男……“石若いしわか”は、納得した顔で、しかし悔しそうに田無を睨み付ける。

「ところで……この部屋バグは?」

 タバコを吸うなり話題を変えた田無に、石若は我に返り、「ああ……」と続けた。

民生たみおが調べてくれたわ。あらへんけどな」

「東日本の連中が入り込んでるかもしれんからな。注意せんと」

 そう言いながらもタバコをふかす田無から、石若もタバコと火を貰い、同じようにふかす。

「北日本と東日本の協定は形だけや。北は東にも情報を隠しとる」

「独立を狙ってるんやろなあ。北は飛び抜けて技術が発展しとるし」

「その秘密を探るのが俺の仕事や」

 石若はそう言ってニヤリと笑う。隣に座る田無から見た横顔でさえ、静かに奮起しているのが見て取れる。

「……」

 そんな石若の顔を、田無はじっと見つめていた。

「……なんや。じっと見て」

 その視線に気づいた石若は、怪訝な顔で田無をちらりと見た。

「お前は高校の頃から何も変わらん。余裕こいた顔の裏で、ギラギラ何かを狙っとる」

「なんや。急に」

「最初は、それが気に入らなかってん。何しても飄々とした顔でいるんが腹立ってな」

「……確かに……なんやお前、俺に当たり強かった気ぃするわ」

「でもお前はなんや……向上心ある奴やな思て。努力しとるし」

「さっきから何言うてはりますの気色悪いわぁ~」

「こことぞばかりに京都生まれ出すなや。……ただムカつく奴ならそこで嫌いになったかもしれん。でも俺は……」

「いや今のは話終わるとこやろ。続けんなや」

「俺はお前のそういうとこ、気に入ったんやで」

「はぁ?意味分からん」

「……ハッ。変な話したせいでお前の秘書がなんか勘違いしとるわ」

「え」

 そこまで問答して、石若はやっとドアの隙間でこちらを見ている自らの秘書に気づいた。隙間から覗く目と、石若の目が交差する。田無は途中から気づいていたようだ。

「オギノ……覗き見はあかんで。……そないなとこおらんで、入ってきたらどうや」

 石若が、オギノと呼ばれた女に、部屋に入るよう促すと、異様にニコニコとした笑みを浮かべるオギノが部屋に入ってきた。

「すみません。お二人が何を話しているのか気になって」

「何をそないにニコニコしとるんや」

 オギノの笑顔の意味が分からず、石若の口をついて出た言葉に、

「何や期待しとるとこ悪いけど、何もないで」

と、田無がオギノに向かってすかさず答える。するとオギノは残念そうな顔をして、

「そうですか」

と言った。何か期待していたのか、諦念の意を顔に浮かばせるオギノを、石若はますます不思議がる。

「おい?何をがっかりしてんねん??」

「いえ、何でも」

「おい、田無、どういうことや??」

「さて、何やろな」

「はあ!?気になるやん!」

「オギノ、こいつには婚約者がおるんや。……程々にな」

「えっ!ほんまですか!?」

「せや」

「ハァ……石若さん、田無さん、ほんますみません……」

「???」

 得体の知れない話題で通じ合い、自分には何も言わない田無とオギノの様子を、石若は?いっぱいで首を捻っていたが……

 バンッ!!と、再びノック無しに部屋の扉が開かれた。

「大変ですわ!」

「ノックせえ!!!」

「何や民生」

 飛び込んできたのは民生という男。またもノックのない入室に石若は思わずツッコんだが、一方の田無は、民生の慌てた様子を見て、冷静に聞き返す。

「東日本の連中が来てます!」

「「なんやと?」」

 民生の張り上げた一声に、石若と田無は直ぐさま眉を顰める。一応警戒はしていたが、まさか本当だとは……とでも言いたげな顔で、石若は少々呆気にとられる。

「研究所に入ろうとしとるみたいです。石若さん見つからへんようにこの部屋から出えへんでくれ、とのことで!」

 そう付け加えた民生に、石若は溜息をつく。

「ハァ〜なんでこのタイミングで来んねん……朝の占い大外れやないかい……」

 よりによって自分が来ている時に来るなんて、とぶつくさ垂れる石若。どうやら朝見た星座占いが一位なことで、安泰な一日だと思っていた。だがそれに反してタイミングの悪すぎるこの事実に、分かりやすく落胆しているようである。

「視察団か?」

「すんません。そこまでは……非公式っぽい感じでしたけど」

 冷静に状況を整理する田無に、民生が報告をするが、まだ確実な情報は掴めていないようで、曖昧な返答となった。

「……あの研究は見せへんやろが……どこまで情報を開示する気やろな……」

 今さっき占いが外れてご機嫌斜めだった石若も、やっと頭の整理がついたのか、仕事モードに入る。

 そんな石若の様子を確認した田無は、タバコの火を消して、顔を上げた。

「民生、引き続き偵察。巴にも伝えたってや。お前らならまだ新人で顔が割れてへん」

「了解です。田無さんは?」

「俺は逃げ道を確保しておくわ」









 場面は切り替わり再び蒼啓一行。研究員や警備員に気づかれることなく、複雑な造りの研究所内をスニーク。

 研究所と一口に言っても、ここはまだ深部ではないようだ。観光客用の見学ルートから一歩踏み込んだ、関係者以外立ち入り禁止の施設であるが、まだまだ表層に過ぎない。

 世界線移動の研究は、非公開の極秘研究であるため、その設備は研究所の最深部にあるだろう、というのが八方財閥の調査員の調べで分かったことだった。研究所の表とは別に、深部なる独立した施設があるらしいのだ。研究所の大まかな地図は手に入れたが、深部の情報までは確保できていない。だから、そこから先は現場で調べ調べ進んでいくしかない。そのためにはまず深部へ通ずる道を探し出さなければならないが、それを探し出せたとしても、セキリュティは敷かれているだろう。それを突破するにはどうしたら良いか。天下の八方財閥でもそこまでは調べ尽くせなんだ。

 というわけで今は深部に繋がる通路を探すため、そのセキリュティを突破するために、管理室へ向かっている。表の施設の管理室は、情報にあった。調査員たちもそこまでは入り込むことができたそう。しかし何か知っていそうな職員はいたものの、これが口が堅すぎて。同僚に扮した調査員にも機密を漏らさず。しかし調査員は怪しまれるのを避けるため、実力行使で吐かせることはしなかった。北日本の最重要機密に、荒く踏み込むリスクは負えんということで、その役目は当日の作戦部隊の夢名と政に一任することとしたらしい。よしんばその職員が口を割らなかったとしても、夢名と政はその場判断で動けるため、即日の作戦完了を目指すことができる。しかし裏を返せば、その日中に作戦を完了しなければ、作戦は限りなく難しいものとなるだろう。後に越すことで研究所の警戒は高まり、北日本の機密に触れたという事実は国の中枢に広がってしまう。そうすれば北日本も本腰入れて侵入者の情報を洗うだろうし、それが東日本の人間だと分かれば国家間の緊張になる。とどのつまり一行は、なるべく正体不明のまま、一日で作戦を完了しなければならないのだ。

 こんな作戦はまどろっこしい。自分の世界線でない世界のことなんて、どうなろうが知ったこっちゃない、という意見もあるだろう。しかしそこは蒼啓たちの人の良さ、仲間である沙生の住む世界線なのだから、部外者の自分たちがあまり掻き乱すことはしない方がいいだろうと、皆その方針に同意した。最初から仲間にも冷たい態度を取り、元の世界に戻ることを第一に考える逸石でさえ、沙生や八方財閥には、世話になった借りを感じて、思いのほかあっさりと了承した。

 現在時刻は12時26分。先程からあちこちで足音がパタパタと聞こえる。丁度昼飯時。人が入れ替わりやすい時間帯だ。

 一行は研究所の管理室の様子を窺っていた。廊下には丁度目の高さくらいの場所に、横に長い窓がついていて、そこから中を盗み見る。管理室には職員らしき人影が3つ。そのうちの2人が何やら荷物を持って、部屋を出て行こうとしている。

 そこで一行は、二手に分かれることにした。一方は管理室に突入し、残った職員1人を捕えて管理室を抑える。もう一方は、出て行った職員2人を追う。出て行く2人のうち、1人は、情報にあった、深部について“何か知っていそうな”職員。その職員がこれから深部へ向かえば僥倖。深部へのルートを知ることができる。だが、深部へ入れるのはごく一部の職員だけだろうし、そのためのセキリュティもあるはず。だから管理室も一緒に抑えることが肝となる。セキリュティを無効化するなり上書きするなり、何か対策をしなければ一行が通れる保証はない。

 管理室制圧のA班は、蒼啓、ズイ、行雲、逸石、政の5人。職員の尾行をするB班は、流、疾風、夜行、石華、夢名の5人。戦力は五分五分になるようにしたが、A班はなんとなく戦闘向き、B班は隠密向きといった編成だ。

「じゃ、後で合流ね」

 B班を率いる夢名はそう言って、他4人もそれに追随。管理室から出てきた2人の職員の後を、B班は尾けていく。

 職員とB班の姿が見えなくなったところで、A班はまず政が動く。静かに管理室の扉を開け、体勢を低くして、中にあるデスクの陰に隠れる。

「?」

 残った1人の職員は、扉が開いた気配を感じ取ったようだが、誰もいないのを見て首を傾げると、また作業に戻った。

 その隙に部屋の中をさっと見回し、目に付いた監視カメラに向かって政は銃を向ける。

 ヒュッとごく僅かに弾丸が風を切る音がしたと思うと、パリィンと大きな音がして、監視カメラは壊れた。またその残骸が床に落ち、ガシャン!という音と共に破片が床に散らばる。

「!?」

 職員がその音に気づき、音のした部屋の隅に慌てて目を向けた。

 職員の視線を誘導した政は、隙を突いて職員の背後にするりと入り、職員に銃を突きつける。

「声を出すな。手を挙げろ」

 腹の底に響くような低い声で政が職員に指示すると、職員は後頭部に感じる硬さに、サッと血の気が引いたのか、大人しく言うことを聞いた。

「OK。そのまま歩け」

 職員の動きを封じた政は、廊下の窓から見えない位置まで移動するよう、職員に促した。廊下の窓の視界から外れる間際に、政は廊下で待機している蒼啓たちに向かって合図した。そうして中の2人が窓の視界から外れると、合図を受け取った蒼啓たちは管理室に入り、合流。外から開けられないように鍵を閉め、蒼啓たちも窓から見えない位置へ移動する。

「コイツを縛るから、誰か手を貸してくれ」

 政がそう言った。すると逸石が先に出て、手際よく職員の両手と両足を縛り、床に座らせる。なんか妙に手慣れてるな……と蒼啓は思いながら、管理室の内部を見渡した。

 管理室には、夥しい程のモニターと制御盤、そして何か分からない機械類。モニターに映っているのは監視カメラの映像だろう。映る場所は、観光客のいる見学スペースや、先程通ってきた内部の道。割と見覚えのある場所ばかりが映っていたため、やはりここの管理室は研究所の表層担当なのだろうと結論付ける。

「きっ、きみたちは……何者かねっ」

 ふん縛られた職員は、未だ政に銃を突きつけられているにも関わらず、果敢に問いかけてきた。

「オイコラあんま喋んな。聞かれたことだけ答えろ」

 直ぐさま政は職員を制する。その口調の荒さはどうにかならんのか……控えめに見てもチンピラテロリストだ。そして、今度は政が質問をした。

「ここは研究所の“表”を管理しているな?モニターの映像は全て表層のものだ。ならこの部屋を監視していたそのカメラの映像はどこに送られる?」

 “そのカメラ”と言いながら、政は先程撃った監視カメラにチラリと目を向けて言った。確かに、ここは管理室で、研究所中の監視カメラの映像が届くようだが、その管理室にも、監視カメラがあった。カメラを撃つ前に、この部屋のモニターにはそれらしき映像は映っていなかったのを、政はきちんと見ていた。もっと言えば、先程カメラを撃ったことで映像が途切れたモニターは1つも無かった。つまり、この部屋の映像はまた別の場所で管理されているということだ。

「答えろ」

 政が急かすと、今までたじろいでいた職員は恐る恐る口を開いた。

「し、深部の管理室、です……」

 “深部”という言葉に、皆分かりやすく反応した。

「深部とはどこだ?どこから行ける?」

 今度は逸石が職員に問う。絶対零度のような声色に、職員が口を開くまでの静寂が、一層長く感じる。……戦闘員である政は兎も角、なんで逸石までこんな様になるのだろうか。尋問に慣れているのか、表情を少しも変えず、淡々としている。逸石さんの謎がまた増えたな、と蒼啓はぼんやり思っていた。

「し、知り、ません……僕っ、は深部への通行許可証をもらって、ない……から」

 やはりこの職員はハズレか。この状況で嘘をつける程豪胆ではないように見えるし、この職員から得る情報はこれ以上無さそうだ。

「夢名!こっちはハズレだ!」

 インカムで夢名に状況を伝える政を横目に、逸石が手早く職員の口をテープで塞ぎ、立たせて手頃なロッカーに押し込む。その慣れた手つきがやはり不思議だ。

「ここを出るぞ。監視カメラに俺たちの姿は映ってないとは言え、映像が途切れたなら怪しんで人をよこすかもしれねえ」

 政は管理室に入った時、ステルス装備を着けていた。だから監視カメラには映っていない。監視カメラの映像は、銃を発砲した政の姿すら映さず、突如映像が途切れたようになっているはずだ。その政の言葉で、A班は管理室を後にし、政の端末に送られてきた夢名による尾行ルートを確認。それをなぞるようにしてA班はB班と合流する……。

「政!追尾していた2人のうち情報にあった1人は深部らしき場所の入り口まで来たぞ!」

 突如政のインカムに、夢名からの報告。

「ある研究室の奥にゲートのようなものがある。そこを通っていった!今地図を送る」

 今度は政の端末に通知。何やら送られてきた画像の地図に赤いピンが立っている。そこで夢名たちは様子を窺っているらしい。

 A班はB班との合流を急ぐ。







 B班の夢名は、職員がゲートを通る様子をしかと目に焼き付けていた。職員は、首から下げている名札にしては分厚い何かを、ゲートの装置にかざしていた。多分あれが政の言っていた通行許可証だろう。次にゲートに来た人間からそれを奪おう、と夢名たちは話し合った。

 しかし許可証を奪おうとすれば、見えない何かと格闘する職員がカメラに映る。それを見られては怪しまれるだろう。そのため、夢名は銃を上に向け、この研究室に3つある監視カメラを撃ち抜いた。これもやはりステルス装備を着けた夢名たちを映すことはなく、突然映像が途切れたようになっているだろう。

 すると廊下から話し声が聞こえた。B班の皆は息を潜め、訪問者を待ち構える。

「(今!)」

 研究室に入ってきた人影の背後に回り込み、夢名はすかさず銃を向ける。

「オイ」

 夢名の前には憎き腐れ縁の顔。

「チッ、なんだお前か」

 政に向けた銃を下ろし、舌打ちをする。

「テメエGPSあんだから俺がどこにいるかぐらい分かんだろーが!相手確認してから襲え!」

「うるさいうるさい。お前だってよくやるくせに」

「ハア!?」

 無事合流できたそばから恒例の口喧嘩が始まりそうな雰囲気に、蒼啓は口を挟んだ。

「通行許可証はこっちにはありませんでした。そっちはどうですか?」

 冷静な蒼啓の問いかけに、夢名は一旦、ふーと息をついて蒼啓に目を遣る。

「最初の職員からは取れなかったから、次にここに来た奴から取ることにした」

「ハア!?持ってねえのかよ!?なんで最初の奴から奪わなかったんだよ!?」

 蒼啓がした質問なのに、答えを聞くなり夢名に怒鳴り散らす政。その政の売り言葉に、夢名も買い言葉で反論する。

「この部屋の監視カメラが全部把握できていなかったからだ!監視カメラに突然気絶する職員が映ったら怪しまれるだろーが!」

「それは先にやるべきことだろうが!コノ鈍間愚図!」

「だから今やったんだよ!これで次来た奴から奪えばいいだろ!!」

「次の奴が来る前にカメラの映像怪しんだ奴らが来たらどうすんだよ!ゲートの前のカメラなんて重要設備なんだからすぐに人寄越すに決まってんだろ!」

「それはそれで来た奴から奪えばいいだろーが!!頭固すぎだろお前全部骨かよ」

「何人来るか分かんねーだろ!警備員わんさか来たらどーすんだコラ対応しきれねーだろ!!」

 やっぱり喧嘩になってしまった……

 蒼啓や夜行、疾風はどうにか止めようと2人の周りをオロオロし、石華は「もー!止めてください!」とぶんすか起こっているし、ズイと行雲は何やらニコニコして2人で話している。逸石は呆れているのか夢名と政には目線を遣っていない。流は……

「おい」

 流の声に一同が流の方を向く。

「これか?通行許可証」

 流の左手には、先程職員が持っていた、分厚いカードのようなもの。そして、流がもう片方の手で後ろ手に持っているのは、気絶した職員の襟首。流の足下には先程とは違う職員が眠っている。

「え」

「今此方へ向かってきた職員がいたのでな。不意打ちで眠らせた」

 そう言って流は右手で握っていた職員の襟首を離し、スタスタと夢名と政の方へ向かう。

「これで通れるだろう??」

 ぼすっと許可証を夢名の掌に乗せた流。白々しい態度というか何というか。さも当たり前のように陰で事を進める流は、流石忍とも言うべき活躍を見せた。

「あ、ありがとう……」

 思わず夢名も礼を言ってしまった。

 その間に流は眠らせた職員を担ぎ、デスクの下に仕舞っていた。慣れたような一連の動きを、皆無言で見送った。

「おし、じゃあ行くか」

 逸石の号令により皆平静を取り戻し、ゲートの先、研究所の“深部”へと足を踏み入れる。

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