75 竜との戦い
前回のおはなし:転移した先には竜がいた。
竜はゴロゴロと壁まで、咆哮しながら転がった。
「グラララアアアアァァ」
俺は竜を追撃するために間合いを詰める。
地面に這いつくばりながら、竜はブレスを放つ。相変わらず威力が高い。
だが、俺は速度を緩めない。
左手に魔力をまとわせて、ブレスを切り裂きながら走る。
そして、もう一度、俺は竜の顔を右手で殴りつけようとした。
竜は左手で、俺の拳を受けとめる。
「見事だ」
「ぐるるる」
褒めると、竜は嬉しそうに鳴く。
そして至近距離から、強烈な火炎ブレス。
同時に俺の拳を掴んで固定したまま、体をひねって尻尾を薙ぎ払う。
「うぉ!」
火炎ブレスを防ぐために張った魔力の障壁。
その障壁の薄い部分、横合いを強力な尻尾で殴りつけられたのだ。
しかも耐ブレスのための魔法防御に強い障壁に強烈な物理攻撃。
たまらず俺の魔力障壁が砕け散る。
即座に俺の全身が炎に包まれたところに、尻尾の打撃。
俺は吹っ飛ばされて、壁に激突した。
そして周囲は暗闇に包まれる。
「……うぃる。ツヨカッた。デモシンだ」
竜がぼそりと、どこか寂しそうにつぶやいた。
「お褒めの言葉ありがとう。だが、まだ死んでないよ?」
「……ナゼ?」
「魔力で体自体を覆っているからね。多少のブレスや打撃は大丈夫なんだ」
長い間は持たなくとも、短期間なら障壁なしでも耐えられる。
だが、服は一瞬で全て燃え尽きた。
俺に残されたのは、抜身の短剣と、魔道具である魔法の鞄と通話の指輪のみだ。
鞘が燃え尽きたせいで、魔法灯がかかった短剣が床に転がって煌々と周囲を照らす。
「靴まで燃え尽きちゃったな。今度から着替えはちゃんと用意しとこう」
地味に一番きつかったのは、革で自作した短剣の鞘が燃え尽きたこと。
二時間ぐらいかけて作った初めての革細工だ。思い入れが深かったのだ。
とはいえ、仕方のないことだ。竜を恨むのは筋違いである。
「さて、決着をつけようか」
「ウム」
それからしばらく、全裸の俺は竜と激しく戦った。
俺は拳を使い、蹴りを繰り出し戦っていく。
竜はブレスと尻尾、牙と爪を駆使する。
竜の攻撃を全てしのぎながら、攻撃を加えながら、およそ五分が経った。
「そろそろ終わらせるか」
俺は魔力の障壁で、疲労しきった竜を上から強引に押さえつけた。
「ぐるるるるる!」
しばらく暴れたが、抜け出せないと悟ると、
「……うぃる。ワレのマケだ」
そういって、竜は大人しくなった。
俺も非常に疲れていたので、魔力の障壁を解除して短剣を拾うと、竜の隣に腰を下ろす。
全裸なのでお尻がひんやりとした。
「いい戦いだったね」
「ウン」
竜は素直にうなずいている。
「竜はどうしてここにいたんだ? レジーナに連れてこられたの?」
「リュウ、ジャナい」
問いには答えず、竜はそう言って頭をぶるぶると震わせた。
竜と呼ばれるのが嫌なのかもしれない。
「だが、名前がないんだろう?」
「ナマエ、ホシい」
「そうか」
「うぃる。ツケて」
「……俺でいいのか? それに名前は後でじっくりと……」
「うぃるガイイ。イマがイイ」
そこまで言われたら、俺が自分で考えて名前を与えるべきだろう。
「うーん……」
「…………」
竜はきらきらとした期待のこもった目で、こちらを見つめている。
俺は竜のことを改めて眺めてみる。
魔法灯の光に照らされて、鱗が深紅に輝いていた。
「そうだなぁ。ルーベウムとかどうだ? 気に入らなければまた考えるが……」
深紅を意味する古代の言葉だ。
「ルーベウム! 我が名はルーベウムである!」
そして「グラアアアアアアラアアラアア!」と大きく咆哮する。
同時に少し魔力を吸い取られたような不思議な感覚がした。
「……よくわからんが、言葉が急に流暢になったな」
名づけの効果にそのようなものがあるのだろうか。
あとで調べてみようと思っていると、ルーベウムは嬉しそうに俺に鼻先をこすりつけてくる。
そして、俺の顔をぺろぺろと舐めてきた。
ものすごく懐いてくれている。これも名づけの効果だろうか。
「ルーベウムは甘えん坊だな」
俺はシロやルンルンにいつもしているように、顎の下をこしょこしょしてやった。
「きゅるるるるきゅるるるる」
ルーベウムは喉を鳴らしているのか、不思議な鳴き声を出した。
機嫌よく尻尾を揺らしてベロベロと俺のお腹を舐めた。
全裸なので、とてもくすぐったい。
「で、ルーベウムはどうしてここにいたの?」
「ディオンにつれてこられた」
「レジーナじゃなく、ディオンのほうだったか」
「レジーナって誰? ルーベウム知らない」
「小さくて強いドワーフだ。どういう経緯でディオンに連れてこられたのか教えて」
「……えっと」
ルーベウムは思い出しながらゆっくりと説明してくれた。
どうやら体は大きいのに、ルーベウムは生まれて間もないらしい。
「気付いたら、石でできた建物のなかにいた」
「そうなんだ。そこにディオンが来たの?」
「うん」
そして、ディオンがここに連れてきてくれたらしい。
「ディオンが、ここで待っていたらウィルが来るから好きにしていいって」
「そっかー」
あとで、ディオンに、ルーベウムをここに連れてきた経緯を詳しく聞いてみよう。




