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Parallel Lab  作者: 古今里
15/18

間話 尾羽打枯らす(第一部完)

蒼啓たちが相手にした研究所の、そしてシュウの過去。多くの秘密を抱えるシュウは何故このような行動を取ったのか。研究所は如何にして今の統治構造となったのか……。

 その研究所の研究は、人道的か非人道的かで言えば、後者だった。

 研究所は滅びゆく地球と人類を救うために、日々研究に勤しんでいた。

 研究所のトップは博士と呼ばれ、その博士の意向次第で、研究を好き勝手進めることができた。

 シュウとヒョウが生まれた時代の博士は、己の好奇心に実直な人で、名をハカリと言った。

 ハカリは「人類を救う」という表向きの看板を掲げ、その裏で自分の好奇心の赴くまま、様々な研究に手を出していたが、そのほとんどはやりっぱなしで、飽きたら放置。完成やゴールまで漕ぎ着けるものは多くなかった。

 そんな中でも、ある時ハカリが熱中していたのは、人造人間の開発だった。

 ありとあらゆる生物のDNAを集め、遺伝子の研究を進めていたハカリは、DNAに情報を書き込み、それを身体に反映させることに成功した。そのDNAを元に人造人間を作り出し、これを人間の完全体と呼んだ。生まれた人造人間のDNAには、欠損した身体を復元するための身体のありとあらゆる情報が書き込まれ、またそれがDNAから復元を始めるようにプログラムされていた。

 この研究により生まれたのが、2人の人造人間、シュウとヒョウである。2人はほぼ同じDNAを持つクローンとして生まれた。

 2人が生まれてから、ハカリはそれまでの熱中ぶりはどこへやら。2人の育成は部下に任せ、自分はまた別の研究に没頭していった。しかし、ハカリとてやっとの思いで生み出した2人に興味を失ったわけではなかった。2人の育成スケジュールはハカリの方針により決まり、それを忙しいハカリに代わり部下が請け負っていたのだった。

 実はこの時ハカリは、近年好奇心に従って行ってきた研究を、「人類存続のためにならない」と政府に諌められ、今度は政府から持ちかけられた「人類のためになる研究」をする羽目になっていた。

ハカリは熱しやすく冷めやすい性格で、「人類のための研究」も最初は渋々行っていたものの、すぐにその中に自分の好奇心を刺激する対象を見つけ、没頭していった。

 一方でハカリと離れて育成されていた2人は、まさに地獄のような育成スケジュールで、完全な人間となるべく教育されていた。

 まず人造人間に睡眠は必要ないため、睡眠の時間はなく、24時間みっちりスケジュールが仕込まれていた。午前0時から正午までは座学。医療知識や政治・経済の仕組み、日本と世界の歴史に外国語などの学問分野から、日常生活におけるちょっとしたトリビアまで、ありとあらゆる知識を詰め込むべく、学習が行われた。正午から午後12時までは実戦。歴史に残された数多の戦闘技術を用いた戦闘訓練から、10分でできる家庭の味方肉じゃがの調理まで、ありとあらゆる実戦で経験を積んだ。

 しかしそんな人間の限界に挑むようなハードスケジュールの中でも、2人は孜孜汲汲として学習と訓練に取り組んだ。2人はハカリに懐いていたから、そのハカリの期待に応えようと必死に知識と技術を詰め込んだ。

 だが……人造とは言え、普通の人間らしいところもあった。


「「やだーーーーーー!!!!!」」

 人造人間が生まれてから、2年が経ったある年の研究所。

 2歳にしては活発な動きと流暢な日本語で、シュウとヒョウが叫ぶ。2人はお互いにハカリの袖を引っ張って駄々をこねていた。

「今日こそ博士に訓練の成果を見せるんだああああああっ!!!ヒョウは勉強でしょ!?勉強なんか長くなるんだから後でいいの!!!」

「そんなこと言って!シュウは延々訓練する気でしょ!?私だって博士に見てもらいたいの!シュウは別の人と訓練してよ!」

 背の低い2人の視界には、天井を見上げているハカリの表情は窺えない。

 ハカリが何も答えなかったせいか、2人の袖を掴む力がさらに強くなる。

「別の人じゃダメなの!博士に見てもらいたいの!私がどれだけ強くなったかを!ねっ博士!興味あるよね!私の成長!」

「私だって!博士に解いてもらいたい問題があるの!博士もぜったい興味あるよ!ねっ博士!」

 シュウとヒョウはどちらも食い下がって譲らない。お互いにメリットを提示して気を引こうとするのはハカリ譲りか。

「「どっちと遊ぶの!?」」

 シュウとヒョウが詰め寄り、ハカリにぐっと顔を近づける。

 やがてハカリは天井を見上げていた顔を下げる。そこには満面の笑みがあった。

「うん。どっちも興味ない」

 ニッコリとした顔と噛み合わない冷酷な返答に、シュウとヒョウの目が点になる。

「君たちのデータは部下が取っているし、私は私の研究で忙しいから!じゃ!」

 そう言ってハカリは取り巻きと共に去って行った。

 取り残された2人はしばらく頭真っ白になりポカンとしていたが、

「びゃあああああああああ!!!」

と、ヒョウは泣き出し、ぎょっとした顔でヒョウを見たシュウは、

「ふん!」

とふて腐れてそっぽを向き、泣き叫ぶ片割れに愛想を尽かして訓練場へ走っていった。



 ある程度の年齢になってくると、自由時間が与えられたが、その間も2人はそれぞれ興味のある分野での学習が求められた。その自由時間を使って、シュウは戦闘技術を、ヒョウは医療技術を専門的に学んだ。

 シュウもヒョウも、お互いに最低限の(と言っても常人より遥かに高い)知識と技術を持っていたが、シュウは戦うことを、ヒョウは研究をそれぞれ好きになっていった。好きこそものの上手なれと言うだけあって、お互いの好きな分野においてはお互いを上回る結果となった。ハカリはその様子を見て、性合近し、習い相遠しとは本当だと言っていた。同じDNAを持つクローンでも、育ち方により全く違う人間になることが証明されたのだと、感心していた。

 その過密スケジュールが続くこと、25年。シュウとヒョウは25歳になり、肉体も全盛期を迎え、やがてハカリの図南の翼とも言える一大計画に身を投じることとなる。


「準備できたか?」

 支給された衣服に着替え、必要な物資を持った2人を見て、ハカリは最終確認をした。

「はい」

「できました」

 シュウとヒョウの声を耳に入れたハカリは、「よし!」と、車掌が出発確認するように、人差し指で2人を指して再度確認するように短く声を上げた。

「この25年で君たちは完全体に近い人間となった!だがまだだ!まだ君たちには教えていないことがある!」

その言葉に、シュウとヒョウは怪訝な顔をして顔を見合わせる。

「それは人間の核……人間がする行動の核、感情の核となるものだ。それを学んでこい。たっぷりと時間を掛けてな!」

 そこまで言ってから、ハカリはすうっと息を吸い、両手をバッと広げ、言い放つ。

「千古不滅のその命、存分に発揮してくるがいい!」




 その数週間後。

「あーあ。つまんねえなあ。また研究所に逆戻りだよ。しかも今度はやること無いし。博士の研究失敗だったしなあ」

 ソファに寝転がり、左手で本を身体の上に広げ、右手で自分の刀を抜いたり収めたりしながら、シュウはぶつくさと文句を垂れる。

 その堕落したシュウの様子を横目に、空中の液晶と繋がるキーボードを叩いていたヒョウが、そのシュウの言葉に顔を顰め、柳眉を逆立てる。

「失敗じゃない。想定された結果の一つだ。履き違えるな」

「あーそうだな。すまんすまん」

 怒気の籠ったヒョウの咎めにも、ちっとも物怖じせず、呆れるように飄々とした声を出すシュウ。

「でも私たちの役目は終わったじゃんか。博士が何も命令してこないのが全てだろ」

 シュウは続けて、そう言った。顔色一つ変えず、それどころか目も読んでいる本から離さず、刀を玩ぶ 左手も止めることなく、さらっとヒョウに言葉を返す。

「……」

「博士にとっちゃ私たちはもう用済みってわけだ」

 ポイ捨てするような軽さで、それこそポイッと言葉を投げるシュウ。しかしそんなシュウの心ない言葉も、ヒョウの心に刺さることはなく……。

「まあお前はそうだろうな。ちっとも博士の研究を手伝わないじゃないか」

 シュウは自分よりヒョウの方が博士に懐いていると知っていた。だから少し意地悪な言葉を選んでみたのだが、それをするりと躱された。その不満をぶつけるかのように、シュウは子ども染みた口調でぶつくさ言う。

「だってデータ見続けるのつまんないし。何も動かない。感じない。面白くない」

 三段活用のように怒濤の文句を垂れる。また、続けて、

「私は身体を動かす方が好きだ。それに、人と話すのも好きだ。ずっと画面とにらめっこは性に合わん。……お前こそずっと1人で研究してないで、もっと人と話せよ」

 お節介染みた善意をシュウはヒョウにぶつける。しかし、

「お前と話してるじゃないか。充分だろ」

ヒョウには効果がないようだ……。

「いやもっと研究員とかとさ。人の話を聞くのは楽しいぞ?面白い奴紹介してやろうか」

「要らん」

 ヒョウは自分の価値観を固持するように、一歩も譲らない。

「……ハア。お前どんどん感情の振れ幅がなくなっていくな……そんな木の股から生まれたような態度だと人寄ってこないぞ」

「別に問題ないが?」

「昔はもっと可愛げあったのになあ……博士が構ってくれなくて泣いたりして」

「おい」

 片時もキーボードから手を離さず、データから目を離さず、片手間に会話を続けていたヒョウが、やっと顰めっ面してシュウの方を向いた。怒っている……程ではないが、研究を邪魔された若干の苛つきと、自分の過去を掘り下げられた気恥ずかしさに、顔を顰めているのだ。

 ヒョウが珍しく反応したこのチャンスを逃すまいと、シュウは調子に乗って言葉を続ける。

「あんなに泣き虫だったのが、今じゃこんな無味無臭の機械みたいになっちゃってさあ……悲しいぜ。そんな風に育てた覚えはなくってよ!!!」

「何のキャラだお前」

 呆れた顔でまたシュウから目を移し、データに戻りそうになるヒョウに、シュウはさらなる追い打ち。

「きっと博士だってそう言うよ」

「……」

 “博士”という言葉にヒョウはピクリと反応し、固まった。

「博士は私たちに何を期待していたと思う?……“完全なる人間”だよ。身体の完成度だけじゃなくて、内面もね。知識だけじゃないぞ!人としての倫理観とか、常識とか、それを常備して、使えること。それを博士は私たちに与えたかった」

 シュウは目を閉じ、自分の胸に手を当てて、呪文のように唱える。その安らかな顔は、仏のように見えた。

「前に、博士に言われたんだ。“常に情報を吸収し、歩み寄って、理解できる人間になりなさい”とね。その時は意味を理解できていなかったけど、その後気づいた。博士は、完全なる知識を持った人間なら、歩み寄ることも、違う価値観を理解することもできるだろうって、そう思っていたんだろう。異国の血の通った博士の、説得力ある言葉だった」

 一人満足そうに笑みを浮かべるシュウの方へ向いていた、ヒョウの目線が、落ちる。キーボードを叩く指は止まったまま、その指先に視線が合わさる。

「ならば私は……それができない私は……出来損ないというわけか?」

 俯き、悲しそうな声を絞り出すヒョウの姿に、「あ、やべっ」とシュウは我に返り、慌てて口を開く。

「いや。そうじゃないさ。私とヒョウでは確かに性格は違うが……。お前のような人間も、実在する。人間は多種多様だ。博士の期待した人間像は一つじゃないだろうさ」

 早口でフォローするシュウの言葉は、理解できた。

「……そうか」

 ヒョウは目を閉じ、何か思う素振りを見せながらも、またデータを見据えて指を動かし始めた。もう話す気はないようだった。


 またある時は、久しぶりに博士に呼ばれて、研究室で一緒に作業していた。


「えや!きーだよォォォォ!!」

「!?」

 突然ハカリが叫びだし、ぎょっとした2人が一斉に振り向く。

「ふだにあっから追加したっけんど、ちょーろぐになんねーよ!」

 独特の訛りで狂乱するハカリにより寄り添い、二人はハカリを宥めようとする。

「博士博士、方言出てるって」

「落ち着いて。はい深呼吸ー」

「フーッフーッ」

ハカリは言われるがまま、息を整えてから、がっくりと肩を落とす。

「何があったんだよ」

「博士?」

 まあ何か不具合でもあったのだろうと推測しつつ、またか……というような呆れ顔で2人は耳を傾ける。

「もっと早く気づいてれば……」

 そう言って、その場で蹲るハカリの言葉からは、方言が抜けており、やっと落ち着いたかと2人は安堵の表情を見せる。

「どうしたんだよ博士」

「説明してくれなきゃ分からんぞ」

 ハカリが方言が出る程取り乱すことはよくある。その度に周りの人間がフォローしないと、ずっと訛り続けるのだ。小さい頃からその様子を見てきた二人はすぐに行動した。

「……在庫あっから、使ってもいー思って、材料追加したけんど……」

「また方言出てるし」

「なんかミスしたのか?」

 ……まだハカリは落ち着かないようだ。

「一向にいー結果出ねえっぺ!!どーすんだぁ!??」

やれやれ、といった様子で二人は顔を見合わせるしかなかった。


 そんな何気ない、退屈な毎日が続いていた時、あの事件が起った。


 いつものように、ハカリは2人の定期点検をしていた。服を脱いだまっさらな状態で、カプセルに入り、その中でデータと実際の身体情報を照らし合わせる。

「次、ヒョウ」

 先にシュウの点検が終わり、カプセルから出てきたシュウは、部屋の奥で本を読んでいたヒョウに、データに没頭するハカリの代わりに声を掛ける。

「おー」

 ヒョウはパタンと本を閉じ、服を脱ぎ始める。きっちりと角と角を重ね、座っていた椅子の上に服を畳んで置く。

 それと対照的に床に脱ぎ散らかされた服を、シュウは拾って身につけていく。


 ドォン!!!!


 何の前触れもなく大きな破壊音が耳に届いたかと思うと、目の前が真っ暗になった。そして、自分の身体の感覚もなくなった。辛うじて背中が床に接触していることは分かる。だが胴体の表の感覚と、四肢の感覚が途切れ途切れにしか脳に届かない。負傷している、とそう瞬時に判断し、すぐに身体を復元する。するとすぐに感覚が戻ってきた……が、如何せん視界がまだ暗くて身体の状態を確認することができない。

 煙……煙か?それとも粉塵か?瞳には舞い上がった破片やら何やらが映り、先程の音も相まって、ああ爆発したのだと理解した。

 そこまで理解して、シュウはおもむろに立ち上がった。無意識に握りしめていた手の中には、着ようとしていた服の切れ端。爆発で木っ端微塵になってしまった。裸のまま、周囲に目を向け、ぺたぺたと少し歩く。

 ピチャリと足下で音が弾けた。足の裏が何か液状のものを踏んだ気がする……が、すぐにその正体が分かった。

「機械が壊れたのか……」

 カプセルの中に満たされていた液体が、流れ出ているようだ。破壊されたカプセルはまだ見えないが、この少し変な臭いのする液体はまさしくそうだ。ということは……

「(点検していたヒョウは無事……だろうが、博士は!?)」

 ハッとして、まだ煙の晴れない空間を、研ぎ澄ました五感で探し回る。

 足の裏に破片が突き刺さるのも無視して、まだ暗い煙の中をシュウは歩き回る。死ぬ危険のない人造人間と言えど、痛みはあるし、恐怖も感じる。視界の確保できない中で動き回ることに恐怖を感じるのは、ごく自然の感覚だった。

 ドコッと、部屋の中を動き回るシュウの足は何かを蹴った。

「ヴ……」

 蹴った何かが音を発した。屈んでそれをよく見てみると、灰色の煙の合間に肌色が見える。

「おい、おい。ヒョウ。起きろ」

 すぐさまその人間の身体を仰向けにし、揺さぶって覚醒を試みる。

 人造人間の点検では、溶液の満たされたカプセルに入るが、その中では人造人間の全ての機能は停止している。コンピュータでいうシャットダウンの状態であり、その状態は、カプセルから出ないと解除されない。今ヒョウは半ば強制的にカプセルから弾き出された。覚醒に特殊な操作などは必要なく、カプセルから出れば完了するはずだが……?

「ヴヴ……」

 くぐもった声を上げながら、徐々に瞼を開ける。しかし目を開けても視界が晴れないことに、ヒョウは怪訝な顔をした。

「何だ……?何が起きた?」

「爆発だ。それもかなり大規模な。換気システムもやられたみたいだ。煙がまだ晴れない」

 怒濤の勢いで事実の羅列を述べつつ、辺りの様子を窺うシュウ。

「は……?爆発?なんで……」

「分からない……何が起きているのか……」

上半身を起こしたまま呆気にとられるヒョウをよそに、シュウは立ち上がり、部屋の中を注視する。

「博士はどこだ……博士は……」

 シュウの呟きにヒョウもハッと我に返り、

「博士っ!博士!」

と焦りと嘆きの入り交じった声で博士を呼び、取り乱して部屋を探し回る。

 ビチャッとヒョウの素足に何かが跳ねた音がして、ヒョウは顔を強張らせ、恐る恐る足下を見る。

しかし目視する前に漂う、鉄のような臭いで、もう察してしまった。

「……!博士っ!!!!」

 泣き崩れてしゃがんだヒョウの視界には、血に染まった床と、下半身と片腕の吹き飛んだ人間の欠片。その周りに散らばる四肢の肉片。それが誰のものかは、確認するまでもなく明白だった。

「博士……!」

 ヒョウの元へシュウも駆けつけ、博士の遺体を確認する。博士の身体に刺さっている破片を調べ、状況を精査する。

「この破片……匂いがしないな……爆薬の匂いすらない。まあそんなもの大量にあれば私たちがすぐに気づくが」

これはどうやら事故ではないようだ。設置してあったのは新型の爆弾だろうか?この規模を吹き飛ばす程の爆弾を、私たちや博士に気づかれず、この研究室に仕込むことができるとしたら……犯人は身近な人間かもしれない。

「ヒョウ、お前は博士を頼む」

「……お前はどうするんだ……?」

 まだ博士に起きた悲劇を飲み込めないヒョウは、博士の亡骸にそっと手を添えながら、泣きそうな顔で俯く。その悲しい背中に目を向け、決心したように踵を返して部屋を出て行った。


 結果から言えば、この事故は当時ハカリ博士の腹心であった表裏という人物の仕組んだものであった。表裏は当時別の研究チームのトップだった我田の、ハカリを殺し、自分が博士になるための計画を遂行するために、我田に唆されていたらしい。そして表裏は研究室に爆弾を仕込み、シュウとヒョウ、それからハカリが一緒になる定期点検のタイミングで、計画を実行した。

 我田はハカリの行っていた研究のうちの、ある二つの研究を盗もうとしていたらしい。それが、「人造人間の研究」と、「パラレルワールドの研究」だ。実際、表裏はハカリ博士の研究を少しずつ持ち出していた。そして極秘のものまで、残りの全てを持ち出すため、邪魔なシュウとヒョウ諸共爆発で吹き飛ばそうとした。三人を殺した後で、実質ナンバー2である自分が極秘の研究さえも持ち出し、我田の元で今よりもっと確立した地位を手に入れるはずだった。

 シュウはそれを表裏本人から聞き出したのだが、もちろんシュウとヒョウはそんなこと許すはずもなく……。その場で表裏を始末しようとしたのだが、それができなかった。シュウたち人造人間は、研究所の人間に危害を加えられないよう、プログラムされていたのであった。そのプログラムの詳しい発動条件は定かではないが、殺意や害意などの大きさ、向きなどを体内で分析し、一定のラインまで行くとそれが発動するようである。その時、シュウは躊躇うことなく表裏の首を刎ねようとしたため、プログラムが発動してしまい、殺すことができなかったようだ。

 表裏を殺せないと分かったシュウは直ぐさまある策を思いつき、早急に行動に移した。まずその場で表裏を攫い、殺せない表裏を研究所内の施設で冬眠させる(これもハカリ博士が行っていた研究の一つであった)。その後、ヒョウに表裏になりすましてもらうことを提案。ハカリ博士の残りの研究を守るため、ヒョウも仔細を理解し、これを承諾。表裏になりすましたヒョウが我田と接触し、計画が半分成功したことを伝える。半分と言うのは、ハカリとヒョウは爆発で死んだということ。しかしシュウは生きており、自分の裏切りに勘付いているということ。そして、ハカリの研究を開示すれば、シュウが自分を殺すだろうということ。この3つを伝えた後、表裏(に扮したヒョウ)は、シュウを殺して自分の身の安全を保証できれば、研究を開示すると我田に告げた。

 我田も我田で邪魔なシュウを始末できなかったために、その矛先が自分に向いてはたまらないと、その契約を飲んだ。

 その後研究所はトップを我田とし、博士となった我田は様々な研究を進めていった。表裏が持ち出した研究の中で最も大きなものが、「パラレルワールドの研究」であったため、その研究と、我田が元々行っていた「改造人間の研究」を並行して進めた。それこそが、今蒼啓たちが巻き込まれた、「他の世界線の人間のサンプルから、宇宙のどんな環境にも適応できる人間を創り出す研究」であった。ハカリから奪ったパラレルワールドの発見・解明・移動の仕組みを利用し、自分の思い通りの改造人間を創り出す……。

 その研究が進められる一方で、ヒョウは表裏として潜伏を続け、シュウはある時あえて我田の前に現れ、「必ず後悔させてやる」と言い残し、研究所を出た。そして、蒼啓たちもご存じの通り、仲間を集めて研究所を潰すという計画を立てたのであった。

 その計画は蒼啓たちの活躍により、ひとまず無事完遂された。研究所の現博士である我田の一派を潰すことは達成したのだが、肝心の我田は別の世界線へ逃亡。しかも世界線移動装置を破壊していくというオマケつきで。

 シュウとしては、研究所を取り戻し、蒼啓たちを無事送り出した時点で既に目的は達成しているのであるが、シュウはあることが気がかりだった。我田が逃げたことで、他の世界線にまた同じような現象が起きるのではないかと。正直自分のいるこの世界以外のことなんてどうでもいいだろうと思うところだが、意外にも情に棹さす性格のシュウは、最後まで面倒見切らなければ気が済まないようであった。蒼啓に託された一徹のことも含め、自分がしてしまったことに対するけじめを、しっかりとつけねばならないと、シュウは心の中で取り決めたのであった……。

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