74 謎の敵
前回のおはなし:みんなバラバラに転移魔法陣の上にのった。
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たちまちぐにゃりと視界がゆがむ。
数瞬後、俺は別の場所に立っていた。
相変わらず明かり一つない。自分の手も見えないほど真っ暗だ。
「転移の前にロゼッタの短剣に魔法灯をかけてあげるべきだったかも」
ティーナの杖とアルティの剣には魔法灯の魔法がかかっている。
だが、ロゼッタは灯りを持たずに転移魔法陣の上に乗った。
ロゼッタの転移先が、ここと似たような場所ならば真っ暗闇の中だ。
暗闇の中では松明に火を灯すことさえ大変だ。
「……ロゼッタ。頑張って」
そうつぶやきながら、俺は自分の短剣に魔法灯の魔法をかける。
明るい光が部屋を照らす。壁も床も天井も、白くて滑らかな岩で作られている。
「意外と狭いなぁ」
俺のいる部屋はおよそ一辺五メートル四方だった。そして高さは三メートルほど。
そして、正面に岩で作られた扉がある。
「転移魔法陣は……。一方通行みたいだ」
後戻りはできない仕様らしい。
俺は罠を調べた後、扉をあける。
すると、ものすごく広い部屋に出た。壁まで魔法灯の光が届かないほどだ。
魔力で周囲を探索すると、広さは百メートル四方、高さは十メートルほどある。
一体、だれが何のために作った部屋なのだろうか。
そして、非常に探索がしにくかった。
魔力を飛ばして反射してきたものを感知するのだが、ほとんど反射してこない。
魔力による探索を妨害する何かがあるらしい。
「……あれはなんだろう?」
部屋の奥。俺が入って来た扉とは逆の端の方に魔力反応があった。
何かの生物だというのはわかるが、それ以上のことは妨害のせいでわからない。
魔法灯の明かりも吸収されるらしく、光を強くしても届かない。
「これもレジーナの仕込みかな。手が込んでいるなぁ」
魔力による探索が出来ないのなら、近づいて調べるしかない。
俺は覚悟を決めて、謎の生物へ慎重に近づいていく。
すると、闇の中から声がした。
「ココにナニシにキタ?」
俺は足を止める。
謎の声は片言で独特のイントネーションだった。
だが、滑舌が良く、一語一語が明瞭で聞き取りやすいので意味は分かる。
「勇者レジーナの試練を受けるために来た」
「……ナノれ」
「ウィル・ヴォルムスだ」
「……ういる、……ぼおるむす」
なぜか謎の声は俺の名に反応しているようだった。
だが、正確には発音できていない。
「お前の名は?」
「……ナはナイ」
「そうか」
それから、暗闇の中で何かが動く気配がする。
何をしているのはかはわからない。大した隠ぺい力だ。
「……ワレ、ウィルとタタカう」
謎の声の主はレジーナから、ここに来た奴と戦えと言われたのかもしれない。
「相手してくれるのか。ありがとう」
「ヨイ。イク」
その瞬間、まるで謎の声の主を覆う暗闇が、巨大なスライムのようにブルブルと震える。
そして、俺を目掛けて、暗闇の塊が槍のように突き出された。
魔力探知の妨害のせいで、まだどんな攻撃か判然としない。
だが、食らうべきではないというのはわかる。
俺は後ろに跳びずさりながら、急いで松明に火を灯す。
声の主は、魔力を吸収、もしくは妨害することで、魔力による光を消失させている。
それにより躍動する暗闇を作り出しているのだ。
それに対抗するには、魔法ではない、つまり物理的な灯りを用いるのが最も簡単だ。
俺は松明を暗闇の中心に向かって放り投げる。
灯りに照らされて、声の主の姿が見えた。
「ほう」
それは深紅の鱗に覆われた立派な竜だった。
二枚の大きな翼と、きれいな角、長くて太い尻尾が目を引いた。
両手両足には立派で鋭い爪がはえている。
頭の先から尻尾までの体長は、およそ十メートルほど。体高は三メートルほどだ。
体の大きさは、竜族にしては際立って大きいわけではない。むしろ小さいほうだ。
だが、まとう魔力が濃厚で、ただ者ではないとわかる。
姿が見えたのは一瞬だ。
竜が、俺の投げた松明を即座に踏み消したからだ。
「グルルルルル……」
姿を見せたことが恥ずかしかったのか、竜はうなる。
――ゴオオオオオオオオオオオォォォ
容赦のない火炎ブレスが放たれる。部屋全体が明るくなった。
かなり広い部屋全体が火炎に巻かれる。かわしようがない。
竜族はこれが怖い。数の不利を一気になくす攻撃だ。
俺は魔力の障壁を張って身を守る。
火炎ブレスは範囲だけでなく、威力も相当なものだ。
俺は竜のブレスがおさまるまで耐えきった。
ブレスをかいくぐって攻撃するより、耐えきってみせた方がいい気がしたのだ。
賢い竜は、こちらの力を認めさせると素直になることが多いからだ。
「次はこっちからいかせてもらうよ」
「グルル!」
魔力による探知が妨害されているとはいえ、大体の位置はわかる。
それに竜自身の火炎ブレスに照らされた際、姿をしっかり見せてもらったばかりだ。
俺は暗闇の中にまっすぐに突っ込んでいく。
暗闇の中で俺目掛けて尻尾が振るわれる。かいくぐったところに竜の爪。
それもかわして、竜の顔を拳で殴った。
八歳の拳では、どう頑張っても威力は出ない。体重が軽すぎるからだ。
だから魔法を使う。
全身を魔力で強化し拳に魔力をまとわせ硬くしてから、叩きつけるようにして殴りつけた。




