98 出発前
前回のおはなし:どうやら、レジーナは弟子と竜を戦わせたいらしい。
「ここは俺に任せて先に行けと~」の3巻が発売になりました。
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俺はゼノビアにも尋ねる。
「ゼノビアはどう思う? いいと思う?」
ゼノビアは学院長にしてアルティの師匠である。
学院の生徒たちの保護者でもあるのだ。
「ディオンがついていくならいいかな。ただしレジーナ。本当に気を付けてくれよ」
「わかっているさ」
ディオンは当代一の治癒術師。
水神の愛し子だ。
その回復魔法は死んでさえいなければ助けられるレベルである。
「俺もついていきたいんだけどなー」
「ミルトはお留守番で我慢しろ」
「わかっているさ。学院にゼノビア一人にするわけにもいくまいよ」
学院の近くに行くのならいいのだが、国境沿いの山脈は遠い。
飛竜でも数日かかるのだ。
救世機関の総本部でもある学院から賢人会議の全員が居なくなるのは避けたい。
いざというとき一人が動いても、一人が残るように二人は残しておくべきだ。
「じゃあ、さっそくみんなで明日にでも例の山脈に向かおう」
レジーナは嬉しそうだ。
俺はサリアの頭を撫でる。
「サリア。明日からまたお留守番になる」
「うん! わかった! あにちゃがんばってね!」
サリアはいつも通り聞き分けがいい。
「本当にごめんね」
「さりあはだいじょうぶだよ! るんるんもいるし!」
「わふ」
ルンルンが任せておいてくれと尻尾をぴんと立てていた。
「ねー。るんるん。いっしょにおるすばんしようね」
「わふ」
サリアはルンルンにぎゅっと抱きついた。
そして、人神の神霊のフィーは俺の懐の中で熟睡し続けていた。
先日、人神を降ろしたことで疲れているのかもしれない。
その後、ロゼッタたちへの連絡はレジーナたちに任せて俺たちは自室に戻る。
その日の晩、俺はいつものようにサリアと神獣たちとベッドに入った。
「あにちゃ」
「どした?」
「ねむれないから、ごほんよんで!」
「わかった」
俺はサリアのために子供向けの絵本を読んであげる。
簡単な文字なら読めるサリアは、幼児向けの絵本なら自分で読めるだろう。
だが、俺に読んで欲しいのだ。
絵本を読んでいる間に、サリアは眠ってしまった。
そんなサリアの頭を撫でる。
聞き分けが良くてもサリアは三歳の幼児。
きっと寂しかったのだろう。
そして俺はルンルンに言う。
「ルンルン、サリアをお願いね」
「はっは」
ルンルンは吠えずに、ぺろりと俺の顔を舐めた。
「いつもお留守番させてごめんね」
ルンルンは気にするなと言うかのように、尻尾をゆっくりと揺らした。
次の日、俺はサリアとルンルンを託児所に預けた後、総長室へと向かった。
総長室には、ロゼッタ、ティーナ、アルティがすでに揃っていた。
生徒たちは全員椅子には座らずに、姿勢を正して立っている。
俺も生徒たちの列に並んで立った。
俺が並ぶのを確認すると、レジーナは深く頷いて口を開いた。
「うむ。皆。よく来た」
レジーナは笑顔だ。レジーナの後ろにはディオンが立っている。
ゼノビアは、さらにその後ろだ。総長の椅子に座ってこっちを眺めていた。
「……それにしても、皆そんな装備で良いのか?」
レジーナは金属の鎧で全身を固めている。
顔を隠してはいないが、金属の兜もかぶっていた。
武器は身長より大きな巨大な両手剣を肩に担いでいる。
その上、大きな弓も背負って、腰には短剣を三本差している。
「一応、いつものように戦闘できる装備で来たつもりですわ」
ティーナが少し自信なさげに言う。
ティーナのことだ。しっかり装備を整えて来たに違いない。
だが、レジーナの重装備を見て不安になったのだろう。
気持ちはわかる。
「ふむ。ロゼッタはその装備で良いのか?」
「えっと。お師さま。あたしのできる限りの装備のつもりです」
恐らく「装備を整えて総長室に集合」という指示が出ていたのだろう。
「なるほどなぁ」
そういって、レジーナはロゼッタの装備を点検していく。
それを見ていたディオンも近づいて来た。
「ティーナさん、そのローブの下には?」
ディオンは自分の弟子であるティーナに対しても敬語のようだ。
「はい。お師さまに教えていただいた通り、鎖帷子を身に着けております」
「素晴らしい。ちなみに素材はなんですか?」
「ミスリルにしてみましたわ」
「それはいいですね。丈夫で何より軽い」
「ありがとうございます」
さすがはアルマディ皇国の皇女のティーナだ。
高価な装備を整える金銭的な余裕があるようだ。
それからディオンは、ティーナの杖や非常食などの携行品を確認していく。
そして細かく助言をしていった。
レジーナもロゼッタに色々教えているようだ。
一方、俺とアルティは、立ったままずっと待機だ。
アルティもすでに救世機関の一員。いちいち装備の指導など受ける必要がない。
だから少し暇だった。
神獣たちも暇だったのだろう。俺の太もも辺りにシロが一生懸命頭突きしていた。
装備の確認が終わった後、レジーナが言う。
「子供たちよ。これから訓練に向かう」
「「「はい」」」
「場所はバリドア王国とアルマディ皇国との国境にある山脈である」
「……まさか」
アルマディ皇国出身のティーナが目的地を聞いて目を見開いた。
「うむ。ティーナよ、そなたの推測は正しい。そなたたちには竜と戦ってもらう」
そう、レジーナは高らかに宣言した。




