112 竜王温泉 その2
12月にGAノベルから発売されることに決まりました。よろしくお願いいたします。
ルーベウムは少し考えて言う。
「きゅるー。もうウィルに洗ってもらったからいいよー」
「……そうでしたか」
男は明らかにがっかりしていた。
「もしかして、ドルフレア殿ですか?」
「はい、この姿では初めましてですね。ウィル・ヴォルムスさま」
流石は竜王である。人型にも変化できたようだ。
人型と言っても竜人だ。
そして、ドルフレアはディオンに少し似ていた。
鱗の色もディオンと同じ青系統だ。足よりも太い尻尾がかっこいい。
そして、身長はディオンよりさらに高かった。
それでも、普通に街を歩いていたら、百人中百人が竜人だと思うだろう。
「ルーベウム、折角だから、背中流してもらったら?」
「……きゅるー。そうだね。ウィルがそう言うなら、そうしよっかな」
「ありがたき幸せ!」
ルーベウムはパタパタと、ドルフレアの方に飛んでいく。
ドルフレアはさっそくルーベウムの背中、というか全身を洗い始める。
「どうでしょうか。至聖なる君主」
「きもちいい!」
「かゆいところはございませぬか?」
「もう少し上の方! きゅる」
「ここですね」
「きゅるきゅるー」
ルーベウムは本当に気持ちよさそうだ。
恐らく同じ竜と言うことで、かゆくなりがちなところがわかるのだろう。
俺もドルフレアの手つきや、念入りに洗っている場所を観察しておく。
今度、ルーベウムを洗う時の参考にさせてもらおう。
「なるほど。竜はあの辺りがかゆくなりがちなのですね」
ドルフレアがいるので、俺はディオンに敬語を使う。
「翼の付け根は特に汚れがたまりやすいですからね。それに手が届きませんし」
「勉強になります。鱗の隙間も丁寧に、って感じですね」
「そうです。それは竜人も同じです」
「今度、ディオンさまのお背中をお流しする際には気を付けますね」
「ありがとうございます。それは楽しみです」
五分ほどかけて、ドルフレアがルーベウムの身体を洗い終わる。
ルーベウムはさっぱりした顔で湯船の方に飛んできた。
俺はドルフレアに向けて言う。
「ドルフレア殿も湯船に入りませんか?」
「いえ、そう言うわけには」
「きゅるー。一緒に入ろう」
「いえ、そんな恐れ多い」
「いいからいいいから! 早く入って。きゅる」
ルーベウムにしつこく誘われて、やっとドルフレアは湯船に入った。
ドルフレアは俺とディオンの間に座る。身長が高いので、半身浴になっている。
「ドルフレア殿。驚かれましたか?」
ディオンがニコニコしながら、そんなことを言う。
「……ディオン。至聖なる君主がいらっしゃるなら事前に言ってくれぬか?」
「弟子たちに経験を積ませたかったのです。申し訳ありません」
「謝ることはない。至聖なる君主に会わせてくれたのだ。それだけで十二分」
ドルフレアは、俺の前でシロとじゃれあっているルーベウムをちらりと見た。
「ただ、もっときちんと出迎える準備をしたかったというだけのこと」
「喜んでいただけたようでなによりです」
「それにしても、エデルファスの係累と言うのは伊達ではありませんな」
「いやー、そう言うわけでは……」
俺は言葉を濁すしかなかった。
エデルファスの係累には、例の従兄たちがいるのだ。
「ウィル・ヴォルムスさま……」
「あの、ドルフレア殿、俺に敬語を使うのはやめてください」
「ですが、ウィル・ヴォルムスさまは至聖なる君主の盟友でありますれば……」
「きゅるー。ウィルは目立ちたくないんだよー」
「そうでありましたか」
「だから、ドルフレアは敬語を使わない方がいいと思う。きゅるー」
「ははぁ! 御意でございまする。至聖なる君主の仰せのままに!」
「うむ。くるしゅうない」
ルーベウムはドルフレアに傅かれるのが嬉しいらしい。
赤ちゃんなので、性格が少し子供っぽいのは仕方がない。
「ルーベウム、あまり偉そうにしたらだめだよ」
「えー」
「えーじゃなくて」
「……わかった。きゅるー」
ルーベウムは少し不服そうに同意した。
だが、ドルフレアは湯船の中を素早く移動し、俺たちの正面に来た。
「いえ! 至聖なる君主は実際偉い方でございますれば!」
「くるしゅうない」
「こら、ルーベウム」
「きゅるー。わかった……」
そして、ルーベウムが言う。
「ドルドル」
「ドルドル? はっ。何でございましょうか、至聖なる君主よ」
「ぼくをそんなに持ち上げなくていいよ」
「ですが……」
「ウィルに敬語を使わないのだから、ルーベウムにも使わなくていいよー」
「そうはおっしゃいますが……。示しがつきませぬ」
「そっかー。示しがつかないなら仕方ないよね、きゅるー」
そういって、ルーベウムは俺の方をチラチラ見る。
まるでドルフレアに傅かれてもしょうがないと俺が言うのを待っているようだ。
「ドルフレア殿が敬意を示してくれたとしても、威張っていい理由にはならない」
「きゅるー。わかった」
ルーベウムは納得したようだった。




