177.新体制を作ろう
新学期のイベントというのはだいたい相場が決まっている。
友達とクラスが離れて寂しくなった、と思いきや部活の
別の友達と一緒になり「ええ!私の席の隣!」なんて
偶然を装った会話を交わす。教師でもいい。好みだった
教科担当になり、その教師と友好な関係を築くように
働きかけるなんて展開もありえる。
ましては、2年生。花の高校二年生だ。
たいていの大人が「一番楽しかった学年」とも言い例える
学年であるならばもっとも、楽しい日々の保険をかけるに
ふさわしいアクションなりイベントがあるものだろう。
ミコの場合はその一つとして、俺とクラスが分かれては
しまってはいるが、何かとあちらのクラスで楽しくやって
いけそうな雰囲気があるから、これはこれでひとつの経験
というものだ。俺はというと、そこまで大差はない。
独断、加賀音とマヤが同じクラスになっただけであり、
ほんの少しばかり生徒会組と関わることが多くなりそうだな
と思う程度であり、クラスでの俺の立ち位置は1学年との
違いはあまりない。
金城が俺のことを部活動つながりで知っていたように、
それでも俺の立ち位置は前よりか前向きにはなってはいる。
なってはいるが、所詮はサブポジションだった。悪魔の力で
部活を取り持つだけのサポートをしているとはいえ、
目に見えるだけの活躍が部活内であるかと言われても、
特筆すべきものはないのだ。
目に見えなければ伝わらないし、
伝わらなければ何もないものだ。
そのため、そこの部活動関連で脚光を浴びるなんて
華やかなポジションは部の発端者であり、うちの部の
最高責任者であり、部を超えて町一番の霊能力者
(という飾り)を持っているミコに完全に譲ってしまった。それはそれでまぁいい、むしろ俺はそれをおおかた
望んでいたのだから。
授業という名目のガイダンス程度で4月の授業は
終わってしまう。顔合わせも、すでに合わせている同士
ということもあり、さっぱりと終わってしまった。
となると、やはり大事なイベントをひとつ忘れては
ならないし、この物語ではここを話さないと話が進まない。
ものを語るに落ちる。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
「それ前に聞いた」
では、本題。部活について話さねばならない。
「異能部」はなんとも意外なことについ最近、
新入部員を獲得したばかりだ。それが契機となり部の
名前は一躍広がりを見せていた。いいことである、
まことしやかに。ではなぜ、再びこの部長であるミコこと
御前小恋は経を唱えているのかについて説明をすべきだろう。
明白に言うと、イベントをひとつ飛ばしたのだ。
それを嘆いているのだ。以上。
「仕方ないだろそれは」
「南無阿弥陀仏南m、仕方ないけどさぁ……
あ、ロッカちゃんお茶」
「はいはい」
せっかくの新入部員をアゴで使うなよ。
曲がりなりにも相手は副会長だぞ、お茶くみなんて
こざかしい立場じゃないだろ。
“新入部員”
答えを言ってしまうが、新学期に部活動がやることと
言えばその一つしかない。
新入部員の確保、ようは勧誘である。
うちの部活に入らないかと学校中を走り回り、
新たな後輩と共に部活を盛り上げていくための下準備を
しなければならない。4月という大事な時期を超えれば
それを逃してしまうのは至極当然。よって、どの部活も
せわしなく廊下や体育館、果ては下校のために校門を出る
生徒にまで走り追い回している状態だ。なんなら、
今俺たちがいる部室の外ではすでに、どこかの部活が
「うちの部どっすかー!!」とハキハキとした
若々しい大声で勧誘している様子も聞こえてくる。
これはどこの部活だろうか、声の大きさ的に文化部は
あり得なそうだが…… あ、確かうちは応援部があったな。
そこの可能性が一番あり得るかもな。そういえば
「応援部」は文化部の扱いなのか? やっていることは
運動とも形容しがたいし、やはり運動部ではないよな。
といったら吹奏楽部は明らかにハードワークな
割に文化部の扱いだし……
いやいや話が逸れだすからやめておこう。こんな話で
文字数を稼いでいる場合ではないのだ。最近、作者が仕事の
関係で小説を書く時間が無くなりつつあるからちょっとでも
楽をしようとしているのが目に見えてしまう。
閑話を休題しておく。
おっと失礼、「どの部活も」と表現したがすべての部活が
それに該当するとは言っていないことを補足しておく。
それが「異能部」なのだ。
俺たちは部活動勧誘を一切していない。
なぜ、こんな大事なことをやっていないのかと言われると
話し合いの結果そうなったのだ。明確に忘れていたとか、
ほかの仕事が舞い込んできたなんて馬鹿げた理由ではない。
春の間に全部員(4名)で卓を囲んで小一時間話し合った
結果なのだ。だからこそ前回、前々回と俺たちは早くに
切り上げて帰ることができたのだ。
他の部活は勧誘活動で忙しい中で。
ではこそ、ここにきてなぜこんなにもミコが
へこんでいるのか。そこまで深い理由はない。
この期に及んで、やはり部長として、高校の先輩として
「後輩」は欲しかったと嘆いているだけだ。
「嘆いているだけって言われても欲しいものは
欲しいでしょ!!」
「いやいや、そんな話してねぇだろ。それにしっかり
話し合ってのことだし、何よりミコお前が決めたこと
だかr」
「うるさーーい!」
__________________________
「ミコちゃんはそう言っているけれど、私はそうは
思わないわ。部活のことを考えてのことなんでしょう
けれど、それはあとで後悔するわ」
「加賀音の意見に俺も賛成だ。後輩ひとりいるだけでも、
違うと思うぞ」
「うーーーーーん、ギドー君は」
「あ”? 俺ぁてめぇに任せるぜ。どうせ、
てめぇの部活なんだ。勝手に決めちまってもついていく」
「むむむ、うーーーーーん、じゃあ」
__________________________
「って言って決めたじゃねーか! 何だったらあの
流れだったら、別に勧誘する流れだっただろ!!」
多数決でも2vs2。まだまだせめぎ合ってよかった
だろうが。
「ギドー君がもっと推してくれればもっと考えたもん!」
「もん! じゃないよ、もん!じゃ」
「というかそのあとのココのセリフも忘れてない
からね!!」
「え」
「はい! 回想パート!パート2」
お前が仕切るのか。
__________________________
「ほんとうによかったのかな、これで」
「……いや、ミコ。えらいじゃないか。だって”後輩”を
思っての行動だろ? 俺が部長なら流れに任せて勧誘でも
なんでもしているよ。それを自分の欲望を押し切ってまで
そうできるのはさすがだと思うぜ」
「……ほんと?」
「あぁ」
__________________________
「って言ってくれたから、なんかそのままやらない方向に
なったんだからね!! コレなかったら、ぜったい私も
やっぱりやるって言っているから!!」
「俺のせいかよ!!!!」
褒めた俺を返せや。けっこう真面目トーンできっちり
褒めてるし、何よりも自分でも恥ずかしかったって
いうのに、さらにそれを落としにかかるとか鬼かよ。
とは言いつつも俺もあのときは部活としての有り体を
考えての発言であったために、ミコの考えも、これまた
正しいと認めざるを得ないのも事実だ。潔く俺がそっち側に
誘導してしまったことは認める。謝らないけれど。
普通に部活として動かすのだから部員の一人や二人いても
いいじゃないかと思うが、うちの場合は勝手が違う。
なら事実、新入部員である加賀音はどうなのかと
言われたら、俺が斡旋したからでも、生徒会の人間だから
でもなんでもない。
「同学年」だからだ。
この部活は体裁としては「巫女の末裔である御前小恋を
筆頭にした除霊活動、謎の解明(と不本意ながら雑用)」を
目的とした部活なのだ。これがもし3年と続いたとして、
俺たちが卒業したとすると残された後輩たちは今後一体
どうする。同じようにミコと同クラスの霊能力の
持ち主だと名乗れるだけの後輩に入ってくるものなのかと
考えると無理に等しい。ようは、後輩をここで部員として
招くと最悪の場合、部の存続を”させるように”否応無しに
強要しなくてはならない。
部活は俺たちがいなくなればなくなるのか、と聞かれても
俺は当然のようにyesと答える。そういうものとして
活動しているのだから。そこに責任は負えないし、
それをさらに後輩に擦り付けるような真似はしては
ならない。
「と、褒めたらこれだよ」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーー、
部長ヤメターーーーーイ」
「今更それ言うのか」
「もっと楽できで、フリーにできると思ってたから。
あ、ロッカちゃん部長よろしく」
「流れで私に擦り付けないで」
「ダメ?」
「ダメ」
飛び級なんかさせてたまるか。自分の部活だから
自分が動かす的な話してただろ。
ていうか、なんでそこのポスト枠副部長の
俺じゃねーんだよ!
「そんなことしてないで、ミコちゃんは早く活動しなさい。
またここでお茶だけ飲んでいるのは嫌よ」
「わかってるけどさぁ……」
そう、今日に始まったことではない。かれこれ3日連続で
ミコはこの調子である。はよ元気になれや、と言いたい半分
一体何をしようかと考えてなくてはならないのも半分。
結果どうなるかというと、近日の部活動のメインタスクは
「雑用」となってしまった。そりゃそうだ、さっきも
言ったが今「異能部」以外の部活はしのぎを削ってあくせく
働いているのだ。猫の手も借りたい、いやなんなら
「暇な雑用係」の手が一番借りるにふさわしいのだから。
せっかく生徒会の仕事を済ませて早め早めと部室に
来てくれた加賀音にも申し訳が立たない。昨日は同じように
来てもらったはいいが、最終的にやってもらったことが
「放送部の放送原稿のまとめ」
「演劇部の演目原稿のまとめ」
そして「陸上部のスケジュールのまとめ」と、多分一番
つまらない類の雑用を散々とさせてしまっている。
と思ったが、そういえばおとといは生徒会資料の
まとめをさせられたな。となると、あの様子だと結局、
加賀音はおととい昨日と資料整理するだけのマシーン
みたいな扱いにさせているのか。なんだか余計申し訳が
立たないな。ちなみにうちの部活の誰よりも仕事が
早くて助かった。
いずれにしても俺たちが本腰を入れて自分の活動を
始めないことにはまた今日も同様に、何かしらの依頼を
受けて一日が終わってしまう。
「話をまとめよう」のタイトルよりもさきにまとめが
始まる可能性がある。
「はぁ、あんまり言いたくなかったけれど……
ミコちゃん、いつもみたいに除霊の依頼って
すんなりさせていい?」
「へ? いいけどあんまりたくさん来ると大変だったから」
一度、「気軽に除霊に来てください」みたいなチラシを
配ったことがある。結果は少し混んでいる保健室のように
なってしまった。いいことである反面、診てくれる先生が
たった一人だというのが痛手過ぎる。そこから、よほどの
ことがない限りは依頼を受けないようにしていた節がある。
それが仕事が増えない原因だと言われればそれまでなの
だろうが、「体調不良を治す」ことに関しては、俺たちの
仕事の領分から超えだす。それこそ保健室でいい。
だが、加賀音のその威勢に満ちた声で俺はその手が
あったかと思いつくのだった。
「……私ね、除霊できるかもしれないわ」
「?????え??」




