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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
世界で一番忙しい一日
169/446

168.留守番しよう

「終わりました……って?」


 部室はもぬけの殻。鍵もかかってすらいないのは

ちょっと怖いわね。生徒会の仕事が終わればすぐに

部室に向かうと伝えてあったのに。


「……」


 私はおもむろに、急須を取り出す。そして会長が

「異能部」のために用意してくれた、よい茶葉を入れて

ポットからちょびちょびとお湯をにそそぐ。


 確か、ここで蒸らすとよいのだとか。けど、飲むのは

私一人なので、そのまま間髪入れずに茶椀にそそぐ。


 あぁ、自己紹介が遅れたわね。とはいってもなぜか、

私はいろいろと呼ばれ方があるから、どう紹介したら

よいのかしら。


 まぁ、この際どうでもいいわ。ミコちゃんみたいに

ロッカちゃんとも、会長みたいに六郷君とも、神前君

みたいに加賀音とも……いえ、これだけはちょっと

私自身も恥ずかしいからやめてほしいわ。神前君本人も

すこし恥ずかしがっていたのよね、この呼び方。


 けど悪い気はしないわ。どうあろうと、そのあだ名は

それ相応のレッテルあってのものなのだから。


 そう、私は立場上は生徒会副会長兼異能部新入部員の

「六郷 加賀音」よ。肩書が長すぎるけど、すぐにこの

新入部員の4文字は消えるから今だけはつけさせて。


 なぜ、ここで語り手がこの私に移ったのかといえば

それは、「異能部」がいま私一人だけだからであって、

このまま主人公のシフトチェンジしてしまうわけじゃ

ないわ、安心して。


 会長がミコちゃんに呼ばれて、御前神宮に行って

しまったのは知っている。けれど、まさか神前君も

義堂君もいなくなっているとは思ってなかったわ。

はたから見たら、この光景は明らかに職務怠慢でしか

ないんですから。鍵もかけずに、部室をがら空きに

校内どころか校外に出るなんて、不安なんてものじゃ

ない。やっぱり私が、鍵の管理をしたほうがよかった

んじゃないかしら、と思っても仕方ない。


 けれども、色々とほったらかしてくれたおかげで、

こたつの中はほっこりとしていて、あったかいお茶を

飲むためのポットのお湯も用意してある。


 どうせ、しばらく帰ってはこないんでしょうね。

生徒会室から、何やら動物用の罠(?)を引っ張り

出していたのだから、かなり面倒な仕事なんでしょう。


 それにしてもなんで罠なんてものが生徒会室に

あったのかしら。と、思っても、会長だからと

言われたら何が置いてあっても、いい気がして

きたわ。神前君や義堂君に「慣れてる」と言われる

のはきっとこういうところなんでしょうね。


 今日は名目上職務怠慢をしているのは「異能部」と

会長の4人といったところかしら? まぁ、会長の

これはいつものことだから大丈夫で、「異能部」も

私がここにいればいいだけの話だから弊害らしい弊害は

なさそうね。


「……ケホッ」


 お茶が熱すぎた。猫舌気味だから気を付けないと。


「……」


 ……そういえば、こうやって黙る時間が増えたような

気がする……。そういう時はだいたいは何かを考えて

いたり、考えもしていないことを考えていなかったり。

でも、こうやって校舎内でお茶をほっと一口飲める

ぐらいには肩の力が抜けたというかなんというか


「……」


 うーん、考えがまとまらないわ。


 ズズッ


「……」


 あら、冷ましすぎたかな。


 意外と、お茶を飲む機会は多い。前に神前君に

コーヒーは飲まないとは言った気がするけど、反対に

お茶はよく飲むんですよ私。好きではないけれど、

理由らしい理由をつけるとすると「無難」だから。

何にも合わせられるし、何と合わせても文句の

つけようがない。ピザとオレンジジュースは分かる

けれども、寿司とオレンジジュースはわからない。

ピザとお茶、寿司とお茶はわかるでしょう?

といった、まぁ何とも「無難」で「普通」な理由で

よく飲むだけ。


 ……そういえば前に会長がおいしいお茶の

淹れ方を教えてくれると言っていた気がする。

けれど、確か淹れるタイミングがないからと

断ったんだったかしら。今となっては教えて

欲しかったなと……いえ、やっぱり思わない。


 私が飲むのであれば、適当でいいんです。


 それに会長よりも神前君のほうが淹れるのが

上手い……と、思う。神前君自身もそのスキルは

会長からの伝授だと言っているんだから、弟子を

超えたといったところかしら。


 あるいは私の舌が馬鹿なのか。


 ズズッ、ズ……


「あ」


 全部飲み切ってしまった。こういうお茶はもっと

のんびりゆったり飲むものなんでしょうが、ちょっと

冷ましすぎたのがアダとなっちゃったな。


 うんと私は背伸びする。温かいものを飲んだ後は

体がなぜか固まる感覚が残る。その伸びた姿勢のまま

天井のシミを何気なく見つめてみる。数は数えない。

ただ、体育倉庫の名残の汗か汚れの跡なのだろうと

空想してみるだけ。


「……」


 ゴロン


 伸びた体制そのままに倒れる。寝れるだけの空間は

この部室にはない。だから、伸ばすことができない分

こたつに体を沈めていく。……天井のシミを見ても

やっぱりつまらないわ。


「……」


「……」

「……寝てた?」

「……いえ」

「えー、ぜったい寝てたよ」


 私はいつの間にか目をつむっていたらしい。

寝ていたわけではないけれど……というのはあまりに

説得力がないわね。ええ、寝ていましたとも。

ただほんの少しだけ。自分が「寝た」と認識できない

程度で。


「寝顔くらい可愛くていいのに」

「人の寝顔にケチをつけないでマヤ」


 そんな横になった私の横で同じようにこたつに

足を入れて、当たり前のように居座っているのは

私の大事な大事な生徒会のメンバー「英嶺(えいれい) 真綾(まあや)

通称マヤだった。ここはいつから生徒会メンバーの

別荘みたいな扱いになっていたのかしら。


 いつからいたのかしら。と、気が付かないぐらいには

私の意識は飛んでいたのね。目を瞑っても扉を開けて

入ってくる音は聞こえるはずだもの。それならもう

寝てないと言い訳のしようがないわね。


「なんでマヤがここにいるんですか」


 私は上体を起こす。寝たままで応対するのは

あまりに失礼すぎるでしょう。


「ちょーーーーっとお話を」

「おはなし?」

「ロッカちゃんが「異能部」に入ってくれてこっちも

 ずいぶんと依頼がしやすくて助かるんだよね」

「……」


 ミコちゃん以外にその呼び方をされるのはどうにも

慣れない。今まで加賀音ちゃんと呼ばれていた人から

こうも言い方が失礼かもしれないけれど"フランク"な

呼ばれ方をされると、頭がエラーを起こしそうになる。


 私はまだ会長は会長と呼ぶし、マヤはマヤと呼ぶ。

神前君も神前君で、義堂君は義堂君のまま。唯一、

御前さんだけはミコちゃんになっただけ。


 なぜって? 私がロッカちゃんと呼ばれているのに

御前さんとかしこまって呼ぶのはおかしいでしょう?


「お話はいいですが、見ての通り、今は活動できる

 状態ではないので、またあとd」

「そう言わないでよ」

「マヤ、あなた一応書記としてのは残っているのよ」

「ロッカちゃんだって残ってるでしょ」

「いえ、ちゃんと片づけました」

「えらーい」


 会長からの兼部の条件ですからね。


「会長もいないんだから、お仕事しても報告

 遅くなるだけだからあとでいいかなーって」

「はぁー」


「だかr」

「手伝わないわよ」

「はーい、わかってまーす。そこらのリテラシーは

 守りますよ当然」


 あわよくば。みたいな表情をしたのを私は見逃さない。


 生憎、「あわよかない」わ。


「にしても大きくなったよね」

「え、何がですか」

「胸」


 コツン


「イテッ冗談だよ。「異能部」のことだよ「異能部」

 もうかれこれできてから半年……だっけ?」

「まぁ、それくらいね」

「まさかねー、あの生意気なミコちゃんとココが

 何かと活躍して、今じゃうちの学校のマスコット的

 立場になっちゃって」

「話題……と聞けば聞こえはいいんですけど」

「大大話題よ、特に副会長の兼部が一番のニュース」


 そう、やはり話題にはなってるのね。私自身、

この部活でやりたいことはたくさんあるから、それで

後悔なんてしませんが。


 2つ目の居場所。と胸を張って言うには立場上

私はまだ早いかしら。


「そう、マヤ。会長からいつ戻ってくるとか話は

 聞いてる? ……わけはないわね」

「うん」


 この様子だと、御前神宮で事件があったんでしょう。

それも全員が帰れないぐらい重要な。


 まさか、罠を使って生き物を捕まえてその生き物と

「とったどー」とのんきに撮影会をしているわけでも

ないでしょうね。


「あ、お茶いる?」

「あ、いるいる」


 一応、マヤは立場上は"客"で、それをもてなすのも

部員である私の役割。再び急須を取り出して茶葉を

足す。さっきの残りがいい具合に蒸れてこれはこれで

よい茶が淹れれそうな雰囲気ね。


「えっと確か……」

「? もしかして会長の淹れ方真似ようとしてる?」

「ま、まぁそうですね、ですが……」

「いいよいいよ、テキトーで」


 やっぱり、こうやって人に振る舞う機会があるので

あれば会長から教えてもらいましょうか。


 用意したもう一つの茶碗と私の茶碗に交互に注ぐ、

確か、この時にも技があったはずなんですが……

思い出せないわ。


「あ、ありがと。それじゃいただきまーす」

「……」

「うん、やっぱり会長の選ぶものは良品が多くていいね

 ……あれ? ロッカちゃん飲まないの?」

「いえ、ちょっと熱いので」

「あー、そういえば猫舌だったね」


 今度は冷ましすぎないように、冷ましすぎないように


 ……


 くぴっ


「あっつ」

「だめじゃん!」


 マヤはケラケラと私に笑ってみせた。私にその笑顔は

きっとできない。


「マヤ、それ飲んだら仕事に戻りなさい」

「はいはーい」

「ほんとにお茶だけ飲みに来たのね」

「あと寝顔を見にね」

「……」

「そんな顔しないでよ」


 寝起きの顔ほど醜いものはないと誰かが言っていたが、

私の顔もそんな醜い容姿だったのかしら。


「って、そうじゃないそうじゃない! 依頼よ! 依頼」

「え、依頼?」

「そうそう。ちょっとした事件があって、軽くその

 調査をしてほしかったの」

「事件なんて物騒ね」

「そんな他人事みたいに」

「他人事よ。所詮何があっても調べるだけであって助ける

 なんてことはできないんだから」


 救われたければ行動すること。私がここにいるように。


 相も変わらず私のモットーは変わっていない。


「それに、さっきも言ったけど活動はできないわ」

「そっか……」

「……」


 このまま断るつもり。でも私の脳裏にふと"部長"が

現れた。ミコちゃんならきっと……。

 

「……けど、話ぐらいは聞くわ。話をしに来たんでしょ」

「え、ありがとう。やっぱり持つべきは友達!」

「友達の境界線が薄すぎるでしょ」


 私はカバンから手帳を取り出す。手帳から挟まっていた

細身のボールペンを取り出し、まっさらなページを開く。


「それで、何があったの?」

「ロッカちゃん、銅栄墓地って行ったことある?」

「ええ、それはもちろん」


 どころかつい最近訪れたわね。そこは確か、霊が

多くて半分悪魔の神前君もあまり近づきたくない場所

なんだったかしら。とやかく言う私は、家族のため

日々訪れていたんですがね。


「そこで何があったの?……まさか殺z」

「それは警察のお仕事だから、そこまで深刻な事件

 じゃないわよ。ちょっと怖い現象が起きてね」

「怖い現象?」


「墓地の近くの木に藁人形が刺さっていたんだって」

「……それが?」

「怖がらないわね、意外と」

「まぁ、慣れているので」


 その手の恐怖的体験は幼少時代から今の今まで

受けていますから私。その程度で怯えるほど乙女

ではないわ。


「たかが、藁人形でしょ? だれかのいたずらって

 線のほうが濃厚でしょ?」

「だったらよかったんだけどねぇ」

「?」


「それがそこ一帯の木のほとんどに刺さっていた

 としたら……?」


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