70 試練のダンジョン その4
前回のおはなし:ジャイアントバットが現れた。
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大飛鼠の平衡感覚を失わせる攻撃だ。
とはいえ、まだ飛んでいる大飛鼠は二匹だけ。
それらを落とせばいいだけ。落ち着いて対処すればいいだろう。
「これが奴らの魔法攻撃だ。平衡感覚を失わせるから気をつけろ」
「ものすごく気持ち悪いよ。でも大丈夫!」
「はい! 負けませんわ」
ロゼッタとティーナは攻撃を再開する。
だが、ロゼッタの矢もティーナの魔法も当たらない。
眩暈のせいだろう。
「ロゼッタ、ティーナ! 大丈夫か?」
「大丈夫だよ!」
そして、ロゼッタは右のすねを地面につけ、左足は立てひざをつく。
眩暈に負けず、弓を放つために体が揺れないようにしているのだろう。
「これで!」
ロゼッタは三本矢を放ち、一本命中させた。だが一本では落ちてこない。
ロゼッタを見て、ティーナは両ひざをついた。
そして、火球を撃ち込んでいく。だが、中々当たらない。
「くっ! ちょこまかと! 次こそ当ててみせますわ!」
焦れたティーナが大きな火球を撃ち込もうとする。
なかなか当たらないなら、範囲を拡大すればいい。
その判断自体は正しい。
だが、大飛鼠が、ティーナの高まる魔力に反応した。
上空の二匹がティーナ目掛けて魔力弾を口から撃ちだす。
両ひざをついているティーナはかわせない。
「ひぅっ!」
目をつぶったティーナをアルティが抱きかかえて横に跳ぶ。
「やりたいことはわかりますが、戦闘中に両ひざをつくのは危ないです」
「ア、アルティ、ありがとう」
「気にしないでください」
ティーナを抱えたアルティを目掛けて、追加の魔力弾が降り注ぐ。
アルティはティーナを横抱きに抱えたまま、器用にかわす。
結果として俺たちとアルティたちの距離が離れる。
意図せず、俺、ロゼッタ組とアルティ、ティーナ組とで分断される形になった。
「「KIIIIKIIII」」
そのとき、地面に落ちていた大飛鼠が一斉に襲い掛かって来た。
「うわっ!」
ロゼッタが矢を投げ捨て、腰から抜いた短剣と弓で大飛鼠の牙と爪を受け止める。
俺の方にも襲い掛かって来たので横に跳んでかわしておいた。
落下した大飛鼠はじわじわと俺たちに近づいてきていたのだ。
俺たちに気づかれないよう気配を消し、死んだふりをしていた。
通常の大飛鼠より相当賢いようだ。
ロゼッタが少し慌てた調子の声を上げる。
「弓が折れちゃった!」
咄嗟のこととはいえ弓で牙を受け止めればそうなるのも仕方がない。
「任せろ、うわぁっ!」
「え?」
俺はわざと転んで見せる。
「KIKIIKIII!」
無防備に見える俺目掛けて、大飛鼠が殺到する。
ロゼッタに襲い掛かっていた個体までこっちに来る。
上空を飛んで、アルティたちを攻撃していた二匹もこっちに目掛けて魔力弾を放つ。
大飛鼠が俺に覆いかぶさるようにして牙で襲い掛かる。
「これで一匹」
すかさず短剣で心臓を突き刺してえぐった。
返り血が俺に降り注ぐので、大飛鼠の死骸を横にはねのけた。
すぐにもう一匹が俺に襲い掛かってくる。
「こいつらの弱点は心臓と頭だよ」
「そのぐらいは、あたしにもわかるよ!」
俺に襲い掛かろうとした大飛鼠の心臓に、ロゼッタが後ろから短剣で突き刺した。
大飛鼠の心臓をえぐったロゼッタの短剣の先が俺の眼前に出る。
「これであと二匹だな」
「そうだね!」
ロゼッタが短剣を構えながら言う。
ティーナを抱えたアルティが俺たちのそばにやってくる。
「怪我は大丈夫ですか?」
アルティはティーナを地面におろしながら俺たちに尋ねた。
「すべて返り血だ」
「あたしも大丈夫」
「それは良かったですわ」
治癒術師でもあるティーナがほっとした様子でそう言った。
残された大飛鼠二匹は、魔力弾をやめ不可視の魔法攻撃を再開する。
平衡感覚を失わせ続けた方が勝率が高いと判断したのだろう。
「眩暈が凄くて、狙いが定まりませんわ。威力の調節も……」
ティーナは杖を大飛鼠に向けながら、ふらふらしている。
アルティのアドバイスに従って、ティーナはひざをつくのをやめたのだ。
「弓も折れちゃったし、どうすればいい? ウィル何か手はない?」
基本的に俺はロゼッタの判断に任せるつもりだ。
だが、アドバイスを求められたら答えるべきだ。
「ティーナ。その状態なら、どうせかわせないのだからひざをついて魔法攻撃だ!」
「か、火球ね?」
「ちがう、風魔法だよ! ティーナの使える最強の奴をお願い」
「みんなを巻き込んじゃうわ!」
「それは俺がフォローするよ! 気にせず、最大範囲と威力でぶっぱなして!」
「わかったわ!」
狙いを定めづらく、調整も難しいなら、全力でぶち込めばいい。
その際、注意すべきは味方の巻き込みだが、それは俺がフォローすればいい。
「ロゼッタ。風魔法で落下してきたやつに突撃して」
「わかったよ!」
「アルティ、フォローお願い」
「はい」
アルティには言うまでもないことだが、一応言っておく。
基本、俺とアルティはフォローに回り、ロゼッタとティーナに任せるべきなのだ。
「いきますね!」
ティーナは両ひざをつき足をたたんで体を固定している。
「とりゃあああああ!」
ティーナは気合の叫びとともに、全力の風魔法を大飛鼠に向けて撃ち込んだ。





