プロローグ
新作です。
――切っ掛けは、偶然と気紛れ。
彼女が旅を始めたのは、目的地があったわけでも、捜し物があったわけでも、ましてや強くなりたかったわけでもない。
ただ、ずっと住んでいた街で疫病が流行り多くの被害が出た。
幸い世話になっていた孤児院は町から少し離れた所にあって難を逃れたけれど、町に親を失った孤児が増えたのは事実で、それは彼女よりも幼い子どもたちだった。
裕福とは縁遠い院の中で、お荷物は少ない方がいいと自分から出る事を決めた。
院長や先生、友達も引き留めてくれたけれど、街に残って働くという選択肢もあったけれど、彼女は旅に出たのだ。
そうして、彼女は慣れ親しんだ場所に別れを告げて、外の世界に飛び出した。
彼女が真っ白な猫を拾ったのは、それから三年後の冬の終わり。
彼はただ退屈していた。
なにをするのにも飽きてしまって、彼の瞳には世界は色がないかのように無機質に映っていた。
皆彼を恐れて近付いては来ないし、近付いてくる者はやはりつまらない者ばかり。
彼が生きてきた時間はあまりにも長すぎて、一日の始まりと終わりを示す陽の光も、季節によって移ろい変わる景観も、彼には当たり前のものでしかなく、意味を持たない。
なにに対しても意味を感じる事などできなくて、生きている意味さえ思い浮かびもしない。
だからといって死ぬのも面倒臭くて、惰性のように無感動に生きていたのだ。
だから彼は自分の気紛れに感謝する。
雪解けの始まった冬の終わり。
日頃なら気にも留めなかった出会いに、その日彼は自分の世界を見つけたのだ。